人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(13)

 カレーパンマンは強さとは辛さのことと考えており、ふだんからアンパンマンの戦い方をフッ、甘いぜとからかうこともよくありましたが、正義感は一直線なので、柔和なハンサムでどんな女性にでもモテるしょくぱんまんよりも深い両思いになる回数は多く、シュークリーム姫のような高貴な身分で、しかも甘食系の女性と交際していたこともありました。過去形で語らないわけにはいかないのは、カレーパンマンアンパンマンたちの住む世界では時間の流れは神話のように雄大で、その場かぎりの矛盾も呑み込み、さまざまな過去が累積して遠近感を失っているからです。カレーパンマンアンパンマンに較べればややイレギュラーな存在で、カレーパンそのものよりはカレーの普及に正義を尽くしており、辛さ100倍カレーパンマン!という決め台詞通り、ややその正義は偏向してピント外れな時もありました。カレー丼まんには冷ややかなのにシチューおばさんのカレーシチューには母性を感じてほだされてしまう、という甘さもありました。しかしすべてにおいて的確な正義など神話的世界ですらありえないので、カレーパンマンアンパンマンの世界では、なくてはならないスパイス役なのです。
 ところでめいけんチーズですが、バタコさんが名前をつけていつもパン工場でバタコさんといっしょにジャムおじさんの助手をしたり、番犬として手柄を立てたりしているこの犬は実のところ出生不明で、アンパンマンが子どものころ(!?)森で拾ってきた子犬だったのです。バタコさんがチーズと名前をつけるや子犬はバタコさんそっくりの顔立ちになり、今ではレアチーズちゃんというガールフレンドもいて発情期には二匹そろってどこかにシケこみました。ばいきんまんの監視カメラがとらえたジャムおじさんとバタコさんの件以外では、発情期のチーズとレアチーズちゃんは唯一この世界で観測される性的存在でした。
 データが少なすぎる、とばいきんまんはボヤきました。ばいきんまんアンパンマンたちに今後の対策を立てるためには性の世界を知らねばならない、と予想される現在、ではそのために活用できる知識も世界の現象も、あまりに性的要素が欠けているのです。ばいきんまんは棒の先に黒いものをつけた糸を結んで垂らすと、草むらでゆらゆら振ってみました。すると黒いものをメスと間違えたオスのバッタが飛びついてくるのです。ですが、それが何だというのでしょう?