人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Miles Davis - Workin' with the Miles Davis Quintet (Prestige, 1959)

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Miles Davis - Workin' with the Miles Davis Quintet (Prestige, 1959) Full Album : https://youtu.be/qoPB2Je0stY
Recorded at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, New Jersey, May 11 and October 26, 1956
Released by Prestige Records, Prestige PRLP 7166, September 1959
All tracks recorded on May 11, 1956, except "Half Nelson", recorded on October 26.
(Side A)
1. It Never Entered My Mind (Richard Rodgers) - 5:26
2. Four (Miles Davis) - 7:15
3. In Your Own Sweet Way (Dave Brubeck) - 5:45
4. The Theme [take 1] (Davis) - 2:01
(Side B)
1. Trane's Blues (a.k.a."Vierd Blues") (John Coltrane) - 8:35
2. Ahmad's Blues (Ahmad Jamal) - 7:26
3. Half Nelson (Davis) - 4:48
4. The Theme [take 2] (Davis) - 1:03
[ Personnel ]
Miles Davis - trumpet
John Coltrane - tenor saxophone
Red Garland - piano
Paul Chambers - bass, cello
Philly Joe Jones - drums

 なんだか普通のおっさんが道端でちょっと一服しているかのようなジャケットだが、このアルバムはマイルス・デイヴィス50年代クインテットの「ing」四部作をなす作品として知られている。マイルスは大手コロンビア・レコーズへの移籍が決まり、1951年からのプレスティッジ・レーベルとの契約をさっさと満了したかった。1955年の時点で1956年いっぱいまでにアルバム4枚の制作で契約満了と目算が立てられ、マイルスはプレスティッジに隠して移籍第1作『'Round About Midnight』の制作を始める。売れっ子だからスケジュールは毎日のように、地元ニューヨークばかりでなく全米各地にも巡業公演がある。そんな中で1956年5月11日に14曲、同年10月26日に12曲を、セッティングと撤収込み3時間ずつのセッションでリテイクなしに一気に録音した。
 プレスティッジにとってマイルスは目玉商品だったので、広告費なしにいかに多く売るかを案配して、コロンビアからマイルスが新作をリリースするたびに1956年の録音を小出しにしていった。『Cookin' with the Miles Davis Quintet』は1957年、『Relaxin' the Miles Davis Quintet』は1958年、この『Workin'~』は1959年、『Steamin' the Miles Davis Quintet』ですべて録音ストックを発表し尽くしたのは1961年で、『Workin'』と『Steamin'』の間にはジョン・コルトレーンも一枚看板を張れる一流ジャズマンの名声を確立していた。
 1956年5月と10月のセッション内容は以下のリスト通りになる。シングル・カットまでされていたとは今回調べて初めて知った。Part 1&2に分かれているものは、長い演奏なのでシングルA面とB面に分割されていることを示す。
 (Original Prestige "Workin'" LP Liner Notes)

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Miles Davis Quintet at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, May 11, 1956
Miles Davis (trumpet/1-6,8-14) John Coltrane (tenor saxophone/1-3,5,6,8,11-14) Red Garland (piano) Paul Chambers (bass) Philly Joe Jones (drums)
1. In Your Own Sweet Way Prestige PRLP 7166
2. Diane Prestige 45-248, PRLP 7200
3. Trane's Blues Prestige PRLP 7166
4. Something I Dreamed Last Night Prestige PRLP 7200
5. It Could Happen To You Prestige PRLP 7129
6. Woody'n You Prestige PRLP 7129
7. Ahmad's Blues Prestige PRLP 7166
8. The Surrey With The Fringe On Top Prestige 45-248, PRLP 7200
9. It Never Entered My Mind Prestige 45-165, PRLP 7166
10. When I Fall In Love Prestige 45-195, PRLP 7200
11. Salt Peanuts Prestige PRLP 7200
12. Four Prestige PRLP 7166
13. The Theme I PRLP 7166
14. The Theme II PRLP 7166
* Prestige PRLP 7166; Workin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige PRLP 7200; Steamin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige PRLP 7129; Relaxin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige 45-248?? Miles Davis - The Surrey With The Fringe On Top / Diane
* Prestige 45-165?? Miles Davis - It Never Entered My Mind, Part 1&2
* Prestige 45-195?? Miles Davis - When I Fall In Love, Part 1&2

