人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真・NAGISAの国のアリス(23)

 いつまでも水着では街に出られませんので、とりあえずカッパ、サル、イヌの三匹は服を着ることにしました。カッパは残されていた自分の服を着れば良いので問題ありませんでしたが、サルとイヌはワンピースと燕尾服のどちらを着るかで困ってしまいました。ワンピースは女物だし、燕尾服は中肉中背のサルにはサイズが小さそうで、結局女装するならチビなイヌの方が似合うと決められて、イヌは少女物のワンピースを着ることになりました。
 問題は僕だな、とサルは燕尾服に無理矢理そでを通してみました。何とか着られないことはなさそうだぞ、うーん、やあっ!と両腕がやっと両袖に通ると、長さは腕まくりほどですが、燕尾服の背中はびりっと左右に裂けてしまいました。正面からはつんつるてんながら服を着ているように見えますが(腹部はヘソ上で、燕尾服というより素肌にチョッキを着ているようでした)、背中は丸出しです。やあ、見たことあるよ、とカッパ、びんぼっちゃまみたいだよ。それよりズボンは入るかい?
 お前はいいよなあ、とサルはボヤきながらズボンをはくと、意外と伸縮性のある素材で、膝上の短さながらスパッツをはいた具合になんとか収まりました。ぱっつんぱっつんなのは仕方ないですが、こりゃあ目のやり場に困るね、とカッパ。ヒワイだわ、とイヌ(女装)。どうせ私は大きいですよ、とサル、他人と較べたわけじゃないけどね。
 街、と言ってもすれ違う人もいないような田舎町ですが、とにかく千円札をくずして小銭を作ろう、実家から宿に速達で送金してもらうよう電話してみよう、と三匹はタバコ屋に寄りました。服を盗まれていないカッパはサルとイヌのために小銭を貸す義理はないからです。タバコ屋には青島幸男が店番をしていました。こんな田舎だからなあ、とサル、騙してタバコも値切れるんじゃないか?
 あのオバアさん、とサルは背中が見えないように左右にぴったりカッパとイヌにくっついてもらいながら話しかけました、ゴールデンバットは200円でしたよね?
 ゴールデンバットは200円だったかい?と青島幸男。そうですよ、全国どこでもゴールデンバットは200円、とサルは千円札を出し、1個ください、お釣りは800円。
 ちょっと待ってくれんかね、と青島幸男は言うと、やにわに脇の赤電話の受話器を取り、もしもし、タバコの値段も知らない不審者は通報するようにと……ええ今、店先にいます。
 不審者?