人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sonny Rollins - Rollins plays for Bird (Prestige,1956)

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Sonny Rollins Quintet with Kenny Dorham and Max Roach - Rollins plays for Bird : http://youtu.be/Vtt73m3B2zk
Recorded October 5, 1956 at Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey
Released Prestige 7095
A1."Bird Medley: I Remember You (Johnny Mercer, Victor Schertzinger) /My Melancholy Baby (Ernie Burnett, George A. Norton) /Old Folks (Dedette Lee Hill, Willard Robison) /They Can't Take That Away From Me (George Gershwin, Ira Gershwin) /Just Friends (John Klenner, Sam M. Lewis) /My Little Suede Shoes (Charlie Parker) /Star Eyes (Gene DePaul, Don Raye)" - 26:55
B1. "Kids Know" (S.Rollins) - 11:39
B2. "I've Grown Accustomed to Her Face" (Alan Jay Lerner, Frederick Loewe) - 4:52
[Personnel]
Sonny Rollins - tenor saxophone
Kenny Dorham - trumpet
Wade Legge - piano
George Morrow - bass
Max Roach - drums

 ソニー・ロリンズ(1929~)には1949年のレコーディング・デビューから一時的に活動休止する1958年末録音の『コンテンポラリー・リーダーズ』まで42枚の録音があり、そのうち21枚がロリンズ自身の名義のアルバムになる。ただし時系列順での2作目になる『セロニアス・モンクソニー・ロリンズ』1953/1954は実質的にモンクの録音にロリンズが参加したものと、ロリンズの録音にモンクが参加したものを後にカップリングしてリリースした変則的アルバムで、ロリンズ名義第1作の『ソニー・ロリンズ・ウィズ・モダン・ジャズ・カルテット』1951/1953もMJQと共演した10インチ・アルバムと別のロリンズ名義の10インチ・アルバムのカップリング・アルバムだった。1曲はモンクとの10インチ・アルバムからの流用だが、1枚が1セッションからなる初のアルバムは第3作『ムーヴィン・アウト』1954となる。
 『ムーヴィン・アウト』はロリンズ、ケニー・ドーハム(トランペット)、エルモ・ホープ(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、アート・ブレイキー(ドラムス)というメンバーで、さてこの中で一人だけ出世しなかった人がいます誰でしょう(エルモ・ホープ)というクイズにぴったりの気弱なピアノが聴ける。なんとこのアルバムはブレイキーがバスドラを持ってくるのを忘れて、バスドラ抜きの録音になったという。

 さて、今回ご紹介した『ソニー・ロリンズ・プレイズ・フォー・バード』だが、実は半年前の『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』同様ロリンズ名義だがロリンズのアルバムではない。ロリンズが当時在籍したマックス・ローチクインテットのアルバムと見るべきアルバムなのだった。ロリンズ名義のアルバム第4作『ワークタイム』から両者は共演し、トランペット奏者がいればその時のマックス・ローチクインテットのメンバーだしほぼピアニストも同様、テナーサックスのみの編成でもベーシストはたいがいマックス・ローチクインテットのメンバーが起用されている。
 マックス・ローチ(1924~2007)は元々マイルス・デイヴィスと同期にチャーリー・パーカークインテットで名を上げたニューヨークの若手ジャズマンだったが、アート・ブレイキーのバンドから天才新人トランペット奏者のクリフォード・ブラウンを引き抜き、ジャズ不況になっていたニューヨークからロサンゼルスに進出してクリフォード・ブラウンマックス・ローチクインテットを旗揚げした。1954年4月のことで、テナーサックス奏者のオーディションを兼ねたジャムセッションがローチの旧知のチャールズ・ミンガスに紹介されたロサンゼルスのエリック・ドルフィー家で行われ、ドルフィーの先輩になるロサンゼルス在住のハロルド・ランド(1928~2001)が採用されている。ドルフィー自身が録音したテープが90年代末に発掘されて話題を呼んだのも記憶に新しい。ドルフィーも演奏に参加しているのだが、お声がかからなかったということだ。
 ブラウン&ローチ・クインテットはジャズ界の新進最強バンドとして54年~55年にかけて名盤を連発、55年はロサンゼルスとニューヨークを往復するが、55年末にはハロルド・ランドがロサンゼルスに留まるため脱退し、まだ自分のバンドを持っていなかった若手ジャズマンのロリンズが加入する。そこからロリンズのアルバムは、ロリンズ名義のアルバムも他人名義のアルバムもマックス・ローチ(とローチ・クインテットのメンバー)参加が増えてくる。ロリンズとマックス・ローチの顔合わせアルバムをリストにすると、こうなる。

