人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ谷でつかまえて(20)

 昔広島県の人から聞いた話だけどさ、とチャーリー・ブラウンは言いました。敗戦後は食糧難の時代がずっと続いて、毎日沖へ出てはタコばかり食べてしのいだ人もいたんだって。タコだよタコ、とチャーリーはフーッとため息をつきました。毎日毎日タコ。信じられる?
 スヌーピー阿波踊りのポーズをしました。チャーリーのMPを下げようとしたのではなく(そんなものはもともとありません)それが彼らの会話方法なのです。いや、売ってお金にすればいいってもんじゃないんだよ。キミはエントロピーの法則というのを知ってるかい?食費に十分なお金を得るだけのタコを採る労力は売り上げに釣りあわないんだ。漁業全体のエネルギーは目減りしていく一方なんだよ。ああ!
 パパもフレデリクソンさんやスニフのお父さんたちと航海に出ていたことがあるんだよね、と偽ムーミンは振りました。冒険家時代の話にくいつくか機嫌をそこねるかでムーミンパパのだいたいの調子はわかるのです。その辺が安定していないあたりがムーミンパパのメンタルの弱さですが、若い頃のムーミンパパ(当時ムーミン)をよく知るフィリフヨンカさんやヘムル署長は「明るいわんぱくな子だったよねえ」と一瞬笑顔になり、慌てて神妙な表情に戻るのがたびたびでした。
 タコの話はよそう、だいたいぼくが広島県の人から話なんか聞く機会があるものかい。これはムーミン谷について書いた本で読んだんだ……というか、ペパーミント・パティがそう言ってた、読書家だからね。スヌーピーはほう、という表情をしました。
 鳥ではカラス以外はだいたい食える、カラスは臭くて食えない。猫はまずいが犬はだいたい食える、特に赤犬が美味いそうだ。赤犬というのは、国によって黄色とかオレンジとか呼び方は違うけど、要するに人なら茶髪、犬なら赤茶けた毛並みなんだろう。
 かんかん照りの砂漠の陽差しの反映と、吹きつける風でたっぷり砂塵を含んで、今やスヌーピーは申し分なく生まれつきの赤犬のような見かけになっていました。
 これまでキミはぼくの親友ということになっていたけど、手錠でつながれてはっきりわかった。キミはぼくの私有物、エントロピーの法則に従うならば、たとえ売っても餓えをしのぐに足りない程度なんだよな。どちらかが犠牲になるしかないなら、おたがい一方が人間、一方が犬に生まれたのを恨もうじゃないか。
 第二章完。