人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

The Thelonious Monk Quartet - Misterioso (Riverside, 1958)

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The Thelonious Monk Quartet - Misterioso (Riverside, 1958) Full Album : https://www.youtube.com/playlist?list=PLv4PEAoZeRvxhu6clVALfZ2SYQgE9hoc1
Recorded at Five Spot Caf?? in New York City, August 7, 1958
Released by Riverside Records stereo LP RLP 1133/mono LP RLP 12?279, 1958
All songs were composed by Thelonious Monk, except where noted.
(Side one)
1. Nutty - 5:22
2. Blues Five Spot - 8:11
3. Let's Cool One - 9:16
(Side two)
1. In Walked Bud - 11:20
2. Just a Gigolo (composed by Irving Caesar and Leonello Casucci) - 2:07
3. Misterioso - 10:52
[ Personnel ]
Thelonious Monk - piano
Johnny Griffin - tenor saxophone
Ahmed Abdul-Malik - bass
Roy Haynes - drums

 このライヴ・アルバムは前回取り上げた『Thelonious in Action』と同時録音の姉妹編でこちらの方が少し後に出たが、今日では『Misterioso』の方に軍配を上げる評価が多い。同日のライヴ録音(正確には予備日を入れて2日)から実際の演奏順には関係なく2枚のアルバムに分けたのだが、新曲の割合が多くLPのA面とB面で性格を分けた工夫が『Thelonious in Action』では、特にCDがアルバムの標準になってからは煩わしさを感じさせるようになった。同じエンディング・テーマがCDでは3回出てくるので流れがぶつ切りになっているのだ。その点『Misterioso』はCDでA面とB面がつながることでますます聴きやすくなり、さらに2回にわたるリマスター版で増補された曲がいずれもモンク必殺の代表曲なので、モンクを初めて(または、まだ数枚)聴く人でも、モンクをほとんど全作聴いた人でも、モンクでも聴いてみようかな、という時にこれほど手頃なアルバムはない、という1枚になっている。CDのボーナス・トラックは次の通り。
(1989 bonus tracks)
1. 'Round Midnight - 6:15
2. Evidence - 10:14
*Recorded at Five Spot Cafe, NYC, July 9, 1958
(additional 2012 bonus track)
3. Bye-Ya / Epistrophy (Theme) - 11:54 (Art Blakey- drums replaced Haynes)
*Recorded date and place unknown(late '50s)
 89年版の2曲でもアンコールには十分なのだが(アンコールでこの2曲なら待ってましたの選曲だろう)、エンディング・テーマに「Epistrophy」が入るラテン・リズムの「Bye-Ya」も典型的なモンク調の名曲なので2回目のアンコールにはちょうど良い。オリジナルLPでは『Thelonious in Action』『Misterioso』ともに1958年8月7日のテイクが用いられたが、CDでは7月9日のテスト録音からの曲がどちらのアルバムにも追加されている。8月7日テイクには「Evidence」はあったが(『Thelonious in Action』収録)、モンクを代表する名曲「'Round Midnight」は演奏されなかった、または収録されなかったのだ。リヴァーサイドではソロ・ピアノ・アルバム『Thelonious Himself』1957と『Mulligan Meets Monk』1957で取り上げたばかりだから見送ったのかもしれない。一方「Epistrophy」は『Monk's Music』1957にも収録されているがあちらは7人編成のジャムセッション風アレンジで、ライヴのエンディング・テーマでジングル的に演奏されているこちらはライヴの雰囲気を出すために残しておいたのだろう。
  (Original Stereo "Misterioso" LP Front Cover)

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 このアルバムはモンクにとって初めてのステレオ・リリースで(モノラル盤も同時発売)、同時録音・先行リリースの『Thelonious in Action』がステレオ盤で再発売されたのは1960年になってからだった。ステレオ盤のジャケットはご覧の通り「STEREO」と「MONK」が同じ大きさで、アルバム・タイトルよりステレオの表記の方がでかい。これはあんまりなので、再発売ではアメリカでもモノラル・リリースのジャケットに統一された。モノラル盤ジャケットは、アーティスト写真を使っていないアルバムではモンクの全アルバム中でも出色の出来で、ジョルジオ・デ・キリコ(1988~1978)の『The Seer』1914-1915(ニューヨーク近代美術館所蔵)を使っているが、それと大胆なタイトル・タイポグラフィーの取り合わせが素晴らしい。当時でもインディーズのリヴァーサイドだからやれたジャケットで、現代ではインディーズですらできないセンスだろう。音楽そのものがこのジャケットに見合うものとなると、このアルバムを聴いた後ではモンク以外浮かんでこないくらいしっくりくるのは意外な気がする。
 エリック・ドルフィーの『Outward Bound』『Out There』1961が両作ともドルフィーの友人の画家によるという実に汚い描き下ろしジャケットだったが、サン・ラの本人じきじきの汚いジャケット同様音楽と併せると何となく良く見えてくる。キリコの油彩画はモンクの生年より前の独立した絵画作品なわけで、そういえばモンクのリヴァーサイド移籍第1作『Thelonious Monk Plays the Music of Duke Ellington』1955もアンリ・ルソーの絵を使ったジャケットだったから社長のオリン・キープニーズ1人でやっているインディーズのリヴァーサイドの、社長の趣味のジャケットということなのだが、出来合いのヴィジュアルに音楽を合わせてこうしっくりくる例はあまりない。それにモンクの音楽が絵画的イメージを喚起しやすいとも言えない。強いて言えばモンクの音楽は抽象度が高く、音楽以外の意味づけを拒んだところに成立している。だからこそ何もない空き地のようにルソーやキリコの絵画がぴったりはまるとも思える。無心さという面ではルソーやキリコの絵画はモンクの音楽によく対応している。
  (Original Stereo "Misterioso" LP Liner Notes)

