人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Hawkwind - Space Ritual (United Artists, 1973)後編

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Hawkwind - Space Ritual (United Artists, 1973) Full Album : http://youtu.be/HYAd0-ifNlM
Recorded at Liverpool Stadium, 22 December 1972 and Brixton Sundown, 30 December 1972 by Vic Maile and the Pye Mobile.
Released 11 May 1973, United Artists:UAD60037/8
(Side A)
1. "Earth Calling" (Robert Calvert) - 1:44
2. "Born to Go" (Calvert, Dave Brock) - 9:56
3. "Down Through the Night" (Brock) - 6:16
4. "The Awakening" (Calvert) - 1:32
(Side B)
1. "Lord of Light" (Brock) - 7:21
2. "Black Corridor" (Michael Moorcock) - 1:51
3. "Space Is Deep" (Brock) - 8:13
4. "Electronic No. 1" (Dik Mik Davies, Del Dettmar) - 2:26
(Side C)
1. "Orgone Accumulator" (Calvert, Brock) - 9:59
2. "Upside Down" (Brock) - 2:43
3. "10 Seconds of Forever" (Calvert) - 2:05
4. "Brainstorm" (Turner) - 9:20
(Side D)
1. "Seven By Seven" (Brock) - 6:11
2. "Sonic Attack" (Moorcock) - 2:54
3. "Time We Left This World Today" (Brock) - 5:47
4. "Master of the Universe" (Nik Turner, Brock) - 7:37
5. "Welcome to the Future" (Calvert) - 2:04
(Bonus tracks on 1996 Remasters CD)
Recorded at The Roundhouse, 13 February 1972. Originally released on the Greasy Truckers Party Various Artists album.
1. "You Shouldn't Do That" (Turner, Brock) / "Seeing It As You Really Are" [unlisted] (Brock) - 6:58
2. "Master of the Universe" (Turner, Brock) - 7:23
3. "Born to Go" (Calvert, Brock) - 13:02
[Musicnauts]
Robert Calvert - poetry readings
Dave Brock - guitar, vocals
Nik Turner - saxophone, flute, vocals
Lemmy (Ian Kilmister) - bass guitar, vocals
Dik Mik (Michael Davies) - audio generator, electronics
Del Dettmar - synthesizer
Simon King - drums

 前回でユナイテッド・アーティスツ時代のホークウィンドは全部良いと書いたが、ことに『宇宙の祭典』はとにかく熱い2枚組ライヴの決定盤で、スタジオ作を超える大傑作になっている点では名高いマイルス・デイヴィスの『アガルタ』『パンゲア』1975、ブルー・オイスター・カルト『地獄の咆哮』1975、KISS『地獄の狂獣』1975すら凌駕する勢いがある。短い曲はポエトリー・リーディングやサウンド・エフェクトで、ヴォーカル入りの主要曲はスタジオ・ヴァージョンの2倍~3倍の長さに拡張されている。ホークウィンドには名手といえるプレイヤーはいないのだが、かたまりになって押し寄せてくるヤケクソなアンサンブルには有無を言わせない団結力がある。
 BOCやKISS同様(というか先立って、とはいえグレイトフル・デッドが先例だが)スタジオ盤3作を発表した後の勝負玉がこのライヴ盤で、これらのバンドはライヴでの奔放な演奏が本領だったから見事にはまった。デッド、BOC、KISS同様ライヴ盤が初期の集大成になり、今なおライヴでの重要曲がほとんどを占めている点でも『宇宙の祭典』はディープ・パープルの『ライヴ・イン・ジャパン』(『メイド・イン・ジャパン』)1972にすら匹敵する。
 ホークウィンドの場合、作風確立以前のデビュー作からは選曲されなかった(パープルも初代メンバー時代の曲は外した)が、デッド同様ライヴ盤初出の曲を多く含むのが、このアルバムの価値を高めている。

 というか、セカンド・アルバム『宇宙の探求』からは『マスター・オブ・ジ・ユニヴァース』、『宇宙の探求』と同時発売のアルバム未収録シングルの『セヴン・バイ・セヴン』、サード・アルバム『ドレミファソラシド』からは『ダウン・スルー・ザ・ナイト』『ロード・オブ・ライト』『スペース・イズ・ディープ』『ブレインストーム』以外はライヴ用のレパートリーで、実質的なオープニング曲『ボーン・トゥ・ゴー』も新曲の上、1曲ごとに挟まれるポエトリー・リーディングやサウンド・エフェクト曲もライヴならではの演出になっている。
 2枚組LPでもこのアルバムはABCD各面がフェイド・イン/フェイド・アウトに編集されており、各面ごとに曲の切れ目がない。つまりABCD84分で全曲のノンストップ・メドレーになる構成で、今ならむしろDVD-Audioなどのソフト形式の方がバンドの意図にかなっているだろう。

