人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(55)

 太陽が北から差していました。チャーリーは南に長く延びる影を見てもう正午が近いのに気づき、これから日没までにどれだけ歩けるか考えていました。この荒地は乾ききって日差しを遮るものもないので、気温がピークに達する午後2時~4時頃には摂氏40度を越える高さになります。ですが日没後の冷え込みも激しく、摂氏で言えば零下20度にはなるので、凍え死なない方法は唯一地面に穴を掘って埋もれて眠ることでした。土中なら、灼熱の日中に照らされてそこそこの暖かさが保たれているのです。それは日中でも言えることで、夜間に冷えた土中の方が大気にさらされるよりも涼しいのですが、それではチャーリーはいつまでたっても土に埋もれていなければなりません。幸い湿度が極端に低いため摂氏40度は体感温度ではさほどに感じずには済みますので、凍える夜よりはなんとか活動できました。夜、星空の明かりは人工の光のない荒野では景色をフィルムのネガのように照らしていました。それはチャーリー・ブラウンから時間の感覚を奪い、起きるとチャーリーは自分が一晩眠っていたのか、それとも何日も意識を失っていたのかわからなくなるような気がするのでした。
 はっ、と偽ムーミンはようやく、このままムーミンを放置して自分と入れ替わったままにしておくとそのまま元に戻れなくなる可能性に気づいて、激しく動揺しました。可能性はいくつかあり、自分がこのままムーミンを演じつづけなければならない場合もあれば、ムーミンを失えば偽ムーミンは何者でもなくなる可能性もあると考えられました。しかも偽ムーミンにはどちらにも既視感があったのです。つまりそれはこれまでも何度となく偽ムーミンムーミンに取って代わるなり、ムーミンの消滅ともども偽ムーミンの消滅があり、その都度ムーミンと偽ムーミンは新たな存在に更新されてきた痕跡とも思えました。おそらくムーミンにはその記憶はなく、偽ムーミンは偽者だからこそかすかに上書きされた記憶を残していたのでしょう。または、自分の存在はその役割のためなのではないか、と偽ムーミンは唖然としました。
 その頃リランは兄に頼まれたイボタの虫を買いに町をうろうろしていました。もしかしたらライナスは時間稼ぎのために自分に無用な買い物を任せたのかもしれない、でも何のための時間稼ぎなんだろうか。リランは自分だけ除け者にされているような気がしてくるのでした。