人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(64)

 心が!叫びたがっているんだ、とばいきんまんは言いました。何を叫びたいんですかホラー?とホラーマン。かびるんるんたちも当惑して身を寄せ合いながらばいきんまんを遠巻きにしました。内心では彼らも大したことはないと舐めていましたが、ばいきんまん自体は大したことなくても、ばいきんまんが騒ぎ出すことで過剰反応して先攻防衛してくる正義が出てくると甚大な被害が出るのです。特にかびるんるんたちなどは個々の人格を持たない攻守両用兵器と見做されていましたから、早い話が使い切りの捨て駒扱いでした。捨て駒……
 心って何ですかホラー?だいたいそんなものばいきんまんさんはお持ちになっているんですか、とホラーマンは当たり前のように訊ねました。良い質問だ!とばいきんまん、そんなものあるわけないではないか。ただ言ってみただけだい!かびるんるんたちはホッと胸(比喩的な意味ですが。なにしろカビですからそんなものはありません)をなでおろしました。それでは何でそんなことをいうんですかホラー?それはだな、このおれさまには青春時代というものがなかったのだ。青春とはどんなものか、それらしいことを叫んでみたら少しは青春というものも理解できるかと思ったのだ。そうですかあ、とホラーマン、私にはたぶん青春時代というのもありましたよ、ガイコツになるまでそれ相応の人生があったはずですから。お前に青春?忘れちゃいましたけどねー、だってガイコツしか残ってませんからホラー。
 そこに作戦会議室(であり、食堂であり、居間)のドアを蹴飛ばしてドキンちゃんがずかずかと入ってくると、タオルを巻きつけたバットでホラーマンの大腿骨を水平にスコーン!とかっ飛ばしました。ありゃー、と床に小山のように崩れ落ちたホラーマンの骨にいちべつをくれると、ドキンちゃんはフン!?と吐き捨てて出て行きました。ホラーマンは自動的に復元すると、何だったんでしょうかねホラー?女心はわからん、とばいきんまん。あら、じゃあドキンちゃんには心があるんですねえホラー。いンやそれは言葉のアヤというものだ、とばいきんまん、女心と心とは等価でも部分集合でもないものだ。まー言うならば、一種のキツネ憑きみたいなものだな。
 性差別的な発言はヤバいですよホラー、とホラーマンは慌てて取りつくろいました。ところでまだ、心が、叫びたがっているんでらっしゃるんですか?
 おれさまがか?冗談じゃないや!