人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(50)

 チャーリー・ブラウンが起き上がると、スヌーピーは通りひとつ分、離れたところにいました。実際に通りがあったわけではありません。彼らは見渡すかぎりの荒野にいたのですから。そしてこの荒野はサボテン1本生えておらず、乾いた沼地のように地面のあちこちがひび割れていました。わらのような、動物の毛のようなものがかたまりになって時たま風に吹かれていましたが、それは西部劇で見かけるタンブルウィードと呼ばれるもののようでいて、とうてい命あるもののようには見えませんでした。海底でいうなら珊瑚礁のようなものかもしれないな、とチャーリーはぼんやりと、いつか観たテレビ番組を思い出しました。テレビではたいがいの珍しい景色は教えてくれますが、チャーリーが今いるような旱魃しきった死の荒野は、チャーリーの記憶ではテレビでは観た憶えがありませんでした。なぜならここまで荒廃した景色は単調なだけで誰にとっても面白くも何ともなく、目の保養にもならなければ興味をそそりもしないからです。
 人が生きるため都会に集まってくるのなら、こんな荒れ果てた旱魃地帯には死ぬためにしかやってこないでしょう。チャーリーはどうやら距離を取っている様子のスヌーピーを見ながら強く思いました、今は争っている時ではない、協力してこの窮地を何とかしなければならない、と。ですがそれをいかにしてこの頑固なビーグル犬に納得させるかは、これまでのつきあいからしても多大な困難を乗り越えなければならなそうでした。スヌーピーの一筋縄ではいかない性格をチャーリーは身に沁みて知っており、だからこそいつもスヌーピーは押しの弱い性格のチャーリーに対して優位に立ってきた、という関係性がありました。チャーリーにもし考えがあるとしても、それはスヌーピーによる提案という迂遠な手続きを経なければ円滑に進むことはないでしょう。
 ねえスヌーピー、とチャーリーはおずおずと呼びかけました。スヌーピーはチャーリーに視線を返しません。ウッドストックがナイフをくわえてスヌーピーに差し出しました。スヌーピーはナイフを取ると、おもむろに手首を切り、さらに自分のからだ中を切り裂き始めました。その様子はご機嫌そのもので、喉をかき切って声が出なくなるまでしわがれた笑い声を上げながら自分を切り刻んでいたのです。それはチャーリーには止めようがなく、おそらく手当ての手段もないことでした。
 第五章完。