人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Can-"Tago Mago"Germany,1971

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Can - Paperhouse(TV-Show,1971) : http://youtu.be/kvptRAfYpWM
 この7分ほどのテレビ出演ライヴがカンの音楽を知るには最適だろうと思われる。カンは1969年にアルバム『モンスター・ムーヴィー』でデビューした西ドイツのバンドで、1979年のアルバム『カン』まで12作(うち2枚組2作)を発表して解散した。解散後の81年にデビュー・アルバム期の未発表曲集『ディレイ1968』があり、また89年には一時的に再結成してアルバム『ライト・タイム』を発表している。この2作はデビュー・アルバムでリード・ヴォーカリストだったマルコム・ムーニーの参加作で、セカンド・アルバム『サウンドトラックス』1970は半数がムーニー在籍時、半数が新ヴォーカリストダモ鈴木が参加。そしてダモ鈴木全面参加の初アルバムとなった『タゴ・マゴ』1971は2枚組全7曲の大作でUAレーベルから英米発売され、ヒット曲『スプーン』を生んだ次のアルバム『エーゲ・バミヤージ』1972、ダモ鈴木参加の最終作で完成度では絶頂に達した『フューチャー・デイズ』1973まではどれも掛け値なしにドイツのロックが生んだ傑作と言えるものだった。翌74年にヴォーカリストを補充せず『スーン・オーヴァー・ババルマ』を発表したバンドは『タゴ・マゴ』以来評価の高かったイギリスに進出しヴァージン・レーベルと契約、新作3作、UA時代の未発表曲集1作(2枚組、ムーニー在籍時・ダモ在籍時混在)を発表しヒット曲も出たが、EMIに移籍して2作の契約を満了し解散した。UA時代、EMI時代の版権はすべてバンドが保有し、とりわけUA時代のアルバムはメンバーが共有する専用スタジオを設立して2トラック・レコーダーで録音されたという驚異的な制作方法をとっていた。
 カンは元々現代音楽家のイルミン・シュミット(キーボード)と前衛音楽家のホルガー・シューカイ(ベース)、フリージャズ・ドラマーのヤキ・リーベツァイトが立ち上げたバンドで、1968年にこの3人は30歳だった。シューカイの音楽生徒のミヒャエル・カローリが弱冠19歳ながらロック好きという理由でギタリストに誘われ、アメリカから留学中の20代の黒人画家マルコム・ムーニーがヴォーカル経験がないという理由でヴォーカリストになる。カンはデビュー・アルバムでザッパ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドジミ・ヘンドリクス、ドアーズと並ぶ大傑作を作ってしまったが、ムーニーはホームシックにかかって帰国してしまう。
 そこでバンドは路上でパフォーマンスをしていた19歳の日本人ヒッピー・ダモ鈴木を勧誘し、ダモはロック・バンドだというからツェッペリンやグランド・ファンクみたいなのをやるのだろう、と思って加入したらしい。ところがカンは曲は作らずセッションからわいたアイディアからアンサンブルしていく、というバンドだった。そこでカンはヴォーカルだけは演歌ロックっぽい変なバンドになったのだった。
 ダモ鈴木が寿脱退(つまり結婚)のためバンドを離れた後カンは、3作はドイツ人メンバー4人だけで、さらに3作はイギリスの黒人メンバー2人を加えて活動したが、デビュー作から『フューチャー・デイズ』までの成果は得られなかった。89年の一時的再結成アルバムはムーニー参加によるデビュー作と同じメンバーで好作となり、ムーニーもダモ鈴木も音楽活動を再開するようになった。二人が親しいのは99年の『カン・ボックス』収録のドキュメンタリー・ヴィデオでもわかる。
 カンの最高傑作はデビュー作から『フューチャー・デイズ』までの5作で好みが分かれるだろうが、最大の規模でもっとも実験的な試みに成功したのが2枚組アルバム『タゴ・マゴ』なのは評価が定着している。ダモ鈴木のヴォーカルは苦手な人もいるだろうが、このアルバムはパブリック・イメージ・リミテッドやジョイ・ディヴィジョンからジーザス&メリー・チェイン、プライマル・スクリーム、オアシス、レディオヘッドまでのちのUKロックに決定的な影響を与えた名盤なのだ。2012年には未CD化ライヴをボーナス・ディスクにつけてイギリス盤ジャケットをエンヴェロープにした40周年記念盤が出たが、初回限定だったらしく現在2万6千円のプレミアをつけている。
 それはともあれ、メドレーになっているA面3曲の鋭さはどうだろう。これがアレンジされた演奏ではなく、たった2トラックのレコーダーで録音されたとは信じがたい。駆け出し社会人時代にあー早く帰ってカン聴きたいなあ、と思う時も具体的にはタゴマゴが聴きたかった。A面3曲だけでもご試聴ください。
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Can -Tago Mago 1971 (full album): http://youtu.be/IxGfuOmzfQo
Recorded November 1970-February 1971 at Schloss N??rvenich, near Cologne, Germany
Released February 1971
A1. "Paperhouse" 7:28
A2. "Mushroom" 4:03
A3. "Oh Yeah" 7:23
B1. "Halleluhwah" 18:32
C1. "Aumgn" 17:37
D1. "Peking O" 11:37
D2. "Bring Me Coffee or Tea" 6:47
All songs written and composed by Holger Czukay, Michael Karoli, Jaki Liebezeit, Irmin Schmidt and Damo Suzuki.
[Personnel]
Damo Suzuki ? vocals
Holger Czukay ? bass, engineering, editing
Michael Karoli ? guitar, violin
Jaki Liebezeit ? drums, double bass, piano
Irmin Schmidt ? keyboards, vocals on "Aumgn"
"Tago Mago is the third album by the German krautrock band Can, and was originally released as a double LP in 1971 by United Artists. It was the band's second studio album and the first to feature Kenji "Damo" Suzuki after their previous vocalist, Malcolm Mooney, quit the band in 1970 to return to the United States.
Tago Mago has been described as Can's most extreme record in terms of sound and structure.The album has received much critical acclaim since its release and has been cited as an influence by various artists."(Wikipedia)
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 実際は40周年記念盤のボーナス・ディスクのライヴは、ピーター・プレグゴダ監督の映画『カン・フリー・コンサート』のライヴ音声だけディスク化したもので、99年のボックスで映画はドキュメンタリーとともにヴィデオテープで収録されており、2003年には『カンDVD』として初ディスク化されている。この映画は名高く、音声だけがブートになったりしてきたから『カンDVD』も『タゴ・マゴ』ボーナス・ディスクもオフィシャル化の意義は十分ある。約50分で3曲しかやっていない。カンは70年代のバンドではあるが、実験精神は60年代後期ロックの過激さを保っていた。ライヴ映画『フリー・コンサート』を観ればドアーズ、サバス級のその呪術的なステージの様子がわかる。ただし、テレビ出演映像や『タゴ・マゴ』でバンドの音楽性をつかんでいないとあまりにハードルが高いのではないか、という懸念もあります。
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Can - Free concert (Sporthalle Cologne 1972): http://youtu.be/9FaydRUQ42Q
1. Mushroom~Paperhouse
2. Spoon~Love Me Tonight~Bring Me Coffee or Tea
3. Halleluwah