人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(32)

 うさんくさいと思っているんだろう?とライナスは弟のベッドに腰かけながら言いました。悠長にしているひまはありませんが、リランは着替えが遅いのです。ルーシーなどはあんたは服着たまま寝ればいいのよ!と日頃からカリカリしていたくらいでした。まあルーシーはいつでもカリカリしている姉ですが。
 リランは答えませんでしたが、それは無愛想からではなく、兄に言われるまでもなくそんな売薬の効き目など信用できず、ましてや医師の見立てでも今日の午前中持つか持たないかという病人に、兄の提案通り吸入でまだ苦痛を和らげてあげる程度ならともかく、言わば臨終間もない病状に気休めみたいなものをあつらえてどうにかなるものか、という呆れた気持からでした。だいたい名称からして呼吸器系の疾患に効く薬とは思えません。何とかの虫、のたぐいというくらいですから、たぶん古くからある伝承薬なのでしょう。
 たぶん古くからある伝承薬のたぐいだとは思うけどね、とライナスが言ったのでリランはギクッとしましたが、うん、とうなずくと、でも本草学を馬鹿にしちゃいけないぜ。近世までの医学は解剖学と薬学だが、薬学とはつまり植物学だったんだから。植物学とはつまり自然科学で、自然科学とはあるがままの生態系環境を知ることだ。もし政治的にも軍事的にも経済的にも宗教的にも何の権限も持たない王様を王と定めた国があるなら、たぶん象徴的な意味で自然科学をお修めになるに違いない。
 それはそうかもしれないけれど、とリランは見当たらない靴下の片方を探しながら、だったら兄さんが、と喉もとまで出ましたが、ライナスはあちこちに電報を打つやら吸入の依頼に行くやらで先にすることがある、と言うに決まっています。だからリランに頼むのだ、と言うでしょう。ライナス自身がそんな虫の薬などあてにしてはいないのです。なのにリランに頼むのは母さんの指図を代行してほしいからで、これだって虫のいい話です。
 ですが役割を交替してリランが電報を打つのは兄弟の順位表からして変ですし、ライナスが手配するなら反対はしませんが、リラン自身はこの期に及んでの吸入には大して積極的にはなれませんでした。それに……リランには懸念もありました。リランはライナスに尋ねました。
チャーリー・ブラウンスヌーピーたちも呼ぶの?