1955.12 - Worktime (Prestige)
1956.02 - Clifford Brown & Max Roach Quintet / Clifford Brown and Max Roach at Basin Street (EmArcy)
1956.03 - Sonny Rollins Plus 4 (Prestige)
1956.06 - Saxophone Colossus (Prestige)
1956.09 - Max Roach Quintet / Max Roach + 4 (EmArcy)
1956.10 - Rollins Plays for Bird (Prestige)
1956.10&12 - Thelonious Monk / Brilliant Corners (Riverside)
1956.12 - Tour de Force (Prestige)
1956.12 - Sonny Boy (Prestige)
1956.12 - Sonny Rollins Vol.1 (Blue Note)
1957.03 - Max Roach Quintet / Jazz in ? Time (EmArcy)
1957.05 - Kenny Dorham / Jazz Contrasts (Riverside)
1957.10 - Abbey Lincoln / That's Him! (Riverside)
1958.02 - The Freedom Suite (Riverside)

 56年などは『ソニー・ボーイ』が『ソニー・ロリンズ・プレイズ・フォー・バード』と『トゥル・デ・フォース』の未収録曲を中心にした編集盤だからカウントしないとしても、8枚もロリンズ&ローチのアルバムがある。
 55年~56年のアルバムはマイルス・デイヴィスクインテットのリズム・セクションが参加した(ジョン・コルトレーンもタイトル曲に参加して名高い)『Tenor Madness』(1956.05, Prestige)以外は全作ローチがドラムスで、『ソニー・ロリンズ・プラス・フォー』などブラウン含む全員がブラウン&ローチ・クインテットだが、ブラウン(1930~1956)は56年6月25日(ロリンズ『サキソフォン・コロッサス』録音の3日後)、ブラウン&ローチ・クインテットのツアー移動中に分乗した自動車事故でピアニストのリッチー・パウエル(バド・パウエル実弟、1931~1956)、リッチー・パウエル夫人とともに事故死してしまう。
 ロリンズのアルバムでは『サキソフォン・コロッサス』の次の『ソニー・ロリンズ・プレイズ・フォー・バード』はトランペットにチャーリー・パーカークインテットのマイルスの後任だった旧知のケニー・ドーハム(1924~1972)をブラウンの後任に迎え、ピアノはウェイド・レグ(1934~1963)、ベースは引き続きジョージ・モロウ(1925~1992)という新生マックス・ローチクインテットによるものだった。ウェイド・レグはディジー・ガレスピーのバンド出身で他にはチャールズ・ミンガス『道化師』57.03、ジャッキー・マクリーン『アルト・マッドネス』57.05くらいしか参加作がないが、手堅いハード・バップ・ピアニストだろう。

 この後マックス・ローチクインテットのピアニストはレイ・ブライアント(1931~2011)に代わり、ロリンズも57年半ば以降は臨時編成ながらも自分のグループでライヴ活動を行えるようになっていた。それまで契約していたプレスティッジでは濫作させられていたが、同じインディーズでももっと丁寧なアルバム制作で定評あるブルー・ノートやリヴァーサイド、コンテンポラリーなどとフリー契約でアーティスト主体のアルバム作りができるようになる。それとともに、マックス・ローチクインテットの専属メンバーとしての活動は自然に両者から控えるようになったのだろう。
 ロリンズは62年のアルバム『橋』をメジャーのRCAからリリース後は自己のバンドだけに活動を絞るようになるが、ロリンズ名義とはいえ実質マックス・ローチクインテットの『ソニー・ロリンズ・プレイズ・フォー・バード』のように自分より偉い人と組んだ、抑制の効いたロリンズ(『コンテンポラリー・リーダーズ』や63年のコールマン・ホーキンスとの『ソニー・ミーツ・ホーク』では自分より偉いプレイヤー相手に無茶をやるが)には、完全なロリンズのリーダー作にはないくつろぎがある。

