人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜涼気譚・夜ノアンパンマン(63)

 一方その頃(この前置きが本当のことだとするなら)、めいけんチーズは犬小屋の中にいました。ばいきんまんの監視カメラがパン工場で唯一見逃しているのがこの犬小屋の中でした。めいけんチーズはパン工場じゅうに乱交がはびこっていてもペースを崩さない唯一のめいけんでした。それはチーズが偉いからというより、単に犬だから発情期以外にはその気にならないというだけです。チーズの彼女のレアチーズちゃんとも、発情期以外には顔をあわせても無関心な仲でした。それにひきかえ……
 もとよりパン工場の人たちにはなべてずぼらな面がありました。特に目立つのがジャムおじさんですが、このおやじはパン工場では神のごとき存在なのであげつらうことはできません。どの辺が神かというと、まず性欲からしてそうでした。生理中のバタコさんとの交接をなおさら好む、という困った性癖もあったのでバタコさんが音を上げた時にはしょくぱんまんアンパンマンカレーパンマン(順不同)を掘る、しゃぶらせるという悪趣味すらありました。しかし本題はジャムおじさんの性豪(!)ぶりではなく、パン工場の人たちがいかにずぼらであったかということなのです。
 まずトイレの後に水を流さないなどは基本中の基本で、追い炊き式のお風呂はもう何年も水替えしていないのはエコロジー的にも良しとすら思われていました。生肉をさばいた包丁をすすぎ洗いもせずあらゆる調理パンに使うので、ジャムおじさんのパンを主食としている町の人たちはサルモネラ菌リステリア菌ボツリヌス菌などにはすっかり耐性が出来ており、肝炎持ちなど当たり前というありさまでした。しかしこうしたことはすべて自然界の掟みたいなものですから、ジャムおじさんが原因でなくても多かれ少なかれ起こることなのです。天国では誰も病気にならず、歳も老いないというのが本当なら、この町の人たちは天国に住んでいて、それはジャムおじさんのずぼらな謎の不老不死パンのおかげでした。
 めいけんチーズは退屈のあまり伸びをしました。数代前のチーズが数代前のレアチーズちゃんと交尾中に腹上死して以来(二足歩行もできるので、正常位もするのです)、犬小屋は二匹がつるむのは無理なサイズに改築されたのでした。まあ犬小屋だけが縄張りではありません。しぶしぶ起き上がると、めいけんチーズはパン工場の要所要所に放尿してまわりました。マーキングはめいけんの証ですからね。