 演奏はもう、よくぞまあヘヴィ・サイケ系コズミック・ロック時代絶頂期に最高のライヴを残してくれたなと感涙極まるもので、オープニングの『アース・コーリング』からシンセサイザーと音波発振器のうさんくさい効果音に聞きとれない複数のヴォイスがかさなり、実質的な1曲目『ボーン・トゥ・ゴー』からもう10分近くギターがガリガリ、ドラムスがバタバタ、シンセサイザーや音波発振器がピュンピュン、ブロックとターナーのヨレヨレのツイン・ヴォーカルがこれでもかの下手くそな歌で、超低速ギターソロにエフェクターを通したフルートが鳴り響き、たぶん初めて聴く人はギターともフルートとも判別がつかないと思うくらい音色が加工されており、だいたいフレーズらしいフレーズが出てこない。指が全然動いていない。
 唯一凄いのはレミーの岩のようなベースで、正確なリズムキープをしながらグルーヴしまくる凄腕はホークウィンドには惜しいくらいと言うと失礼だが、『宇宙の祭典』メンバーで他のバンドでも通用する腕前はレミーだけだろう。そこがホークウィンドの良さでもある。

 続いて『ダウン・スルー・ザ・ナイト』はスタジオ盤ではアシッド・フォーク風アレンジだったが、リヴァーヴでリズムを強調したギターの無伴奏コードからかっこいいハード・ロックに展開するアレンジでスケール感が増している。A面ラストの『ジ・アウェイクニング』はカルヴァートによる短いポエトリー・リーディングで、すぐにB面の『ロード・オブ・ライト』につながる。ロジャー・ゼラズニイの代表作『光の王』(1968年度ヒューゴー賞受賞作)をモチーフにした曲で、『ダウン・スルー・ザ・ナイト』同様レミーのベースが光る。曲のイントロでリズムが揺れてもレミーのベースが入るとビシッとバンドがまとまるのだ。

 ムアコック作のポエトリー・リーディング『ブラック・コリドー』を挟んで、『スペース・イズ・ディープ』も『ダウン・スルー・ザ・ナイト』に似たアイディアのダウナーなコズミック・ロック。『ダウン・スルー・ザ・ナイト』や『ロード・オブ・ライト』、『スペース・イズ・ディープ』『セヴン・バイ・セヴン』などはすべてデイヴ・ブロック単独曲、新曲の『ボーン・トゥ・ゴー』『オルゴン・アキュミュレイター』はカルヴァートとの共作、ブラック・サバスメタリカにもタメを張る代表曲『マスター・オブ・ジ・ユニヴァース』はターナーとの共作と、デイヴ・ブロックはやはりリーダーなんだなあと思わせる。アルトサックス&フルートとヴォーカルのニック・ターナーはホークウィンドのNo.2だが、ギターとヴォーカルのブロックに較べて曲の発想がインストルメンタル中心なのは担当楽器の違いにもよるだろう。ターナー単独曲は『ブレインストーム』で、ジャムセッション・タイプの曲になる。

 しかしホークウィンド最大のヒット曲『シルヴァー・マシーン』は『宇宙の祭典』に先立つ1972年2月のライヴ録音で、カルヴァートとブロックの共作曲だがライヴではレミーの持ち歌だった。シングル発売されるに当たってヴォーカルをブロックに差し替えた、という経緯もあり、もったいないことに『宇宙の祭典』からは外されるレパートリーになっている。レミーの数少ないリード・ヴォーカル曲に1975年、『絶体絶命』からのシングル『キングス・オブ・スピード』のB面曲『モーターヘッド』がある。もちろんレミー単独自作曲で、ホークウィンド時代につちかった人気が脱退後のモーターヘッドの大ブレイクにつながったのだろう。
 レミーのベースがくっきり聴こえるかどうかで『宇宙の祭典』の良し悪しは分かれる。「ヨーロピアン・ロック・コレクション」の日本盤LP再発盤は全然駄目だった。初CD化でもまだ駄目で、96年のリマスター盤以降ようやくデジタル・マスターの改善がなされた。最初から良いマスターの良いプレスで聴ける世代が羨ましいとともに、次作『永劫の宮殿』の別バンドともいえる変貌には改めて驚嘆する。
 なお『絶体絶命』のご紹介で2013年の『Spacehawks』を最新作として上げたが、実は2CD+DVDで『宇宙の祭典2014』というのが2015年春発売の新作なのだ。このしぶとさには頭が下がる。