人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Camel live BBC Sight and Sound Concert 1977

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Camel live BBC Sight and Sound Concert 1977 : http://youtu.be/NdkPou4f8QE
Recorded Live in Concert at the Hippodrome, September 22, 1977
01. 光と影 First Light (Latimer,Bardens)*/+
02. メトロノーム Metrognome (Latimer,Bardens)*/+
03. 心のさざ波 Unevensong (Latimer,Bardens,Ward)*/+
04. 醜い画家ラヤダー Rhayader (Latimer,Bardens)#
05. ラヤダー街へ行く Rhayader Goes To Town (Latimer,Bardens)#
06. スカイライン Skylines (Latimer,Bardens,Ward)#/*
07. 太陽のハイウェイ Highways Of The Sun (Latimer,Bardens)*
08. 月の湖 Lunar Sea (Latimer,Bardens)#
09. 雨のシルエット Rain Dances (Latimer,Bardens)+
10. ネヴァー・レット・ゴー Never Let Go (Latimer)#
11. 夜のとばり One Of These Days I'll Get An Early Night (Latimer,Bardens,Collins,Sinclair,Ward)*
# - included "A Live Record"(1978)
* - included "Raindance"(1978) Bonus Additional Tracks(2009 Reissue)
+ - included "A Live Record" Bonus Additional Tracks(2002 Reissue)
[Personnel]
Andrew Latimer - guitars, flute, vocals
Andy Ward - drums, percussion
Richard Sinclair - bass, vocals
Peter Bardens - keyboards, synthesizers
Mell Colins - saxophones, flute, percussion

 キャメルはデラム・レーベルの先輩バンドであるキャラヴァンと並んで、プログレッシヴ・ロック系ブリティッシュ・ロックの良心とも言えるような存在だろう。どの辺が良心かというと、丁寧なアルバム作りを続けてきたがハッタリめいたところは微塵もない。カリスマ性のあるスターがメンバーにいるわけでもない。プログレッシヴ・ロックハード・ロック同様ハッタリ勝負の面があり、イメージ的には似ても似つかぬキング・クリムゾンブラック・サバスが案外曲のアイディアやアレンジは似ていたりする。ハッタリとカリスマが紙一重なのは言うまでもない。ロックは元々アメリカの音楽だから、イギリスに渡るとアメリカ本国のロックよりデフォルメが激しいものになった。
 だからキャラヴァンやキャメルのように飾り気なくロックを演っているバンドは珍しい。キャラヴァンはキャメルよりさらに優れたバンドだと思うが、キャメルとほぼ同数のアルバムを制作しながらセカンド・アルバムからのシングルが唯一チャート下位に入っただけで、アルバムもその唯一のヒット曲以外のシングルも一度もチャートインしなかった。キャメルはデビュー以来1985年に一旦解散し、1991年以降はギタリストのアンドリュー・ラティマーのソロ・プロジェクトとして現在も断続的に活動を続けている。1985年までのディスコグラフィを上げよう。

[ Camel Album Discography ]
01. Camel (1973)
02. Mirage (1974) (US Billboard No.149 - 13 weeks on chart)
03. The Snow Goose (1975) (UK No.22 - 13 weeks on chart) Certified Silver
04. Moonmadness (1976) (UK No.15 - 6 weeks on chart) Certified Silver
05. Rain Dances (1977) (UK No.20 - 8 weeks on chart/US Billboard No.136)
06. A Live Record (1978) (live, various venues 1974,1975,1977)
07. Breathless (1978) (UK No.26 - 1 week on chart/US Billboard No.134)
08. I Can See Your House from Here (1979) (UK No.45 - 3 weeks on chart/US Billboard No.208)
09. Nude (1981) (UK No.34 - 7 weeks on chart)
10. The Single Factor (1982) (UK No.57 - 5 weeks on chart)
11. Stationary Traveller (1984) (UK No.57 - 4 weeks on chart)
12. Pressure Points: Live in Concert (1984) (live, 11 May 1984, Hammersmith Odeon, London, UK)

 キャラヴァンほど地味ではないが、いわゆる人気バンドというには控えめなチャート・アクションを維持していたのがお分かりになると思う。イギリスでは『ムーンマッドネス』の15位、アメリカでは『ブレスレス~百億の昼と千億の夜』の134位が最高位になっている。セカンド・アルバム『ミラージュ(蜃気楼)』からライヴ盤を含む第7作『ブレスレス』が最盛期で、次の『リモート・ロマンス』『ヌード』『シングル・ファクター』『ステーショナリー・トラヴェラー』と下降していき、解散ツアーからのライヴ盤でキャメルの歴史は一旦幕を下ろす。80年代を迎えて苦戦しながらも、人気凋落期に5枚ものアルバムを残した意地が泣ける。『ブレスレス』を最後にオリジナル・メンバーはラティマーとドラムスのアンディ・ワードだけとなり、ワードも『ヌード』を最後に脱退してしまうから『シングル・ファクター』と『ステーショナリー・トラヴェラー』は実質アンドリュー・ラティマーのソロ・アルバムだった。解散ツアーから収録した『プレジャー・ポイント』は新旧キャメル在籍メンバーによるフェアエル・ライヴにふさわしいライヴ・アルバムになったが、全盛期を捉えた『ライヴ・ファンタジア』と較べると、キャメルも終わってしまったんだなあ、と寂しい気分になる。

