人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(24)

 キミが口先三寸のビーグル犬だってことは誰もが知ってる、とチャーリー・ブラウンは苦々しい口調で言いました。そしてぼくは飼い犬にも劣る知性の少年の役割、コメディ・リリーフってやつね、そういう役割なのも承知してる。ぼくらはピーナッツ世界の住人だからね。
 だけど今、こんな状況じゃぼくたちはデフォルトの設定が通用しない事態に陥ったと考えるしかない。つまり……もう何度もつまりと言ってきたような気がするが、今やぼくたちは絶体絶命の窮地にいる。キミだってそのくらいは承知のはずだ。
 普段チャーリーがこれほどの長広舌を繰り広げることはめったにありません。しかしスヌーピーの態度はのれんに腕押し、柳に風といった様子なのが偽ムーミンにも妙に不吉な予感を抱かせました。もしピーナッツの世界が崩壊するならば、このムーミン谷もピーナッツ・タウンの平行世界ですから、ドミノ倒し式にムーミン谷の成立基盤も崩壊しないとはかぎらない。その時には、偽ムーミンは今ある偽ムーミンとの同一性を保てなくなってしまうかもしれません。それは偽ムーミンにとって、もっとも望ましくない変化でした。しかし……。
 チャーリーの預かり知らぬところで、偽ムーミンが唯一希望を託せるとしたら、それは野原しんのすけの存在でした。しんちゃんにとってスヌーピーたちが従来通りであり、ムーミン谷が同じムーミン谷として判別されているならば、しんちゃんの認識の中にはピーナッツ世界もムーミン谷もそのままのかたちで存在しているのです。しんちゃんにとって虚構と現実が同一線上に混在している事態は、
アクション仮面
・カンタムロボ
・ぶりぶりざえもん
 ……の具現化からも明らかです。しかし偽ムーミンたちの世界から見れば、しんのすけの住む世界で実在しているのはただ一人しんのすけだけで、チャーリーとスヌーピーにとってパインクレスト町がそうであるように、春日部市自体がしんのすけの存在によって出現した仮構の空間にすぎないのでした。野原ひろし、みさえ、ひまわり、幼稚園のみんな、もちろん春日部ぼうえい隊もすべてはしんちゃんの悪夢の生んだキャラクターにすぎなかったのです……偽ムーミンから見れば。では、と偽ムーミンは考えました。おれも誰かに見られている、その夢の中の存在にすぎないのだろうか?