人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Pink Floyd - On Stage with Zappa (October 25th, 1969) (後)

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Pink Floyd - On Stage with Zappa (October 25th, 1969) Full Concert : https://youtu.be/A_hIUYesbCM
Recorded at "Festival Actuel" 2nd Night Show (Full Concert) , Amougies, Belgium October 25, 1969
Released by European Unofficial Release, Not on Label (Pink Floyd) PF2-1, 2007
(Tracklist) ; 1:19:59
1. Astronomy Domine (Syd Barrett) - 10:53
2. Green Is The Colour (Roger Waters) - 3:37
3. Careful With That Axe, Eugene (Roger Waters) - 10:08
4. Tuning Up With Frank Zappa - 2:48
5. Interstellar Overdrive (Barrett, Waters, Richard Wright, Nick Mason) - 21:03
6. Set The Controls For The Heart Of The Sun (Waters, Wright, Mason, Gilmour) - 13:28
7. A Saucerfull Of Secrets (Waters, Wright, Gilmour, Mason) - 18:36 *incomplete
[ Pink Floyd ]
David Gilmour - guitar, vocals
Richard Wright - organ, vocals
Roger Waters - bass, vocals, percussion
Nick Mason - drums
*Guest Appearance on track 4, 5 only - Frank Zappa on Guitar

まず前回のおさらいをすると、このライヴ音源は旧くから知られ、一部は流通していたが、2007年に"On Stage with Zappa"と"Astronomy Domine - The Godfathers Of Invention"のCD2種と、"Pink Floyd Meets Frank Zappa"の同一タイトルで3種類(うち1種はピクチャー・ディスク仕様)のアナログLPで一斉にヨーロッパの業者によりUnofficial Releaseされた。CDは全長79分59秒で収録時間限界まで収めており、LPは1~3をA面、4~5をB面に収めた(6~7を割愛した)1枚の不完全版になっている。
1969年10月時点のピンク・フロイドは『The Piper at the Gates of Dawn』1967.8、『A Saucerful of Secrets』1968.6、『More』1969.6の3枚のアルバムがあり、シングルは8枚出しているがアルバム未収録シングルはそのうち5枚・9曲で、4作目のアルバム『Ummagumma』1969.11の発売を翌月に控えていたがまだライヴ用アレンジの完成には至らなかった(ラフなメドレー形式の部分曲としては演奏していたが新作収録の新曲の大半は実験的で、ライヴには不向きでもあった)という理由もあり、デビュー作『The Piper~』から1・5、第2作『A Saucerful~』から6・7、第3作の映画サントラ『More』から2、第2作と第3作のちょうど真ん中になる1968年12月発表のシングルB面曲3の6曲が演奏されている。フランク・ザッパ主催の現代前衛音楽フェスティヴァルの演奏だから前後の搬入・撤収で2時間枠はあったと思われ、フェスティヴァルとしてはメイン・アクトに準じる厚遇だったと想像される。
翌月発表の第4作『Ummagumma』はLP2枚組大作で1枚がライヴ盤、もう1枚が4人のメンバーが1/4ずつ曲を持ち寄ったソロ・プロジェクト集的な構成になっており、ライヴは1969年4月・5月のステージから4曲が選ばれ、半年後のこのフェスティヴァルの1・3・6・7と同曲でLP1枚分になっている。5も最終候補まで残ったがアナログ盤収録時間の問題で割愛された。ここまでは前回の解説からそのままデータとして転載しておく。