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 前回掲載したがおさらいすると、現行CDのようにボーナス・トラックがつかないLPでは収録曲はすべて1958年8月7日のライヴから採られた。リヴァーサイドには編集後のマスター・テープしかないので実際の演奏順は不明らしい。このリストも1~7が『Thelonious in Action』AB面、8~13が『Misterioso』AB面と同じ曲順になっている。「Epistrophy(Theme)」は2回演奏されるので、曲数としては12曲、それも単なるクロージング・テーマなので曲には数えないとすれば実質11曲、うち「Just A Gigolo」はソロ・ピアノだからバンドによる演奏は10曲になる。新曲が「Light Blue」「Coming On the Hudson」「Blues Five Spot」で他は既発表曲の再演だから選ばれた代表曲は7曲になり、モンクの豊富なオリジナル曲数からすると絞りに絞り込んだものだが、これはモンク初の公式ライヴ盤でもあった。
[ Thelonious Monk Quartet ]
Johnny Griffin (tenor saxophone -1/11,13) Thelonious Monk (piano) Ahmed Abdul-Malik (bass -1/11,13) Roy Haynes (drums -1/11,13)
"Five Spot Cafe", NYC, August 7, 1958
1. Light Blue Riverside R 45421, RLP 12-262
2. Coming On The Hudson -
3. Rhythm-A-Ning -
4. Epistrophy (theme) -
5. Blue Monk -
6. Evidence -
7. Epistrophy (theme) -
8. Nutty Riverside RLP 12-279, RLP 1133
9. Blues Five Spot -
10. Let's Cool One -
11. In Walked Bud -
12. Just A Gigolo -
13. Misterioso -
* Riverside RLP 12-262, RLP 1190; Thelonious Monk - Thelonious In Action
* Riverside RLP 12-279, RLP 1133; Thelonious Monk - Misterioso
(Stereo "Misterioso" LP Original release came with a rice-paper inserts)

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 初のステレオ・リリースにはこんな解説書まで添付されていたらしい。ついでに各曲のモンク自身による初録音のデータを、テスト録音の7月9日分を含めてリストにすると、
"Five Spot Cafe", NYC, July 9, 1958
1. Unidentified Solo - first appearance
2. Blues Five Spot - first appearance
3. In Walked Bud / Epistrophy (theme) - '47.10.24(Blue Note) / '48.7.2(Blue Note)
4. 'Round Midnight - '46.6or5(Radio Broadcast/with Dizzy Gillespie Big Band), '47.11.21(Blue Note)
5. Evidence - '48.7.2(Blue Note)
"Five Spot Cafe", NYC, August 7, 1958
1. Light Blue - first appearance
2. Coming On The Hudson - first appearance
3. Rhythm-A-Ning - '57.5.15(with Art Blakey's Jazz Messengers, Atlantic)
4. Epistrophy (theme) - '48.7.2(Blue Note)
5. Blue Monk - '54.9.22(Prestige)
6. Evidence - '48.7.2(Blue Note)
7. Epistrophy (theme) - '48.7.2(Blue Note)
8. Nutty - '54.9.22(Prestige)
9. Blues Five Spot - first appearance ('58.7.9)
10. Let's Cool One - '52.5.30(Blue Note)
11. In Walked Bud - '47.10.24(Blue Note)
12. Just A Gigolo - '54.9.22(Prestige)
13. Misterioso - '48.7.2(Blue Note)
 これは必ずしも全曲がモンク自身が初録音したのではなくて、「Epistrophy」は1941年(モンク24歳)には初期のビバップ・オリジナルとしてよく演奏されていたそうだし、「'Round Midnight」の初録音はモンクの弟分だったバド・パウエル(当時19歳)がピアノを弾いたクーティ・ウィリアムズ楽団のヴァージョンだった('44.8.22録音)。また、「Rhythm-A-Ning」も正確にはモンクが客演したアート・ブレイキーのアルバムへの提供曲だった。その時のメッセンジャーズのテナーがグリフィンだったわけだが、初演はモンクもグリフィンもボロボロだったのにこの再演では同じ曲を同じテナーとピアノが演奏しているとは思えないほど自在で楽しい演奏を繰り広げている。
  (Original Mono "Misterioso" LP Side1 Label)