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 このアルバムA面を占める『ザ・バード・メドレー』は、28分で7曲を演奏しており、どれもチャーリー・パーカーの有名なレパートリーから採られている。
『アイ・リメンバー・ユー』I Remember You (Johnny Mercer, Victor Schertzinger) はアルバム『ナウズ・ザ・タイム』から。パーカーの録音は53年8月。テーマ~ソロはロリンズ。
『マイ・メランコリー・ベイビー』My Melancholy Baby (Ernie Burnett, George A. Norton)はディジー・ガレスピーセロニアス・モンクとの共演アルバム『バード・アンド・ディズ』より、パーカーは50年6月録音。テーマ~ソロはドーハムのトランペット。
『オールド・フォークス』Old Folks (Dedette Lee Hill, Willard Robison)はレグのピアノをフィーチャー。パーカーのヴァージョンは1947年~1953年の拾遺録音を集めた『ジャズ・パレニアル』収録で、ギル・エヴァンスのアレンジ、チャールズ・ミンガス(ベース)、マックス・ローチ(ドラムス)のオーケストラ共演版(53年5月録音)。
『誰も奪えぬこの想い』They Can't Take That Away From Me (George Gershwin, Ira Gershwin)はビリー・ホリデイの愛唱曲でもあり、ロリンズがややこしい節回しで遊んでいる。『チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス』から、50年7月録音。
『ジャスト・フレンズ』Just Friends (John Klenner, Sam M. Lewis)もパーカーが『ウィズ・ストリングス』からシングル・ヒットさせた。49年11月録音。ここではケニー・ドーハムがフィーチャーされる。
『マイ・リトル・スエード・シューズ』My Little Suede Shoes (Charlie Parker)は盟友ディジーに影響されたラテン・ジャズ作品『フィエスタ』から、51年3月録音。再びレグのピアノをフィーチャー。
『スター・アイズ』Star Eyes (Gene DePaul, Don Raye)は50年代パーカーきっての愛奏曲で、スタジオ録音は一時復帰のマイルス・デイヴィスマックス・ローチの揃ったパーカー・クインテットで51年1月のヴァージョンがある。ライヴでもっと良いヴァージョンが残っている。これまでの曲はテーマ担当奏者がソロを取ると次の曲に移っていたからどれも3分弱だったが、『スター・アイズ』はロリンズによるテーマから全員のソロがあって、9分に及んでいる。うまい構成で、パーカーに縁の深いドーハム、ローチ、ロリンズ(マイルス・デイヴィス『コレクターズ・アイテム』53.01でパーカーと一緒にレコーディングし圧倒されている)だけある。クリフォード・ブラウン追悼のニュアンスはあるかどうかも気になるが、クリフォードが急逝していなかったら作られなかった作品でもあるだろう。メンバー中今なお現役のロリンズ以外は全員故人で、もう60年も昔のアルバムと思うと感慨深い。
 数ある50年代ロリンズの名盤に『ソニー・ロリンズ・プレイズ・フォー・バード』を上げる人はほとんどいないだろうが、重量級の名盤が『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』57.11か『ニュークス・タイム』58.09なら、軽妙な好盤はこのアルバムか『サウンド・オブ・ソニー』57.06が良いと思う。

 また、ロリンズ脱退直後のマックス・ローチクインテットにも『プレイズ・チャーリー・パーカー』1959があり、こちらはアルバム全曲パーカーのオリジナル曲で固められている。テナーサックスは中堅にハンク・モブレーと新人ジョージ・コールマンが半々で、60年代前半マイルス・クインテットにモブレー、コールマンと順々に起用されるのを思うと興味深い。

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"The Max Roach 4 Plays Charlie Parker" EmArcy MG 36127 (1959)
Recorded December 23, 1957(A1,A2,B2) and April 11, 1958(A3,B1,B3), New York City
A1. "Yardbird Suite" - 3:55
A2. "Confirmation" - 4:28
A3. "Ko-Ko" - 7:59
B1. "Billie's Bounce" - 5:37
B2. "Au Privave" - 4:19
B3. "Parker's Mood" - 8:23
All compositions by Charlie Parker
[Personnel]
Max Roach - drums
Kenny Dorham - trumpet
George Coleman (tracks A3,B1,B3), Hank Mobley (tracks A1,A2,B2) - tenor saxophone
Nelson Boyd (tracks A3,B1,B3), George Morrow (tracks A1,A2,B2) - bass