人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(9)

 ジャムおじさん、とアンパンマンはおどおどしながら、どうしてもそれ……。乳頭かい?はい、どうしてもそれをつけなければいけないんでしょうか?アンパンマンが好きなようにしてもいいんだよ、とジャムおじさんは言いました、しかしわしの命令は絶対じゃ。思わずカレーパンマンジャムおじさんに食ってかかるところでしたが(彼は熱血漢なのです)、しょくぱんまんが肩にそっと手を置いてカレーパンマンを制止しました。しょくぱんまんは理性的な紳士ですから、おいらが感情にまかせて何か言うより円満に事を治めてくれるかもしれない。それでカレーパンマンも、ひとまずここはおとなしくすることにしたのです。
 ジャムおじさん、としょくぱんまんは言いました、確かにぼくたちは雨の日のパトロールには困っていました。頭のパンは食べさせてあげられたものではなく、ぼくたちは力も弱ってフラフラで、助けた人をパン工場に運んできてあげるか、ほら穴でも仮の避難所にして、ジャムおじさんに焼き直してもらったパンを袋詰めにして届けてあげるくらいのことしかできなかったのです。なにを偉そうに、とばいきんまん。何よ、文句あるの、とドキンちゃん。ホラー?朝ご飯食べないんですかあ?とホラーマン、冷めちゃいますよお?そんなのまた作り直させればいいでしょっ、とドキンちゃん。ばいきん城の食事はかびるんるんたちが作っているのです。ただし配膳はばいきんまんやホラーマンがやっているのは、調理させるのはともかく、かびるんるんに配膳させると料理が不衛生でまずそうだからでしたが、それは先入観による偏見というもので、細菌レヴェルまで計算された正確で繊細なかびるんるんの料理はすべての有機生命体の頂点を極めた極上品でした。ところがばいきんまんはきれいはきたない、おいしいはまずいという感覚の持ち主ですから、せっかくのかびるんるん料理は素直においしく食べてくれる人の口には入る機会はめったにない、というありさまでした。
 ただ、ばいきん城に拉致された被害者だけがかびるんるんの極上料理を食べるチャンスがあり、あまりのおいしさに幻覚まで見るありさまですが、シラフに返ると監禁食だからうまかったんだよな、とたかをくくってしまうのです。もしもばいきんまんが気づいていれば、かびるんるんの料理の前にはジャムおじさんのパンの数々など敵ではなかったでしょう。民意はばいきんまんに傾いたはずです。