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 (『雨のシルエット』"Rain Dances")
 このライヴは元々イギリスBBC放送局のテレビ番組『サイト・アンド・サウンド』からで、バンドはアルバム『雨のシルエット』のプロモーション・ツアー中だった。公式発売されているDVD『Moondances』には前年76年4月14日、ハマースミス・オデオンでのライヴが併せて収録されており、『ムーンマッドネス』プロモーション・ツアーでのオリジナル・メンバーの演奏が観られる。ベースはダグ・ファーガソンで、ヴォーカルはラティマー自身が担当している。ファーガソンが脱退し、ベースとヴォーカルに元キャラヴァンのリチャード・シンクレア、サックスとフルートに元キング・クリムゾンのメル・コリンズが加わったのが『雨のシルエット』のキャメルで、このBBC放映用ライヴと同じ『雨のシルエット』ツアーから収録された音源が半分に、ファーガソン在籍時のライヴから代表曲2曲と、さらに『白雁(スノー・グース)』のオーケストラ入り全曲再現ライヴ(ファーガソン在籍時)を2枚組に収めた76年までのキャメルの集大成ライヴLPが『ライヴ・ファンタジア』だった。曲目表に印をつけた通り、このBBC映像は『ライヴ・ファンタジア』の最新ライヴの映像版と言ってよい。

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 (『ライヴ・ファンタジア』"A Live Record")
 ただし演奏の出来は複数箇所のライヴからベスト・テイクを選び抜いた『ライヴ・ファンタジア』に分がある。シンクレアは加入するやそれまでラティマー担当だったリード・ヴォーカルに回ったが、歌の上手さから言って当然だろう。メル・コリンズもラティマーがギターと兼任していたフルートに回ったが、コリンズは木管楽器のマルチ・スペシャリストだからやはり当然そうなる。何しろ二人ともキャメルより格上のバンドから招聘されてきたのだ。だが達人のプレイにも出来不出来があり、BBCライヴが悪くはないが『ライヴ・ファンタジア』のテイクがさらに良いのは『ネヴァー・レット・ゴー』1曲だけでも歴然としている。
 しかしややこしいのは、LPと旧版CDは同内容だから問題ないのだが、2002年のリマスター盤で77年ツアーからの収録曲がほぼ倍に増補されてライヴのセット・リスト順に並べ変えられた。オリジナルLPではいきなり本編ラストの『ネヴァー・レット・ゴー』から始まる強力な配曲だったのが崩れてしまった。しかも記録性からライヴのセット・リスト順はまだいいと譲っても、リマスターで音質は向上したが初収録曲に合わせて全編をリミックスしたのが裏目に出て、オリジナルLPマスター~旧版CDで迫力満点だったサウンドが音質は良いがメリハリのまるでないミックスに改変されてしまった。これでは増補曲聴きたさにリマスター盤を買っても旧版CDやLPを手放せないではないか。どうしてLPマスターのミックスを基準に増補曲をミックスしなかったのだろう。ラティマーのばか、とやつあたりしてもたぶんデラム時代のアルバムのミックスまではもうラティマーの権限も及ばないのだろう。

『雨のシルエット』の次のスタジオ盤『ブレスレス~百億の昼と千億の夜』だけでシンクレアとコリンズは脱退してしまうが、『ブレスレス』はそもそもキャメルの創設者であるヴェテラン・キーボード奏者ピーター・バーデンス参加の最後のアルバムでもあった。シンクレアやコリンズもバーデンスには一目置いていただろう。デビュー当時はリーダーだったのにギタリストとのリーダー争いに敗れた格好だった。ドラマーのワードのインタヴューでもこの二人の音楽的確執について証言がある。
 次の『リモート・ロマンス』以降もキャメルにはキット・ワトキンスやダンカン・マッケイら優れたキーボード奏者がゲスト参加するが、キャメルとはラティマーのギターだったのと同じくらい、キャメルとはバーデンスのキーボードあってのバンドだった。シンクレアとコリンズが加入してキャメルは最強ラインナップになったが、もしシンクレアらが残ってもバーデンスが脱退したらキャメルではなくラティマーのソロ・プロジェクトに化すのは必然だった。バーデンスのベスト・プレイが最後に観られる(キャメル脱退後はニューエイジ・ミュージックに転向する)のは77年のキャメルしかない。『月の湖(ルナ・シー)』は当時FMでガンガンかかっていたのを忘れられない。