人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(4)

 アンパンマンは一瞬言葉を失いましたが、つとめて平静に、でもぼくはこれまであんパン以外のパンを頭にしたことはいちどもありませんよ、と主張しました。アンパンマンや、乳頭はパンではないよ、とジャムおじさん。でもジャムおじさんが焼いたんですよね。
 私だけじゃないよ、バタコも焼いたんだよ。アンパンマンは同じ乳頭ならバタコさんのほうがいいな、とちらりと思いましたが、そういうことではないのに気づくのに時間はかかりませんでした。ジャムおじさんはパンを焼く人でしょう?私はケーキやパイも焼くよ。蒲焼きやサンマも焼きますよね、とバタコさん。うむ、バーベキューも焼きとうもろこしも焼くし、もちろん焼き芋だって焼く。
 だから乳頭も焼いてみたんですか、と喉もとまで言葉にしそうになりながら、アンパンマンはいけない、ぼくはジャムおじさんに逆らっちゃいけないんだ、と自戒しました。ジャムおじさん以外にも世の中にはパン屋さんはいますが、アンパンマンの頭になるあんパンを焼けるのはジャムおじさんだけなのです。
 ジャムおじさんアンパンマンの創造主ということではありませんが(ジャムおじさんもまた想像主によって生まれてきたのですから、しかし)、ジャムおじさんなくしてアンパンマンがないのは事実で、一方アンパンマンがいなくてもジャムおじさんは開業しているパン屋さんですから、パン屋さんの仕事はいつでもあります。もしジャムおじさんアンパンマンを毎日あたらしい頭に交換してくれなくなったら、アンパンマンは遭難したり迷子になったり、びんぼう暮らししている人たちを飢えから助けに行けなくなってしまいます。
 パトロールから帰るたび、アンパンマンしょくぱんまんカレーパンマンの頭は四分の一か、すさまじい時には頭をまるごと失っていました。飢えている人たちに分け与えてきたからです。しょくぱんまんはいいよな、とカレーパンマンがこぼすこともありました、ぼくカレー嫌い、って断られたりもするんだぜ。そういえばあんパンなんかじゃなくてもっと食事になるものとかのほうがいいなあ、と言われたことはあるよ。いや、ぼくだって苦労はしてるんだ、としょくぱんまん、食パンだけ?と言われる気分がきみたちにわかるかい?
 だから乳頭なのだろうか、とアンパンマンは思いました、哺乳類はすべて乳頭によって育つ、ジャムおじさんが言いたいのは、そういうことなのか。