ピンク・フロイドのライヴ活動は1966年~1967年いっぱい(シド・バレットのリーダー時代)を胎動期とすれば、バレットの補佐で加入しバレットの脱退を受けてギター/ヴォーカルの座にデイヴ・ギルモアが就いた1968年4月~1969年いっぱいを初期と見るのがすっきりする。1970年1月からバンドは次作『Atom Heart Mother』1970.10のタイトル曲を始め、アルバム収録予定曲を先行演奏して行くツアーを開始し、『Meddle』1971.11、『Obscured by Clouds』1972.6、『The Dark Side of the Moon』1973.3を挟んで1973年11月までノンストップのロング・ツアーを行い、イギリスでは『Atom Heart Mother』で、アメリカでは『The Dark Side of the Moon』で初のアルバム・チャートNo.1を獲得する。イギリス出身のバンドでローリング・ストーンズザ・フーレッド・ツェッペリンと肩を並べるビッグ・アクトとなったのは、この時期の地道で過酷な集中ツアーが功を奏したものといえるだろう。
(Unofficial Not on Label "On Stage with Zappa" Inner Tray Picture)

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 ピンク・フロイドのライヴ音源が多くのリスナーに求められてきたのは、45年あまりの活動歴でスタジオ・アルバム15作、ライヴ・アルバム3作(正確には3作半)という寡作だからでもあるが、前回触れたように70年代のスタジオ作品(掉尾を飾る『The Wall』1979を除く)まではすべてアルバムに先立つライヴ先行演奏がされているからで、しかも既発表曲もライヴによって大きくアレンジを変えている。ライヴ音源を聴くのはほとんど未発表アルバムを聴くのに等しいことになる。この『On Stage with Zappa』は初期フロイドの総決算とも言える選曲で、公式ライヴとしてはスタジオ盤のボーナス・ディスク扱いの『Ummagumma』収録のライヴ音源より半年後であり、時期的にも1969年の締めくくりに相当し、LP収録の制約を意識しない長時間演奏がくり広げられている。既発表スタジオ・テイク(『Ummagumma』収録ライヴがあるものはそれも)と対照すると一目瞭然になる。なにしろ80分、LP2枚分の長さのステージで6曲しかやっていない。
・Astronomy Domine - 10:53 (4:12/Studio, 8:32/Ummagumma)
・Green Is The Colour - 3:37 (2:58/Studio)
・Careful With That Axe, Eugene - 10:08 (5:45/Studio, 8:49/Ummagumma)
・Interstellar Overdrive - 21:03 (9:41/Studio)
・ Set The Controls For The Heart Of The Sun - 13:28 (5:28/Studio, 9:27/Ummagumma)
・A Saucerfull Of Secrets - 18:36 (11:57/Studio, 12:48/Ummagumma)
このうちアコースティックなフォーク曲「Green Is The Colour」は例外でも、その他の曲は既発表のスタジオ録音よりもほぼ倍の長さで、『Ummagumma』に収録された69年4月・5月のライヴ・テイクよりもさらに数割方長くなっている。特に「 Set The Controls For The Heart Of The Sun」と「A Saucerfull Of Secrets」に著しく、「Astronomy Domine」「Careful Wth That Axe, Eugene」は1969年ツアーでは最初からスタジオ・テイクの倍以上の演奏だったと思われる。「Careful With That Axe, Eugene」は静から動へ爆発するアイディアだけが肝のような曲なので、牧歌的フォーク曲の「Green is The Colour」からメドレーにした時点で実質的にはスタジオ・テイクの3倍近い持続時間を持った曲に改められたといえる。
公式ライヴの『Ummagumma』テイクと較べても長大な「Set The Control~」と「A Saucerful~」は音響実験的要素の強い曲で、後者など1971年ツアーでは30分以上に及ぶ演奏になることも多いことから、この2曲は合わせてアルバム片面に収まるように編集されて『Ummagumma』テイクになったのかもしれない。今回引いた『On Stage with Zappa』でも79分59秒で「A Soucerful~」のコーダ部分がフェイドアウトしているのは80分のCD収録時間限界に無理矢理収めたのだろう。MCやオーディエンスの反応は貴重な資料だからノーカットとしても、フランク・ザッパが客演する「Interstellar Overdrive」前のチューニング時間を短縮編集して「A Soucerful~」を完全収録するべきではなかったか。あと1分あれば、というところでフェイドアウトしてしまうのは痛い。
(Unofficial Not on Label "Pink Floyd Meets Frank Zappa" LP Picture Disc)

