Eric Dolphy - Out There (New Jazz, 1960) Full Album : https://youtu.be/MOhKYOQK-dw
Recorded August 15, 1960, Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ
Released 1960, New Jazz NJLP 8252
(Side A)
1. Out There (Eric Dolphy) - 6:55
2. Serene (Dolphy) - 7:01
3. The Baron (Dolphy) - 2:57
(Side B)
1. Eclipse (Charles Mingus) - 2:45
2. 17 West (Dolphy) - 4:50
3. Sketch of Melba (Randy Weston) - 4:40
4. Feathers (Hale Smith) - 5:00
[Personnel]
Eric Dolphy - flute(B2,B3), bass clarinet(A2,A3), alto saxophone(A1,B4), clarinet(B1)
Ron Carter - bass, cello
George Duvivier - bass
Roy Haynes - drums
このアルバムも以前ご紹介したかもしれない。筆者自身が何を書いたか忘れている。そう最近ではないはずだし、構わないではないか。
というわけで、この『アウト・ゼア』は『アウトワード・バウンド(惑星)』に続くエリック・ドルフィーのセカンド・アルバムになり、前作から4か月後の60年8月に録音された。サード・アルバム『ファー・クライ』が60年12月、フォース・アルバム『アット・ファイヴ・スポット』が61年7月、フィフス・アルバム『イン・ヨーロッパ』が61年9月だから順風満帆に見えるが、ドルフィー生前に発売されたのはフォース・アルバムまでで残り7枚分のアルバムはお蔵入りにされていたのだ。
62年には契約レーベルなし。63年5月～6月に『アイアン・マン』『カンヴァセーション』の二部作をアラン・ダグラス・プロダクションに録音するがこれもお蔵入り。64年にようやくブルー・ノート・レーベルと契約して、2月録音のセヴンス・アルバム『アウト・トゥ・ランチ』は半年後には発売予定だったのだが(実際発売されるやいなや64年ジャズ界最大の話題作となった)、ヨーロッパをドサ回りしていたドルフィーは『アウト・トゥ・ランチ』発売前に糖尿病の悪化による過労死で急死してしまう。享年36歳だった。プレスティッジとアラン・ダグラス・プロダクション、またドルフィーがヨーロッパ巡業先でラジオ出演していた未発表録音が『アウト・トゥ・ランチ』によるドルフィー再評価に便乗してバンバン出た。総計25枚ほどになるのだが、没後編集・発表作品が20枚なのだから皮肉どころでは済まない。
日本ではプレスティッジ(ニュー・ジャズ)盤とフォンタナ盤はすぐに国内盤が出ていたから、『アット・ファイヴ・スポット』と急死1か月前のオランダのラジオ放送用ライヴ『ラスト・デイト』の人気が高く、『アウトワード・バウンド』とブッカー・リトル参加の『ファー・クライ』、『アウト・トゥ・ランチ』がそれに次ぐ、というというところか。欧米では『アウト・トゥ・ランチ』の評価が圧倒的だが、ブルー・ノートは60年代末まで海外盤のプレスを許可せず輸入盤国内仕様で発売していた。玉石混淆なプレスティッジ作品より制作の丁寧なブルー・ノート作品はアメリカ本国ではきちんと評価されたから、『アウト・トゥ・ランチ』はドルフィーの起死回生のアルバムになるはずだったし、実際そうなった。アーティストの急死の方が早かっただけだ。
欧米での評価では『アウトワード・バウンド』『アウト・ゼア』『ファー・クライ』のプレスティッジ盤スタジオ三部作はどれも満点、または「アウト・ゼア』が星5つで他2作は星4つ半。『アット・ファイヴ・スポット』三部作と『イン・ヨーロッパ』三部作は星3つ半～満点まで評価にムラがある。『アイアン・マン』『カンヴァセーション』二部作は『アイアン・マン』が満点で『カンヴァセーション』は星4つ。『アウト・トゥ・ランチ』は満場一致の満点。追悼盤『ラスト・デイト』は星4つ。1987年に発掘リリースされた60年～62年のドルフィー自身のプライヴェート録音アルバム『アザー・アスペクツ』は星4つ。足かけ5年の活動でこれだけ現在高い評価を得ているにもかかわらず、後半3年はその場しのぎの安い仕事で骨身を削っていた。ラジオ放送用ライヴの『ラスト・デイト』は感動的なアルバムだが、スタジオ録音の遺作『アウト・トゥ・ランチ』は聴けば聴くほどドルフィーが生きていたらどんな音楽に進んで行ったのか想像できないものだった。
