人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

たぬきわかめうどん

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律(女子高生)「たぬきうどんとか?」
紬(同級生。財閥令嬢)「まあ、それってどんな食べ物?」
律「うどんに丸ごと狸が乗っかっているんだぜ(笑)」
紬(真に受けて)「おお!」

 ……というシーンがアニメ『けいおん!』にあったが、リアリズムの観点でもヨーコ・オノのような財閥家令嬢なら確かにたぬきうどんなど食べたこともあるまいが、「そういう食べ物もあると存じ上げてはいます」と真顔で返されるに違いない。少なくともたぬきが丸ごと、と真に受けはしまい。猪なべのように、肉すきうどんに狸肉が使われていると誤解はするかもしれないが。
 
 きつねは油揚げが好き、という民間伝承からきつねうどんの呼称が定着し、ならば天かすを添えたものをたぬきうどんと呼ぼう、というのは江戸前の発想らしい。京阪神では天かすは客が好みで自由に取ってよいものだったから、とくに呼び名はつかなかった。
 化かす動物ということできつねとたぬきは一対だったわけだが、たぬきが天かす(揚げ玉)が好き、という根拠は民間伝承にもないわけで、外国人に納得のいく説明をするには難儀するだろう。われわれも外国の料理については突拍子もない名称で突っ込みたくなる時がある。「これのどこがたぬきやねん!?」と言われれば、確かに返す言葉もない。

 だが、たぬきうどんだからまだ良かったとも思える。たぬきとむじなは厳密には(実際は混同されているが)異なるらしいが、むじなうどんと言ったらもう猪なべ同様むじなの薄切り肉がスキヤキ状に入っていないと「むじな」を名乗る資格はない気がする。
 猪肉はご存知の通り、栄養豊富かもしれないが癖があり、薬味で和らげないとちょっと抵抗感があるものだ。それを言えば飼育して食用肉にするのが定着していないのだから、きつねやたぬきも推してしるべし。鶏のような大量飼育も管理のしやすさもないし、牛や豚より個体が小さいので効率は悪い。物好きな人が趣味で狩ってきて燻製にしていただくくらいのものだろう。

 家庭を持っていた頃、三歳くらいの娘の手を引きながら近所を散歩していて狸の実物に遭遇したことがある。広大な自然公園から1キロも離れていないので人里に下りてきたのだ。狸はちょうど人家の玄関先で犬小屋の犬をヴーッと唸り声をあげて脅しており、われわれに気づくやいなや全身を総毛立ててガーッと唸った。ひらがなでたぬきと書くと童話に出てくる動物みたいでかわいいが、実物の狸は野生動物で、しかも攻撃的な猛獣なのだ。あれと戦って逃げるならともかく、勝てる気はしない。小型なだけにすばしっこくて、娘を抱き上げて慎重に離れたが内心はびくびくものだったのだ。