人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(21)

 第三章・疾風丑の刻詣りの巻。
 あらヤダわ、とみさえはひまわりの添い寝から起き出しながら柱時計を確かめました。まだしんちゃんの帰りまで買い物行ってくる時間はあるかしら。柱時計はひろしが会社の後輩の結婚式の引き出物でいただいたものでした。
 最近の引き出物は気が利いてるよなー、カタログで好きなもの選べるようになっているんだぜ。最近、といっても野原一家は半永久的に夫35歳・妻29歳・長男5歳・長女0歳から歳をとらないのですが、この場合の「最近」は1990年代後半と思われます。ほーら、とひろしがバブル時代のニッセンほどではないが、地方の職業別電話帳よりはずっと分厚いその冊子を、ずい、と封筒から取り出すやいなや、
・ダイエットヨガをしていた妻みさえ
・ブタの絵を描いていた長男しんのすけ
・テレビのアイドル番組を観ていた長女ひまわり
 ……が正確に120度ずつ三方の角度から迫ってきました。単に欲が深いからわれ先にと無我夢中なだけですが、こういう時にはチームワークが良いのが野原家の憎めないところです。
 オラはカンタムロボ!あなたジュエリーない?あままままあ。いいからまず落ち着け、みんな座れ(ひまちゃんはママのおひざね)。まずは家長のおれがだな……(よっ課長!うるさい!)。ええと、ここからここまでのページは時計か。カンタムロボ!うるさい!それから……時計……時計……時計……。あなたこれ時計しか載ってないカタログじゃない!おかしいなあ、気の早い連中なんか式のはねた後すぐ開いて喜んでたけどなあ。あなた間違えてもらってきたんじゃないの、きっとランクがあるのよ、時計ばかりじゃカタログの意味ないじゃない!仕方ないだろっ、それよりビール、ビール。はいっ、今日は発泡酒ね、それもレギュラーサイズの!なんだよ、おれのせいかよ!課長だけに……(両腕を短針長針にして)カッチョン、カッチョン。お前はうまいこと言わなくてもいい!
 という事情で野原家の居間を飾っているのです。そうね、まだ二時間くらいは……とみさえが伸びをしていると、シロの喜びの鳴き声から間髪入れずしんのすけがドドドドと玄関から突進してきました。どうしたのよしんのすけ、幼稚園は、と尋ねるみさえに、しんのすけは、
「タイヘンなんだゾ、今スヌーピーが……」
 とだけ言うと、また外の世界へ駆け出して行ったのです。