前作『アウトワード・バウンド』でも汚い絵がジャケットを飾っていたが、今回も同じ画家がジャケットを手がけている。ドルフィーの友人で「プロフェット」があだ名の画家さんだそうで、『アット・ファイヴ・スポット』にも『ザ・プロフェット』というその友人に捧げた曲が入っていた。プレスティッジはアルバム・タイトルや選曲、ジャケットをアーティストの意向など聞かないでリリースしてしまうのでも悪名高かったが、それは社長のボブ・ワインストックが制作にも口を出していた頃で、ドン・シュリッテンがプロデューサーに就任するとブルー・ノートやリヴァーサイド並みとはいかないまでも、かなり改善された。スタジオ録音三部作はドルフィー自身がタイトルと選曲を任されたとおぼしい。『アウトワード・バウンド』と『アウト・ゼア』のジャケットもドルフィーの意向が通ったものだろう。こんなジャケットを採用するのはサヴォイかエル・サターンくらいしかないが、ドルフィーご指名となるとそれなりに見えてくる。『ファー・クライ』のジャケットはその時期にニュー・ジャズ・レーベルが統一デザインにしていたためで、同時期のドルフィー参加作で言えばケン・マッキンタイア『ストレート・アヘッド』、ロン・カーター『ホエア？』、マル・ウォルドロン『ザ・クエスト』がそれになる。
ロン・カーターは『アウト・ゼア』ではキー・パーソン的な役割で、このアルバムはドルフィーの各種木管(普通のBフラット・クラリネットの使用は珍しい)、カーターのチェロとアルコ・ベース、ジョージ・デュヴィヴィエのベース、ロイ・ヘインズのドラムスというめったにない編成のカルテットなのだ。ドルフィーがロサンゼルス時代に参加していたチコ・ハミルトン・クインテットは各種木管、ギター、チェロ、ベース、ドラムスの5人編成がトレード・マークだったが、ピアノレス編成をギターとチェロの比重を高めることで安定した音楽にしていた。ドルフィー参加作でも『アウト・ゼア』とはまったく違うクール・ジャズ系統のスマートなアンサンブルだった。三部作はどれも傑作だが、『アウト・ゼア』を満点にして前後作を星4つ半にしている評価があるのは、総花的な評価を避けてのことだろう。
(Original New Jazz "Out There" LP Side A Label)
実験性で言うと『アウト・ゼア』は『ファー・クライ』を飛ばして『アイアン・マン』と『アウト・トゥ・ランチ』につながっていく。欧米ではライヴ作が星4つ止まりなのは、ライヴのドルフィーはフリー・ジャズというよりはストレート・アヘッドなポスト・バップ的演奏になるからだろう。『アウトワード・バウンド』や『ファー・クライ』はノリノリの曲あり抒情的な曲ありの親しみやすいアルバムだが、『アウト・ゼア』はそうはいかない。巻頭のアルバム・タイトル曲でまずピアノレス・アルトサックスとチェロのユニゾンによるテーマ提示が異様で、先発ソロもチェロによる。オーネット・コールマンやアルバート・アイラーがヴァイオリンやチェロ入りフリー・ジャズで成果を上げたのは65～66年以降だからドルフィーの没後のことになる。このロン・カーターのチェロは、音大卒でチェロ専攻だったというのが疑問になるほど苦しまぎれだが、そのくらい常軌を逸した音列によるプレイをドルフィーから指定されたことになる。だからこれでいいのだ。
また、ドルフィー自身の使用楽器もアルトサックス2曲、バスクラリネット2曲、フルート2曲と意図的に均等に振り分けられ、ジャズとしては比較的短い34分・7曲でチコ・ハミルトン・クインテット以来ひさびさに普通のBフラット・クラリネットを吹いている。カーターのチェロを起用したのは自分以外のソロイストとのコントラストが狙いでもあるが、アルバムを聴いた印象ではピアノレス編成による異様なサウンド空間がこの『アウト・ゼア』の特色で、デュヴィヴィエ(ベース)やヘインズ(ドラムス)はビ・バップ全盛期からのヴェテランなのだがドルフィーの意図をきっちり汲んで理想的なプレイをしている。セロニアス・モンクやジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズ、ジャッキー・マクリーンあたりでもセッション・メンバーがリーダーの意図を無視して焦点の定まらないアルバムになることはよくあったが、数少ないアルバムでドルフィーは常に自分より格上のメンバーが相手ですらリーダーシップを握っていた。メンバーの方向性がドルフィーに近い『アウトワード・バウンド』や、ドルフィーを慕う若手メンバーが集まった『アウト・トゥ・ランチ』よりリーダーシップを取るのが難しく、それを成功させたのが『アウト・ゼア』と言えるだろう。
