人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Ornette Coleman - Body Meta (Artists House, 1978)

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Ornette Coleman - Body Meta (Artists House, 1978) Full Album : http://youtu.be/BgsbgtDipHE
Recorded at Paris, December 19, 1976
(Side A)
1. "Voice Poetry" - 8:00
2. "Home Grown" - 7:36
(Side B)
1. "Macho Woman" - 7:35
2. "Fou Amor" - 8:01
3. "European Echoes" - 7:40
All tracks composed by Ornette Coleman
[Personnel]
Ornette Coleman - Saxophone, Alto Saxophone
Charlie Ellerbie - Guitar
Ronald Shannon Jackson - Drums
Bern Nix - Guitar
Jamaaladeen Tacuma - Bass
Elisabeth Atnafu - Artwork

 CBSコロンビアからのオーケストラ作品『アメリカの空』1972の後アルバムが途絶えていたオーネット・コールマンのカムバック作は『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』(75年12月録音・77年発売)だった。この間もオーネットは活発にライヴ活動をしており、雑誌や新聞記事に取り上げられることも多かったので、活動休止や引退を囁かれることはまったくなかった。ひさしぶりのアルバム『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』はジャケットからして人を食ったもので、アルバムの録音メンバーは次作『ボディ・メタ』と同じだが別メンバーによるスタジオ・ライヴ演奏が前年74年のイタリアのテレビ出演映像で残されている。

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(Ornette Coleman "Dancing in Your Head" Artists House, 1977)
Ornette Coleman Quartet - Rome, Italy, 1974-05-07 : http://youtu.be/2sXDMhNVTCA
1. Dancing in Your Head
2. Love Call
Ornette Coleman(as),James Blood Ulmer(g),Sirone(b),Billy Higgins(ds)

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 ("Dancing in Your Head" LP Liner Cover)
 録音は76年12月の『ボディ・メタ』が先だが、直後の77年1月録音のオーネット・コールマンチャーリー・ヘイデンとのデュオ・アルバム『ソープサッズ、ソープサッズ』1977があまりに素晴らしい出来だったので優先発売され、『ボディ・メタ』の発売は1978年になった。次作『オブ・ヒューマン・フィーリングス』は79年4月に録音されたが発売は82年と、ジャズの世界も60年代までのように薄利多売の商売ではなくなってきた。
 それは功罪半ばあって、50~60年代までのジャズマンはとにかくアルバム発売の機会も多く、一枚あたりでは儲からないかわりに新作を次々とレコーディング(自分のアルバムであれ、他のジャズマンのアルバムへの参加であれ)することができた。そうして腕前を上げていったのだが、70年代以降にデビューしたジャズマンは実地の仕事量からして少なかった。ポップスやロックの世界でも60年代は年間アルバム3枚は珍しくはなかったのだ。

 データをごらんになれば一目瞭然のように、ジャマラディーン・タクマとロナルド・シャノン・ジャクソンがのちに名をなしたくらいで(74年のライヴで参加しているジェームズ・ブラッド・ウルマーもだが)、オーネット以外は全員無名新人、それは59年カルテットや65年トリオの時もそうだったが、今回はエレクトリック編成で、しかも音楽性がお聴きの通りのものだった。オーネットの作曲や演奏は従来通りで悪くないのだがメンバーがひどい、と同時期のマイルス・デイヴィスのエレクトリック・バンド(マイルスのトランペットにサックス奏者も加わるが、2ギター、ベース、ドラムス、パーカッションと編成も同じ)と同様、ジャーナリズムの評価は星3つ~4つとリーダーの力量のみを対象とした評価で、総評としては失敗作とするレヴューが多かった。
 オーネットがプライム・タイムと名づけたこのエレクトリック・バンドが評価されるようになったのは、パット・メセニーとの共作アルバム『ソングX』1986の商業的・批評的大成功を経て59年カルテットとプライム・タイムが2枚組アルバムで同じ曲を演奏する『イン・オール・ランゲージズ』1987を制作し、純粋なオーネット・コールマン&プライム・タイムのアルバムのスタジオ・アルバムとしては『オブ・ヒューマン・フィーリングス』1982以来になった(間にライヴ盤や弦楽四重奏との共演盤はあった)『ヴァージン・ビューティ』1988がリリースされてからになる。

 音楽的には、実はシリアス・ミュージックの分野以外ではもう今回のオーネットのアイディアは特別ではあるが、孤立したものではなくなっていた。アメリカのシリアス・ミュージックの分野ですらチャールズ・アイヴス(1874~1954)のような実験作曲家がおり、複数の曲の同時演奏や不可塑的ポリリズム、通常の奏法から離れた楽器の使用などは1910年代にはアイヴスが試みている。そうした要素は60年代末にはポピュラー音楽内部からの実験的試みに持ち込まれるようになり、アメリカのキャプテン・ビーフハートシャッグス(シャッグスは完全に無自覚だったが)、ドイツのファウストらがすでに1970年前後には成果を上げていた。ポピュラー音楽、60年代ロック自体が飽和点に達していたから生まれた発想ともいえる。現代音楽の分野ではゴールというものがないから、逆にアイヴスがかつて行っていた音楽の解体・再構成という発想が生まれづらかった。
 A1『ヴォイス・ポエトリー』1曲でこのアルバムの魅力はつかめる。ボ・ディドリー・ビートが薄っぺらく流れる中リードギターが入ってくると、ピッチもフレーズも堂々と外れている。楽器が音痴と形容できる例はめったにないが、シャッグスの上を行く音痴なへなちょこギターがへろへろに鳴り続けて待つこと2分、オーネットのアルトサックスがこれまたベースやリズムギターとも、リードギターとも無関係な調性で入ってくる。アルトサックスやリードギターはいわゆる全音階で演奏されており、1オクターヴ全音ずつの6音階とするそれは長調でも短調でもなく、機能的和声を発生させる短音程を欠いているからコード進行も生まず、さらに絶対音程上全音階には仮にトニック(主音)としたもの以外にはトニックを半音上げるか下げるかしたもの(どちらも同じ全音階になる)のふたつしかない。説明すると言い回しは難しくなるが、要するに他のメンバーの演奏とは合わせないように演奏する、というシンプルなアイディアでできている。ベースとドラムス、パーカッションも、よく聴くとばらばらな演奏をしているのだ。