人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Ornette Coleman - Of Human Feeling (Antilles, 1982)

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Ornette Coleman - Of Human Feeling (Antilles, 1982) Full Album : http://youtu.be/dM5WPCsWA3M
Recorded in CBS Studios in New York City, April 25, 1979
Released 1982, Antilles Records AN-2001
All compositions by Ornette Coleman.
(Side A)
1. "Sleep Talk" - 3:34
2. "Jump Street" - 4:24
3. "Him and Her" - 4:20
4. "Air Ship" - 6:11
(Side B)
1. "What Is the Name of That Song?" - 3:58
2. "Job Mob" - 4:57
3. "Love Words" - 2:54
4. "Times Square" - 6:03
[Personnel]
Denardo Coleman - drums
Ornette Coleman - alto saxophone, production
Charlie Ellerbee - guitar
Bern Nix - guitar
Jamaaladeen Tacuma - bass guitar
Calvin Weston - drums

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 (Ornette Coleman Promotional Portrait)
 アンティル・レコーズは英アイランド・レーベル傘下のジャズ部門として新設されたレーベルで、前作『ボディ・メタ』1978(録音1976)から4年ぶりのリリースとなったオーネット・コールマンのこの新作はレーベルの新設ともども強力なプロモーションが功を奏し、クロスオーヴァーフュージョンの流れにあるジャズ・ファンク作品としてジャーナリズムの注目を集め、まずまず高い評価を得た。
 このアルバム自体は79年の録音だが、80年代初頭にニューヨークのマテリアル、トーキング・ヘッズら脱ジャンル志向の強いバンドがファンク・ビートを取り入れて英米主導に新しいテクノ・ファンクの大流行があり、『オブ・ヒューマン・フィーリングス』はアンティル・レコーズ設立のために発表が遅れたことで流行とタイミングの合ったリリースになった。このアルバムはその文脈で、アシッド・ジャズ・アルバムの元祖とも言われる。

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 (Original "Of Human Feelings" LP Liner Cover)
 プライム・タイムの第1作『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』1977、第2作『ボディ・メタ』に対する戸惑ったような評価と較べて、第3作『オブ・ヒューマン・フィーリングス』が好意的に迎えられたのは、まず曲がより商業的フュージョンに近づいた。A1ですぐに気づくのだが、曲にちゃんとキャッチーなキメがある。本質的には曲づくりもバンドの演奏も変わっていないのだが、わかりやすい要素を前面に出したために聴きやすく、バンドの腕前も素人然としていた前2作よりちゃんとプロフェッショナルなものに聴こえる。
 オーネットのエレクトリック・バンドへのアプローチが本格的に注目されるのは86年のパット・メセニーとのスペシャル・2ドラムス・クインテット作品『ソングX』で、さらに59年カルテットの再結成録音とプライム・タイムが同じ曲を演奏する2枚組アルバム『イン・オール・ランゲージズ』1987でプライム・タイムがファンク・バンドではなく59年カルテットの発想と通底する音楽性が強調され、88年の『ヴァージン・ビューティ』でようやく『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』にさかのぼってプライム・タイムの評価が定まる。

 メセニーとの『ソングX』の世評は80年代以降のオーネット作品でも突出しており、Allmusic.com★★★1/2、Blender Mag.★★★★、Down Beat Mag.★★★★★、Entertainment Weekly:A-、The Guardian Mag.★★★★、Mojo Mag.★★★★、The Penguin Guide to Jazz★★★★(Top)、The Rolling Stone Album Guide★★★★★、The Village Voice:Aと、軒並み高い評価を受けている。オーネットとメセニーはジャズ・フェスティヴァルでも顔を会わせることが多いので、オーネットのステージにメセニーが客演した映像や音源も多い。メセニーはスター・ギタリストとして人気が高いのが観客の盛り上がりからわかる。『ソングX』は20周年記念版まで出たほどの人気作だが、巷間言われるようにメセニーはオーネットの音楽に親和性が高いとは思えない。
 メセニーは中学生の時に『ニューヨーク・イズ・ナウ』1968を買って以来のオーネットのファンだそうだが、メセニー自身の音楽にはブルース感覚が完全に欠如しており、メセニーの新しさも限界もそこにあるだろう。ジャズにおいてはメセニーは珍しい感覚のプレイヤーだが、オーネットはどんな時でもブルース感覚だけは手放さなかった。『ソングX』やステージでの共演はオーネット側の譲歩を感じる。だがプライム・タイムの認知にはパット・メセニーという人気エレクトリック・ジャズ・ギタリストとの共演で実績を作る回り道が必要だった。

 オーネット・コールマンはつい先日、6月11日に心臓発作で急逝した。享年85歳で、老齢ながら健康不安はなく、演奏活動も順調だった。5月14日にはB・B・キング(1925~2015)が逝去したばかりだが(享年89歳)、突然の逝去も何となくオーネットらしい気がする。このブログでもしばらく前からデビュー以来のオーネットの音楽活動を音源の紹介とともにたどってきて、今回掲載分で最終回となるアルバム紹介で一応完結していた。ようやく掲載を終えたが、この後書きを書き足した以外はすべてオーネットの生前に書き上げていたものとお断りする。ちなみにオーネットと生涯共演したベーシスト、チャーリー・ヘイデン(1937~2014)が昨年7月に亡くなっている(享年76歳)。ドン・チェリーデューイ・レッドマンエド・ブラックウェルらデビュー以来の歴代メンバーが逝去しても、ヘイデンさえいればオーネットはオリジナル・カルテットの音楽を再現できた(オーネットの残したデュオ・アルバムはヘイデンとの共作が唯一だった)。その意味でも、ヘイデン没後に思い残すことはなかったのかもしれない。