Miles Davis Quintet at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, October 26, 1956
Miles Davis (trumpet) John Coltrane (tenor saxophone/1-11) Red Garland (piano) Paul Chambers (bass) Philly Joe Jones (drums)
1. If I Were A Bell Prestige 45-123, PRLP 7129,
2. Well, You Needn't Prestige PRLP 7200
3. 'Round Midnight Prestige 45-413, PRLP 7150
4. Half Nelson Prestige PRLP 7166
5. You're My Everything Prestige PRLP 7129
6. I Could Write A Book Prestige PRLP 7129
7. Oleo Prestige 45-395, PRLP 7129
8. Airegin Prestige 45-413, PRLP 7094
9. Tune Up Prestige 45-395, PRLP 7094
10. When Lights Are Low Prestige PRLP 7094
11. Blues By Five PRLP 7094
12. My Funny Valentine Prestige 45-353, PRLP 7094
* Prestige PRLP 7129; Relaxin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige PRLP 7200; Steamin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige PRLP 7150; Miles Davis And The Modern Jazz Giants
* Prestige PRLP 7166; Workin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige PRLP 7094; Cookin' With The Miles Davis Quintet
* Prestige 45-123?? Miles Davis - If I Were A Bell, Part 1&2
* Prestige 45-413?? Miles Davis - Airegin / 'Round Midnight
* Prestige 45-395?? Miles Davis - Tune Up / Oleo
* Prestige 45-353?? Miles Davis - My Funny Valentine / Smooch

 この「ing」四部作、別名「マラソン・セッション」は発売ごとにジャーナリズムやジャズ雑誌の絶賛に包まれ、すべて★★★★★の満点評価を受け、即モダン・ジャズの新しい古典として今日まで揺るぎない名盤中の名盤とされてきた。4枚とも素晴らしい。だが発売順もあるが、何より5月録音と10月録音が分散・混在しているため、ジョン・コルトレーンのプレイの向上が目覚ましい10月録音の比率が高いアルバムほど優れている、とされてきた。曲ごとの収録アルバム・リストは上記一覧の通りだが、まず『Cookin'』は全5曲すべてが10月セッションからになる(名高い「My Funny Valentine」はコルトレーン不参加だが)。しかも「マラソン・セッション」中いちばん最初に発売されて選曲や統一感でも有利な条件にあり、これを四部作中ベスト1に上げる評者は多い。
 発表順で第2作の『Relaxin'』も全6曲中4曲が10月録音、2曲が5月録音で、まだアルバム3枚分ある中からの選曲が有利に働いていて幅広い選曲を楽しめる上に統一感にも優れる。これもまたやはり『Cookin'』に次ぐ好アルバムと高く評価されている。
 発表順ならば『Workin'』『Steamin'』と続くが、『Workin'』は全8曲中10月録音は1曲、バンド・テーマがLPのA面とB面にあるから実質7曲、そのうちマイルスもコルトレーンも抜けたピアノ・トリオ曲が1曲あり、ほぼマイルスのトランペットのみで演奏されてコーダ部分で少しだけコルトレーンがハーモニーをつけるバラード1曲をオープニング曲にした構成。一方『Steamin'』も全6曲中10月録音は1曲だけで、選曲上は正真正銘これきりながらも『Workin'』の時点で残り2枚をどう振り分けるか選曲されていたのは間違いなく、LPのA面とB面の最終曲はコルトレーンの抜けたマイルスのワンホーン・バラードになっている。
 (Original Prestige "Workin'" LP Side A Label)

