人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(34)

 今カレーパンマンが陥っているジレンマは、自分がばいきんまんの罠にはめられた、これはまったく自分がうかつだったからに過ぎない(同じような手に何回も引っかかってきたような気がする)、この状況を冷静に考えれば考えるほど事態はカレーパンマンひとりで切り抜けなければならない、ということから始まりました。ジャムおじさんたちは当てにならない、しょくぱんまんが帰ってくるのも……おれがこんな目にあっているくらいだから、ばいきんまんしょくぱんまんをだます手口も用意してあるはずだ。さらにカレーパンマンを縛りつけているのは、文字通り小柄な大人ほどのたけのある、そしてそのたけに見合うほどのたっぷりとしたスリーサイズをそなえた(スリーサイズと呼べればですが)、乳頭としか見えないものでした。これがアンパンマンだって?アンパンマンとは昨夜、おれはどういう会話をしただろう?明日の天気は崩れそうだね、雨の日のパトロールは難儀だよな、しょくぱんまんみたいにおれたちもアンパンマンカーとかカレーパンマンジェッターとか作ってもらえないかなあ。誰に作ってもらうの?とアンパンマンが言うので、ジャムおじさんの仕事じゃないだろ、ばいきんまんにでも作ってもらうか、とカレーパンマンは廊下の監視カメラに笑いかけながらウィンクしました。そう、ウィンクした。しまった、あれが挑発になっちまったのかな?
 しかし問題はこの気味の悪い物体の方だ。体温らしきものも確かにある。生き物らしく微妙に膨らんだり縮んだりしている様子もある。なにしろ縛りつけられているんだから間違いない。生き物、というか乳頭ならではのなんだか甘い体臭もする。これが乳頭ならこの乳頭をつけている生き物はどれだけでかいんだ?というより、肉体の一部だけが肥大してほとんどを占める生き物というのもないことはないらしいが、これもそれなのか?で、朝からアンパンマンがいなくて、乳頭が部屋に転がっていた。いや、それはばいきんまんジャムおじさんに化けておれに説明したことだ。
 それでも一考すべきは、ばいきんまんでなくてもそうだが、有利な立場にいる時のばいきんまんが嘘をつく可能性はほとんどない、ということだ。本当にこの乳頭がアンパンマンのなれの果てで、監視カメラで見つけて好機とばかりにパン工場を荒らしに来た。ばいきんまんの性格からして、それより面倒な計画を立てていたとは思えないのだし。