人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Laurent Thibault - 忘却の幻夢界 Mais On Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps (Balon Noir/CBS, 1978)

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Laurent Thibault - 忘却の幻夢界 Mais On Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps (Balon Noir/CBS, 1978)
Recorded at the Chateau d'Herouville with the help of Jacqueline THIBAULT and Dominique Bouvierw.No synthesizers were used for this recording.
Henri Rousseau Illustration: "La charmeuse de serpents" on front, "La guerre ou la chevauchee de la discorde" on back.
Released Ballon Noir ?(under French CBS) BAL 13009, 1978
(Face A)
A1. 境界 Oree : https://youtu.be/OQC2YzvG2H8 -11:06
A2. 水辺の乙女 Aquadingen : https://youtu.be/-02GN3oO8y8 - 4:49 *limited link
(Face B)
B1. 忘却のキャラヴァン La Caravane De L'Oubli : https://youtu.be/p-3xOjc6XIc - 6:45
B2. しかし、夢を見続けることは出来ない Mais On Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps : https://youtu.be/SsWJoB1y-lE - 8:51 *limited link
[Musiciens]
Amanda PARSONS - Soprano
Lisa BOIS - Female Voice
Youyous - Kabyle women
Lionel LEDISSEZ - Indian Song
Le Muezzin Mysterieux - Arabic Song
Serge DERRIEN - Chorus, Flute, Laughter Voice
Jean-Claude DELAPLACE - Voice Of Reason Performer
Jacqueline THIBAULT - Keyboards
Anne-SOPHIE - Toy Piano
David ROSE - Violins
Richard RAUX - Tenor Saxophone, Reita Performer
Guy RENAUDIN - Soprano Saxophone
Dominique BOUVIER - Drums, percussion
Francis MOZE - Fretless Bass
Laurent THIBAULT - Bass, Guitar
Written, Produced, Recorded and Mixed by Laurent THIBAULT

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 (Original Balon Noir LP "Mais On Ne Peut Pas~" Face A Label)
 このアルバムが2009年4月にベル・アンティーク・レーベルから初日本盤CD化(リマスター/紙ジャケット/高品質SHM-CDでのリリース)された時の短い紹介文が「マグマ系アーティストのプロデュースを手掛けてきたローラン・チボー唯一のアルバム。アマンダ・パーソンズ、デヴィッド・ローズ、フランシス・モーズ等の豪華実力派ミュージシャンを起用して視覚的なシンフォニック・ワールドを展開する傑作アルバム。アンリ・ルソーによるフロント・カヴァーが象徴するようなエキゾティックな世界を描写している」だった。先日女性歌手、サウンド・クリエイターのエマニュエル・パルナンの長年幻だったアルバム『薔薇色の館』1977をご紹介したが、このアルバムも翌78年にパルナン作品と同じフランスCBS傘下のバロン・ノワール・レーベルからリリースされたもので、ローラン・チボー(ティボール)は著名プロデューサーだからかプレス枚数も多かったのか、1992年に復刻レーベル・ムゼアから初CD化、アナログ再発される前からユーロ・ロック専門店ではそこそこ見かけられたアルバムだった。
 チボーはマグマ人脈の重要人物でもあり、マグマでは割と正統的なジャズ・ロック的側面で関わってきたまっとうなミュージシャンという印象がある。つまりマグマの変態的な側面を担ってきた歴代メンバーの中では異質で、変態メンバーたちが枝分かれしたヤニック・トップのソロ、ザオ、ヴィドルジュなどはマグマの音楽性から類推できる通りだし、マグマとエルドンを掛け持ちしたパトリック・ゴーチェの『ベベ・ゴジラ』などはクリスチャン・ヴァンデやリシャール・ピナスらマグマとエルドンの親分連中の参加でかえって聴きやすい作風になっていた。マグマ人脈とはいえ予断はできない。

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 (Original Balon Noir LP "Mais On Ne Peut Pas~" Liner Cover)
 AB面各2曲、全編で31分半の短いアルバムだが、チボーのキャリアや参加ミュージシャンの豪華さ、アンリ・ルソーの絵画を使ったジャケット、長ったらしいアルバムの原題『Mais On Ne Peut Pas Rever Tout Le Temps (しかし、夢を見続けることは出来ない)』など、このアルバムはムゼアからの再発でさらに入手しやすくなるまでにも名盤の評価が定着しており、日本盤CD化が遅くなったのはムゼア盤がロングセラーを続けていたので、リマスター/紙ジャケット/高品質SHM-CDでのリリースという付加価値の条件が揃うまで日本盤の需要が望めなかったからかもしれない。実際には日本盤の発売はどんな片田舎のCD店からでも取り寄せられる、意義の大きいものだが、現在では各種通販サイトで輸入盤の入手も容易になっている。ムゼア盤再発以前に評価が定着したのは、アナログ盤の時代はレコードの貸し借りは重要な情報源だったからで、このアルバムも貸し借りやテープ・コピーで広まった。フランスの第一線ミュージシャンが勢ぞろいしたこのアルバムはミュージシャンズ・フェヴァリットに上がりやすい風格と音楽性を持っていた。
 音楽によるユートピア描出と裏腹に同時にテーマになっているのは一種の楽園追放で、70年代末にはもう、たとえばゴングの「Radio Gnome Invisible」三部作のようなヒッピー的理想主義はリアリティを失い、チボーが長く関わってきたマグマもコバイア神話を歌い続ける必然性は78年の『アターク』(チボーのプロデュース作)ではすでに無理が生じてきていた。事実スタジオ録音アルバムでは、マグマが再びコバイア神話のアルバムを制作するのは2004年の『K.A.』になるが、作曲は70年代前半に完了して未録音だった曲からなるアルバムだった。ローラン・チボーの『忘却の幻夢界』はムーディ・ブルースみたいな古臭い邦題だが「しかし、夢を見続けることは出来ない」を凝縮してそれなりに意味は通る。ゴングやマグマと共通する瞑想的な反復が多彩なアレンジによって展開される点で、小ぶりながらも確かにフランスの70年代ロックの到達点にふさわしい音楽性を提示している。完全に違うのは、ゴングやマグマ、アルプやアンジュらの音楽にあった高揚感をきっぱりと排除して冷徹(音楽自体は冷たいものではないが)な計算から制作されている印象を受けることだ。その意味では、これもロックのジャンル内で反ロックを志向し、成功した作品かもしれない。