人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Black Sabbath Paris 1970 Live (Full Concert)

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Black Sabbath Paris 1970 Live (Full Concert) : http://youtu.be/clySTJtd81c
Recorded live at Paris,December 20th, 1970 (TV Broadcast)
0:00 Funny Intro
1:53 Paranoid
5:16 Hand of Doom
13:18 Iron Man
19:50 Black Sabbath
31:15 N.I.B.
37:15 Behind the Wall of Sleep
42:45 War Pigs
51:00 Fairies Wear Boots
[Personnel]
Ozzy Ozbourne - Vocals
Tony Iommi - Guitar
Geezer Butler - Bass
Bill Ward - Drums

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 ブラック・サバスのデビュー作『黒い安息日』(全英8位)は1970年2月13日(金曜日)発売、セカンド・アルバム『パラノイド』(全英1位)が同年9月発売だからこんな美味しい時期のライヴ映像はない。サード・アルバム『マスター・オブ・リアリティ』(全英5位)が71年8月発売で、セカンド発売直後の名演では公式録音されたこのパリ公演が、サード発売直後(実際には発売登録の前月に発売されていることが多い)の名演では71年7月18日のカナダのトロント公演が有名な音源で、次の『ブラック・サバスIV』からはサバスは徐々にアメリカ市場を意識するようになる。しかし新人ハードロック・バンドとしては、アート・ロックからハードロックに仕切り直したディープ・パープルを人気でもセールスでもしのいでいたので、70年代末の低迷期のせいで一時はサバスの旧作はすべて廃盤になっていた。80年代初頭、サバスが21世紀にはオリジナル・メンバーで復活して大物中の大物になっており、初期アルバムは21世紀のバンドにもヘヴィ・ロックの古典として賞賛されている、と予測できた人はいなかっただろう。本人たちですら、自分たちの音楽的価値に自信を持てずに活動していたのだ。

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 このライヴ映像を観ると、ギミックのない地味なくらいのステージながらバンドの強力な一体感を感じる。全員が憑かれたように演奏しているのだ。このライヴは音源だけでも長く流通していたが、ライヴを聴くとアレンジは同じ、1曲の演奏時間も同じなのにスタジオ盤とは演奏の熱量が段違いで、スタジオ盤に戻れなくなる。楽譜に起こせば同じでも、ライヴでこれだけ差が出るのは音楽に反映する精神性というのを強く感じる。個々のメンバーをよく観ても面白い発見がある。
 ヴォーカルのオジー・オズボーンのマイクはどんな映像を観ても2本束ねてある。オジーの声質は声帯の割れたようなざらついた残響があるが、おそらくストレートにミキサー卓(またはアンプ)に直結したマイクと、フランジャー系のエフェクターを経由するマイクの2本に分けているのだろう。スタジオ録音ではヴォーカルのダブル・トラックのダビング作業が出来るが、ライヴでダブル・トラック効果を出すための考案だと思う。イコライジングしてヴォーカルやラップでノイジーなエフェクト効果を狙うのはダブやヒップホップ、インダストリアル系音楽にはよくある手段だが、サバスは1970年にもうそれをやっていた。

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 バンドのコンセプト・メーカーで作詞家であるジーザー・バトラーのベースは80年代以降のヘヴィ・ロックを先取りするような重低音を弾いており、キーボードもセカンド・ギタリストもいないサバスのサウンドを支えている。トニー・アイオミはオクターヴ奏法やベースとのアンサンブルではジャズ・ギターの基本をしっかり身につけたギタリストながらインプロヴァイザー型ではないが、短音・複音・コードを自在に組み合わせたソリッドで巧みなプレイには玄人好みな渋さがある。アイオミが左利きなのはすぐわかるが、フレットを運指する右手指に注目。薬指が短く、黒いキャップをはめている。アマチュア時代に仕事中の怪我で薬指の第一関節を切断したそうなのだ。演奏はそんなハンディをまったく感じさせない。
 そしてドラマーはどのバンドでも名物男だが、ビル・ワードのドタバタしたドラムスはリズム・キープより表現力を優先した大胆な演奏で(リズム・キープはバトラーのベースが基準だから)、ハイハット・ライド・クラッシュ各1のシンバル、バスドラとスネア各1、フロアタムとバスタムの2タム、これだけシンプルなドラムセットで変幻自在なドラミングを聴かせてしまうのだ。オジー、トニー、ジーザー、ビルの4人からなるオリジナル・サバスには確かにバンドならではのマジックがあった。

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 演奏曲目は『黒い安息日』『N.I.B.』『眠りのとばりの陰に』がデビュー・アルバムから、『パラノイド』『ハンド・オブ・ドゥーム』『アイアン・マン』『ウォー・ピッグス』『フェアリーズ・ウェア・ブーツ』がセカンド・アルバムからで、ブラック・サバスはデビュー・アルバムでレパートリーを使い果たしてアルバム毎にギリギリで新曲を作っていたそうだからまだサード・アルバムの曲はない。セカンド・アルバムから演奏されていないのはダウナーなエレクトリック・フォークの『プラネット・キャラヴァン』、インストの『ラット・サラダ』、構成の凝ったヘヴィ・ロックの『エレクトリック・フュネラル』の3曲だが、前2曲はライヴ向けではないので外され、『エレクトリック・フュネラル』は『ハンド・オブ・ドゥーム』や『フェアリーズ・ウェア・ブーツ』と作風が重複するので割愛されたのだろう。デビュー・アルバムで曲を使い果たしたバンドが、半年足らずのセカンド・アルバムでこれだけ名曲揃いの作品を制作できたことには驚かされる。サード・アルバム『マスター・オブ・リアリティ』、『ブラック・サバスIV』、『血まみれの安息日』、『サボタージュ』までは70年代サバスの傑作(『血まみれの安息日』当時の発掘ライヴ『ライヴ・アット・ラスト』も)と言える。
 サバスのようにメンバーが現役健在中に再評価が高まり、その再評価の正当性が定評となり、全盛期以上に音楽そのものを愛され、しかも存在感もあるバンドは珍しい。こうして初期の初々しいライヴ動画を観ることができるのも実に清々しい気分になる。