人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真・NAGISAの国のアリス(22)

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 ようやく着いたよ、とカッパとサルとイヌは海岸で大きく伸びをしました。遊んでいられる夏も再来年に卒業を控えた大学時代のこの年が最後ですから、三匹は学生時代最後のレジャーを満喫するため予算の許す限りの国内の南国で過ごしにやってきたのです。
 海岸から砂丘に降りると、彼らのような物好きはさすがに他には誰ひとりとしておらず、さながらプライベート・ビーチのような満足感に三匹は喜びのセッセッセをしました。足代・宿代・食費に雑費がかかっても、海に面した砂丘を独占するのに特別な利用料金など不要である上に、夏だ海辺だ青春だ、と謳歌するのに水着姿の女の子のひとりもいないのは唯一の無念ですが、ナンパは都会でやればいいことです。さいわいカッパは大ノッポなりに、サルは中ノッポなりに、イヌはチビなりに女の子にはモテました。これはひと言で女の子と言っても、大ノッポがタイプという子もいれば中ノッポがタイプという子もおり、チビがタイプという子もいるということです。
 そして今、広大な天然のプライベート・ビーチに立って、カッパとサルとイヌの三匹ともが大自然の偉大な抱擁力の前に色気づいた思考などすっかり漂白されて、ほとんど無心に大海原に対峙しておりました。
 三匹は服の下に水着を着て海岸にやってきていましたから、服を脱いで一か所に集めておくと、そのまま海へ駆け出しました。他愛なく三匹の馬鹿が水遊びに興じる声だけが浜辺に響く中でまずウサギ、それから少女の足が砂の中から勢いよく突き出てきました。それはまるで地球の裏側からストンと落ちてきたようでした。足は一旦砂の中に引っ込むと、今度は砂の中からウサギの手、少女の手が出てきて、三匹の脱いであった服を一着ずつつかみ砂の中にひきずりこみました。それからウサギの手が燕尾服を盗んだ服の替わりに砂の上に置き、少女の手がやはり少女の着ていたらしいワンピースを盗んだ服の替わりに置きました。
 波音が寄せては返しました。
 カッパ、サル、イヌの三匹は戻ってくると、サルとイヌの服がなくなっている替わりに少女のワンピースとやたらと小さい燕尾服が置いてあったので、カッパは自分の服を着て何ら問題ありませんでしたが、サルとイヌは困ってしまいました。服の下にはそれぞれ千円札が服の代金のつもりか挟んでありましたが、学生証も定期券も財布もポケットに入れてあったのです。でも千円きりで何ができましょう?