人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

蜜猟奇譚・夜ノアンパンマン(76)

 さて今年もあと5日、われわれの話も残り5回というと、この先は毎日1話ずつ駆け抜けなければならないぞ、とジャムおじさんは言いました、あと5回で片がつくような不始末ならいいのだが、それにはみんなが心を一つにしてかからねばならん。だが肝心なアンパンマンの姿が見えないではないか、とジャムおじさんは憤怒に堪えないというポーズをしました。具体的には握りこぶしを胸の前に持ち上げ、殴れるものがあるなら殴りたいと言わんばかりにぶるぶる震わせるという実にガミガミ親父的なジェスチャーで、実際ジャムおじさんには自分が怒ればみんなが着いてくると思っているような単純バカというか、飯場の親方みたいなところがありました。てかパン工場のボスなんて飯場の親方以外の何者でもないじゃない、といつもニコニコした表情でいながら、愛人1号(他にいませんが)のバタコさんですら腹の中では肝に据えかねていたのです。
 とにかく話はまた振り出しに戻ったというわけだ。アンパンマンはいったいどこへ行った、そしてアンパンマンの部屋にデンと出現したあのでかい乳頭みたいなものは何だ?ジャムおじさん、とバタコさんが口を挟みました、しょくぱんまんもまだ到着していませんけど。ああ、どうせ彼のことだから、食パンの配達中に拾った女の子とカーセックスでもしてるんだろうさ。しょくぱんまんは思わずくしゃみをすると、後背位で挿入していた逸物がニュルッと抜けて臀部に弾けました。どうしたの、といちごミルクちゃん。うん、たまにちょっとアレルギーっぽい時があってね。
 ジャムおじさん、ぼくならここにいます、とアンパンマンは心の声をどれほど上げてきたでしょう。しかしその声は届かず、巨大な乳頭に変化した体を動かすすべもなく、アンパンマンは床ずれの痛みにすら無感覚になってきたのを感じました。ぼくは何か悪いことでもして、その報いがこれなんだろうか、と典型的な罪業妄想アンパンマンに訪れました。この状態から先へ進むと話は「詩」のカテゴリーから「メンタルヘルス」のカテゴリーへ移動させなければならないのでアンパンマンの心の声は無視して話を進めると、その頃ばいきんまんの、たぶん最後の大作戦は、確認を済ませてスイッチを押すばかりの段階へ入っていました。ばいきんまんにとってはこれは真剣な戦争で、ばいきんまんなりの正義がそこにはあったのです。それは少なくとも真実ではありました。