人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(18)

 普通これはないんじゃないかなぁ、とチャーリー・ブラウンはボヤきました。どこがやねん?とジェスチャーするスヌーピー(このビーグル犬は筆談はできますが、さすがに人語は発音できないのでミミックで会話するのです……たいがいの人には人間を馬鹿にした犬のような仕草に見えますが)。これだよ。
 手錠だよ!とついに温厚、というよりはお人好し、というよりはうすのろのチャーリーですら我慢がならずに叫びました。そういう時チャーリー・ブラウンは類型的なアメリカ人少年のボディ・ランゲージとして顔は天を仰ぎ、両腕は翼のようにお手上げするのですが、いかんせんチャーリーの右手首はスヌーピーの前肢とつながれていたので右手からはビーグル犬をぶら下げたどこかの抜け作のように見えました。
 彼らの会話を追って記述するより要点をまとめると、つまり彼らは無銭飲食で捕まって押送中に逃げてきたのです。無銭飲食などはアメリカ市民なら当然の権利とまでは言わずとも人生で一度や二度は通る道、今さらながら失敗が悔やまれるのは安易に手錠のままで脱走してきてしまったことでした。せめて手錠が外されるまで待つべきだったのです。
 それにしてもさ、とチャーリー、たとえキミが二足歩行の犬だとしても、普通は人と犬を手錠でつなぐって法はないんじゃないかい!ああそうだよ、共犯だからっていうのが司法の言い分だろうね。だけど未決犯にもちゃんと人権てものがあるのがこの国のはずなんだ!
 うなずくビーグル犬。いや、スヌーピー、勘違いしてもらっちゃ困るけど、人権があるのはぼくで、キミにはない。キミはぼくの私有財産でしかないんだよ。だから?とスヌーピー。だからさ、キミはぼくの私有財産だから……。空いている方の手で握手を求めるスヌーピー
 愕然として現状に直面するチャーリー。余裕の姿勢で忠誠のポーズすらキメるスヌーピー。ああ、そういうことになるのか!要するにぼくは私有財産につながれているだけで、不当な懲罰であることを嘆くこともできないのか。そしてかえって有利な力関係になってしまったこの小型ビーグル犬の呑気きわまる態度!
 二足歩行といっても身長差は歴然とあるので、手首を袖口で隠せば彼らは普通よりちょっとおかしい犬の散歩に見えたでしょう。しかしそれはチャーリーにはビーグル犬の主人として屈辱感を拭いきれないことでした。