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 録音は1969年の客席録音としてはバランス・音質ともに良好な部類だろう。良好なミックスと優れた臨場感で音質の粗さが気にならない、むしろスタジオ作品の落ちついた音像からは予想もつかない爆音ライヴをよく捉えた音質とも言える。そう、初期フロイドは轟音ノイズの前衛ヘヴィ・ロックのバンドだったのだ。演奏内容はまず1969年時点で1時間半の持ち時間のステージなら外せない曲はすべて網羅している。あえて上げるなら1970年のツアーで復活する「Cymbaline」(『More』より)、新曲「Grantchester Meadows」(『Ummagumma』より)あたりが演奏されていないが、1970年ツアーでは核になる新曲が『Atom Heart Mother』収録予定曲の「The Amazing Pudding (「Atom Heart Mother」)」、「Fat Old Sun」と『Meddle』の「Echoes」に発展する「Embryo」のロング・ヴァージョンの3曲あり、『On Stage with Zappa』収録のライヴでは「Cymbaline」や「Grantchester Meadows」、それまで演奏されていた新曲「The Narrow Way」まで入れると散漫になっていたかもしれない。フェスティヴァル出演でもあり引き締まった選曲で臨んだ、という見方ができる。狙いは成功して、初期フロイドでももっともテンションの高いセット・リストになったのではないか。
それはスタジオ・テイクの2倍~3倍に引き延ばされた演奏にも言えて、曲をこなしきった上で挑戦的な、サイケデリック・ロックが出発点となっているがデイヴ・ギルモアが持ち込んだブルース・ロック的な攻撃性を上手く融和した初期フロイドならではの持ち味がある。シド・バレットがリーダーだった最初期にもバレットが中心の爆発的な演奏をしていたのが残されたライヴ映像でも確認できるが、バンドとしてのメンバー全員の一体感はバレット時代よりもギルモア加入後の方が強い。1971年と1972年を境に、新作『The Dark Side of the Moon』全曲の先行演奏からロジャー・ウォーターズのリーダーシップが高まり『The Wall』『The Final Cut』ではバンドから孤立するほどになるのだが、1969年にはウォーターズ、ギルモア、リック・ライト、ニック・メイスンは緊密なチームワークに磨きをかけている最中だった。ピンク・フロイドの美点は、感覚的に自在な集団即興演奏をくり広げながらメンバー全員の焦点が定まった演奏にまとまりがあり、無理のなさが自然に伝わってくることだろう。それが大御所のプログレッシヴ・ロックのバンドでもムーディ・ブルース、キング・クリムゾン、イエスジェネシスらとポピュラリティの点で大きく差をつけた要因になった。フロイドのロックは感覚的・情緒的な訴求力が際立って大きく、メンバーの中にカリスマやロック・スターを必要としないスタイルだった。
一方、このライヴ音源はフランク・ザッパというカリスマ・ミュージシャンをゲストに迎えたセッションを含むことで、ピンク・フロイドの弱点をあっさりさらした演奏も聴かせてくれる。フランク・ザッパはバンドリーダー、作曲・編曲、ギタリスト、エンタテインナーとして超一流の人だが、ザッパの共演しているのはバレット時代から即興演奏用のジャムセッション曲としてフロイドがライヴでは欠かさず演奏してきたオリジナル「Interstellar Overdrive」で、シド・バレットがラヴの「My Little Red Book」のギターリフから思いついた、実質的にはメンバー全員の共作曲で、ギルモアが後任ギタリストになればギルモアもまた共作メンバーになるような自由度の高い曲だった。それほどフロイドが手塩にかけてきた曲を、冒頭のテーマ・リフの後ですぐ始まるフランク・ザッパのリード・ギターはあっさりぶち壊して自分の音楽にしてしまう。途中でリズム・ブレイクが2度入るのはフロイド側のアレンジだが、その後はさらにソロイストに主導権を任せた展開になるから、オルガン・ソロのうちはフロイドの音楽だがザッパのソロではピンク・フロイドがバックバンドになったザッパの音楽になってしまうのがわかる。オルガン・ソロの後のザッパは前半のザッパよりさらに容赦なく、ギルモアが効果音的なギターで絡んでいくが1969年のフランク・ザッパといえば『Hot Rats』で全英No.1なわけで、このライヴ音源の中でザッパ参加のこの曲だけはザッパのギターの切れ味の凄まじさにフロイドはついて行くのがやっと、という事態になっている。長らくこのライヴ音源からはザッパ参加のこの1曲だけが流通していたが、ライヴ全体ではフロイドは絶好調だったのが全曲を聴ける現在ではわかる。1972年以降、フロイドはザッパに限らずゲストの飛び入り参加など不可能なバンドになる。もっともデビュー以来フロイドのステージにゲストが入ることはほとんどなかった。その点でも、このライヴ音源はフロイドのライヴ史上でも、もっとも面白い演奏のひとつといえるだろう。