人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(70)

 犯罪要素が濃厚になってきたようだな、と偽ムーミンは思いました。しかし偽ムーミンという一点のシミだけのためにムーミン谷全体が偽ムーミン谷とは呼べないように、犯罪くらいで現在の状況すべてが犯罪一色に染まるわけではなく、その上犯罪だって世界を構成する幾多の重要な要素のひとつです。
 あの坂ばかりの町では、春には桜が、夏にはひまわりが、秋には彼岸花がこれでもかと咲き乱れていました。住民は誰もが意地の悪くエゴイスティックな老人ばかりでした。老い先の短さのあまり、他人に対する思いやりや親切心などすっかり失ってしまった老境とは心貧しいかぎりですが、多少なりとも謙虚な内省力と知性があればそれほど醜い老い方はしないはずですから、おそらく彼らにはそのどちらもが欠けていたのでした。
 ライナスは遠くの空にすくっと立っていました。が、その存在はまるで間近にいるようで、おそらくライナスにはこちらの息づかいや心臓の鼓動まで聞こえているに違いなく、表情のすみずみや心の中まで読まれていると思われました。もしかしたらライナスが立っているのは遠いパインクレスト町の空で、見えているのは時空を超えてつながったまぼろしのライナスかもしれず、まぼろしのライナスかもしれず、まぼろしのライナスかもしれませんでした。
 かつてライナスは姉の同級生である年長の親友と、彼のための子犬を保健所にもらいに行ったことがありました。この年長の親友は精神年齢ではライナスより幼く、彼だけの判断で子犬を選ばせるのはあまりに頼りないので、姉のいらぬおせっかいからライナスも同行することになったのです。1950年10月4日のことでした。つまりジャニス・ジョプリンが20年後に命日を迎えるその日に、ライナスは親友のお供でデイジーヒル子犬園に向かったのです。
 その子犬は8匹兄弟の1匹として生まれ、ライラという少女によって飼われていましたが、彼女の家庭がペット禁止の住宅へ引っ越すので飼えなくなったため、いったん生まれ故郷のデイジーヒル子犬園へと戻されていたのです。8月10日に生まれたばかりの、まだ生後2か月にもならないビーグル犬の子犬でした。
 少年は以前から子犬を欲しがっていましたが、それは少年自身が魅力に乏しく友だちが少ないからでした。5ドルで子犬を引き取ってからすぐ少年は人気者になりましたが、それがすべての間違いの始まりだったのです。
 第七章完。