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 グリフィンの前任テナーのジョン・コルトレーンとのカルテットではスタジオ録音で残されているのはLP片面分しかなく、
Thelonious Monk With John Coltrane? (Jazzland JLP 46)
John Coltrane (tenor saxophone) Thelonious Monk (piano) Wilbur Ware (bass) Shadow Wilson (drums)
*Reeves Sound Studios, NYC, July, 1957
1. Ruby, My Dear
2. Trinkle, Tinkle
3. Nutty
 また後年の発掘ライヴがあるがクラブ収録ではなく国会図書館記録録音によるコンサート録音のため、演奏の生硬さが指摘されているが(音質は抜群に良い)、
Thelonious Monk Quartet With John Coltrane At Carnegie Hall? (Mosaic MQ1-231)
John Coltrane (tenor saxophone) Thelonious Monk (piano) Ahmed Abdul-Malik (bass) Shadow Wilson (drums)
*"Carnegie Hall", NYC, early show, November 29, 1957
1. Monk's Mood
2. Evidence
3. Crepuscule With Nellie
4. Nutty
5. Epistrophy
same personnel
*"Carnegie Hall", NYC, late show, November 29, 1957
6. Bye-Ya
7. Sweet And Lovely
8. Blue Monk
9. Epistrophy (incomplete)
 また、グリフィン参加の翌58年にも、1ステージでグリフィンに代わりゲスト参加したライヴが当時のコルトレーン夫人によって録音されており、音質は悪いがクラブ出演の雰囲気を伝えるものに、
Thelonious Monk Quartet Live At The Five Spot Discovery!? (Blue Note 0777 7 99786 2 5)
John Coltrane (tenor saxophone) Thelonious Monk (piano) Ahmed Abdul-Malik (bass) Roy Haynes (drums)
*"Five Spot Cafe", NYC, September 11, 1958
1. Crepuscule With Nellie
2. Trinkle, Tinkle
3. In Walked Bud
4. I Mean You
5. Epistrophy
Thelonious Monk With John Coltrane - Complete Live At The Five Spot? (Gambit 69241)
same session, additional tracks
6. Ruby, My Dear
7. Nutty
 があり、『Misterioso』冒頭の名曲「Nutty」をグリフィンのヴァージョンを堪能した後でコルトレーン版を聴くと確かにコルトレーンの革新性には驚嘆するのだが、ではグリフィンが見劣りするかというとコルトレーンにはない味がある。コルトレーンのアドリブは幾何学的でシャープなのだがグリフィンのフレージングはコメディアンの口舌を思わせたりダンサーの動きのようだったりと、表現の幅が広くて心地よいのだ。コルトレーンも意表を突く表現力で圧巻なのだが、グリフィンのように率直に快楽的ではない。そこがコルトレーンを真に革新的な巨匠にした点とも言えるのだが。
  (Original Stereo "Misterioso" LP Side2 Label)

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 ジャズの名盤ガイドに選ばれるセロニアス・モンクのアルバムというと『Brilliant Corners』や『Thelonious Himself』などもっと突き詰めたようなアルバムになる場合が多いが、ピアノ・トリオ作品なら『Thelonious Monk Trio』、カルテット作品なら『Misterioso』がリラックスして聴けて、飽きのこないアルバムと推薦できる。『Misterioso』の姉妹編『Thelonious in Action』は選曲のせいで力みがあって、こちらもやはり名盤ながら『Misterioso』のようには楽しめない。だがセロニアス・モンクは、弟分の天才バド・パウエルや一方的に敵視されていたレニー・トリスターノのようにキャリアの過程で作風を変化させていったピアニストというよりも、モンク自身は変わらず周囲が変わっていったような楽歴を送った人で、他にそういうピアニストを探せばタイプは全然違うが、ビル・エヴァンスなどもそうだった。
 だがモンクは、他人のアルバムへの参加やコラボレーション・アルバムも多いビル・エヴァンスと較べて極端に出向参加作が少ないピアニストでもあり、不遇な寡作ピアニストでもないのに(リヴァーサイド移籍まではモンクもそうだったが)自作以外ではほとんど目立った活動がないのはジャズ・ピアニストでは珍しい。モンクの、モンク作品以外の参加作でよく聴かれているのはマイルス・デイヴィスの『Bag's Groove』(タイトル曲のみ参加)と『Modern Jazz Giants』、ソニー・ロリンズの『Sonny Rollins Vol.2』(2曲参加)くらいで、ジジ・グライス『Nica's Tempo』(LP片面参加)、クラーク・テリー『In Orbit』などはよほどモンクに踏み込んでいる人にしか聴かれていないだろう。ただしモンクの曲はたいがいのジャズマンなら何かしら取り上げているので、モンク曲のカヴァーを聴いて関心を持つというルートはある。あとは楽しめるモンクのアルバムにたどり着ければいいのだが、けっこうアルバムごとにカラーが違うアーティストでもあるのだ。