人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(69)

 夜ノアンパンマンは80回で終わることになる、とジャムおじさんは言いました、つまり今回を含めてあと12回だな、私たちがやってきたことは一種の我慢大会みたいなもので、いかに真実から目を逸らし続けるかを競っていたようなものかもしれないが……「ミートボール1つ」という歌を知っているかな?男がふらりとレストランに入った、財布の中とメニューを見較べ、男はウェイターに向かって頼んだ、ミートボール1つ。ウェイターがキッチンに向かって怒鳴った、ミートボール1つ。われわれが口に出せないでいるのはそれだ、たかだかミートボール1つと言えずにいるようなものだ。
 でも、とカレーパンマンはのどもとまで出かかって、やめました。おいらの言いたいことくらい誰だって言わなくてもわかることだ。おいらの立場はいちばん辛い、なにしろ変な乳頭に縛りつけられて誰も来てくれない。誰も今朝は様子が変だと思わないのだろうか?アンパンマンがいない、身の丈ほどもある乳頭がアンパンマンの部屋にある、そのことを誰も気づいていないとしても、今朝はカレーパンマンはどうしたのだろう、と誰も心配している様子がないのはどういうことか。カレーパンマンはせっかちだからね、きっとひとりで先にパトロールに行ってるんだよ。おおかたそんな風に納得しているのだろうか?だとすれば普段のおいらのせっかちな態度が悪いのか?それにしても、とカレーパンマンは考えこみました。
 おいらが来た時に部屋にいたジャムおじさんとバタコさんはばいきんまんドキンちゃんの変装だった。ばいきんまんはおいらを縛り上げて、この部屋の様子を観たから来た、というようなことを言ったのだ。ばいきんまんが言っているのは監視カメラで観て飛んで来た、ということで、この乳頭の化け物を指しているとしか思えない。ばいきんまんだけが24時間モニターでこの部屋で夜ノアンパンマンに何が起こったかを知っている。それはミートボールのように誰もが知っているものとは違う。
 その頃しょくぱんまんは最近朝寝坊ばかりだ、やっべえと思いながらしょくぱんまん号でパン工場に向かっていました。道を渡ろうとしていた女の子がびっくりして転び、バスケットを道に落としてしまいました。
 ごめんなさいお嬢さん、としょくぱんまんは車を停めてバスケットを拾い上げました。はじめまして、きみの名前は?いちごミルクちゃんです、と女の子は答えました。