人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真・NAGISAの国のアリス(25)

 やっと人心地ついたような気がするよ、と風呂屋から路地に出てサルがつぶやきました。おれたち人じゃないけどね、とカッパ。サルもイヌも、砂丘ですり替えられた燕尾服とワンピースから脱衣場で他人様から掠めてきた服に変え、とりあえず不審者には見えないでしょう。いかにも田舎者っぽい服装が洒脱なカッパのカジュアルないでたちと並ぶと不似合いですが、文句は言っていられません。路地は真っ暗で、街角ごとにある街灯の周り以外は足元も見えないくらいでした。
 とにかくこれなら宿に戻っても怪しまれないだろうから、泊まりの予定はもうキャンセルして夜行バスか電車に乗るか、でなければ電話を借りて実家に送金してもらうよう頼もう。ヒッチハイクで京都に帰るにも今のあり金じゃ菓子パンも買えないよ。もちろん服も所持品も盗まれていないカッパだけなら困ったことはないのですが、お金を貸さない代わりに友人の義理があるので一緒に困ることにしたのです。
 ところで着ていた服は?とカッパ。サルはハッとして、ああ持ってきちゃった。置いてくれば良かったのに、とカッパ、そこら辺に捨てちゃえよ、朝まで誰も気づかないよ。そうだな、とサルは服がすっぽり隠れそうな草むらがないか街灯の下できょろきょろし、暗闇に包みをバサッと投げ捨てました。
 捨てるな、と突然甲高い声が3匹を恫喝しました。街灯の円い明かりの中に、いつの間にかふたつの影が立っていました。捨てるな、とピストルを3匹に向けているのは、砂丘で盗まれたイヌの服を着ているウサギでした。ひいい、と3匹はピストルに気づいて声にならない悲鳴をあげると拾え!とウサギ、また元の服を着ろ。ヤですと言ったら?とサル。殺す、とウサギ、殺してから元の服を着せる。じゃあ着たなら?とサル。着たらそのまま殺す。
 どっちにしろ殺されるんですかあ、とサルとイヌは抱き合ってさめざめと泣きました。何で殺されるんですかあ?
 お前たちは日系英国諜報部ラビット柳瀬少佐(とサルをにらみ)、そして英国武偵高校諜報科アリス・リデル(とイヌをにらみ)として死ぬのだ。え、と3匹はウサギの後ろの影をよく見ると、砂丘でサルが盗まれた服を着た女スパイらしき少女がいました。
 あのー僕は関係ないですよね、とカッパ。うむ、とウサギ。お前は50年後に山奥の地中から白骨で発見されることになる。
 嫌だあ、と3匹は泣き崩れました。仕方ない、自分で着ますよ。