人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ谷でつかまえて(19)

 ……ですが当然スヌーピーとその飼い主の身長差は歴然としているので、手首の手錠を袖口で隠せば彼らは普通よりちょっとおかしい犬の散歩に見えたでしょう。しかしそれはチャーリーには拭いきれない屈辱感を味わわされることでした。チャーリーはぼんくらですが、標準価格米だってお米には違いないように自由に権利を主張できる一人の少年です。
少年法の定める範囲内なら
 ねえパパ、少年法ってどんなものなの?と偽ムーミンが握り寿司の練習をしながら訊きました。お前学校の予習はいいがテレビのながら見しながらではいけないではないか、とムーミンパパは注意して、少年法?そりゃ大人にならんとお○○こしてはいかんということさ、と説明して高笑いしました。ムーミンパパは気の利いたことを言ったと悦に入ると哄笑するのです。ただし気の利いたことを言う権利はムーミン谷ではただ一人、自分しかいない、という点でムーミンパパはスノークやヘムル署長、ヘムレンさんやジャコウネズミ博士と明らかに対立関係にありました。
 もっとも彼らも同盟関係では常に腹に一物持つものがあり、誰がいつどのように誰かの寝首を掻いても当然のような不穏さで彼らムーミン谷の知識人層は結びついていました。ある朝ジャコウネズミ博士が起きるとヘムル署長に寝首を掻かれており、それはヘムレンさんの教唆によるものだと思い当たったスノークムーミンパパに相談に行くとそれは罠で結局血祭りに上がったのはスナフキンだった、というたぐいの悪夢に全員が夜な夜なうなされている町、それがムーミン谷というおとぎの世界でした。
 お○○こ?と偽ムーミンはいちご摘みから帰ってきたムーミンママの気配を察知しながら訊きかえしました。なあにそれパパ、まだぼく学校で習ってないよ。
 ムーミンパパは夕食の支度にお新香を切るママの包丁の刃音を聞きながら、ママ今夜のお新香は何かね?ん、大根?そういうことだ。お前は今までおしんこが大根だということも知らんで食べていたのかねムーミン?さすがの偽ムーミンもこのはぐらかしには大人は汚いと思いましたが、ムーミン谷では設定年齢と実年齢は必ずしも一致しないのです。
 その頃チャーリーとスヌーピーは再び危機に陥っていました。手錠でつながれ、食い逃げから砂漠で一昼夜、彼らは再び餓えに襲われていたのです。次回第二章完。