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 条件的には『Workin'』と『Steamin'』は同等なのだが、実際は『Steamin'』の評価の方が高くなるのは選曲にマイルスの初出にして唯一の演奏曲目が多いからで、オリジナル曲ではなくスタンダード曲だが、ここでしか聴けない曲が完熟した演奏で聴けるお得感がある。一方『Workin'』は名バラードA1が1952年5月(ブルー・ノート録音)、オリジナルの名曲A2が1954年3月(プレスティッジ録音)、デイヴ・ブルーベックの名曲をスタンダード化させた功績があるA3は1956年3月(同)で、マイルスの初リーダー録音(1947年8月)で初演されたオリジナル曲B3をあわせて、A面最後とB面最後のテーマ曲ともどもこれらは当時のマイルスのステージ定番曲でもあった。ほぼスタジオ初演曲でまとめた『Relaxin'』や『Steamin'』との違いはそこにあり、だから『Workin'』なのかとも思うが、『Cookin'』も半数は初演ではないマイルスのステージ定番曲が選曲されている。ただしこの演奏の集中力と凝縮感はすさまじい。
 マイルスはチャーリー・パーカーのバンドを独立してからはタッド・ダメロン(ピアノ)との双頭クインテットを始めにさまざまな臨時編成バンドを組んできたが、レコード録音だけでなくクラブ出演もこなす本格的なレギュラー・バンドのリーダーになったのは1955年のクインテットが初めてだった。マイルスはジャーナリズムに対してシニカルだったので反感を買いやすく、当初ジョン・コルトレーンを筆頭にメンバーたちの評判は必ずしも良くなかったが、ニューヨークのジャズ界でトップ・グループにのし上がるには1年もかからなかった。ジョン・コルトレーンは飲酒癖で1957年度はクビになってしまうが、セロニアス・モンク・カルテットで更正して、1958年にはキャノンボール・アダレイ(アルトサックス)が加入していたマイルスのバンドに帰ってくる。
 (Original Prestige "Workin'" LP Side B Label)

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 1958年のマイルス/アダレイ/コルトレーンの強力な3管セクステットも素晴らしいのだが、1955年-1956年のマイルス・クインテットに張りつめていた強力なテンションはこの時期の、このメンバーならではのものだった。ジャズ史上の最高のスモール・グループとして、ルイ・アームストロングのホット・ファイヴ、カウント・ベイシーのカンサス・シティ・セヴン、チャーリー・パーカーのオリジナル・クインテットジョン・コルトレーン・カルテット、オーネット・コールマン・カルテットとともに必ず上げられるのが、マイルス・デイヴィスのオリジナル・クインテットになる。この時点ではジョン・コルトレーンはまだ懸命にバンドのレベルについていこうとしていて、1958年以降のような余裕はなかったのもかえって演奏をスリリングなものにしている。クリフォード・ブラウンマックス・ローチクインテットほど1955年~1956年のマイルス・クインテットは完璧かつ最高の技術を誇るバンドではなかった。だがジャズに不可欠なスリルではマイルス・クインテットに分があった。
 この『Workin'』はライヴの定番曲が大半、かつライヴの構成を踏襲してバラードありスウィンガーありブルースありで、ピアノ・トリオのみの小休止もあればクロージング・テーマもある。安いCDラジカセでも大音量で聴けばかなりライヴの再現度の高いバランスで、この生々しさはオープニング曲のバラード「It Never Entered My Mind」を基準にしたマスタリングがされているからだと思われる。ジャズ喫茶ほどの再生装置で聴くと本当に目の前でバンドが演奏しているような音質のアルバムなのだ。ヘッドホン(ステレオイアフォン)で聴いてもいい。モノラル録音ですら音に遠近感がある。ジャズの魔法を聴くような気がする。