人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

真・NAGISAの国のアリス(62)

 帽子屋は手にしたティーカップとパンを落とすと、がっくりひざまづきました。私めはつまらない庶民であります、陛下、と帽子屋は息もたえだえに訴えました。
 そうダスな、とハートのキング、確かにお前さんの話はつまらないダス!
 満場の拍手喝采
 もう証言することがないなら、とキング、さっさと下がっていいダス!
 どうやって下がると言うんです?と帽子屋、これ以上下がるともう床下です!
 それなら床に尻でも着けるダス!とハートのキング。
 帽子屋はうろたえ、できればお茶を済ませてからで……と言いかけるうちからキングはいいから行くダス!と一喝しました。帽子屋は慌てて走って退廷しました。あいつは外で打ち首ザンス!とハートのクイーン。
 次の証人を呼ぶダス!とキングが命じました。入廷してきたのは公爵夫人つきの料理長でした。手には胡椒の瓶を提げており、料理長の通ってきた通路でくしゃみが上がりました。
 これはいかんダス、とキング、仕切り直しが要るダスな。ガマンしてる者は今やるダス!
 全員がくしゃみをしました。
 さあ証言するダス!とキング。やなこったい、と料理長。ではタルトの材料は?とキング。まあ胡椒だね、と料理長。
 シロップです!とネムリネズミが叫びました。そいつをつまみ出すザンス!とクイーンが激昂しました、打ち首ザンス!取り押さえてヒゲをチョン切るザンス!
 料理長が退廷しました。次は?とキング。白ウサギはトランペットを吹くと、アリス!と召喚しました。
 何か証言は?とキング。
 何にも、とアリス。
 全然?とキング。全然、とアリス。キングは愕然として、ではこの者を訴えねばならんダス!いいや告訴なんぞ要らないザンス!とクイーン、極刑にすればいいだけザンス。アリスは悪態をつきました。黙るザンス!とクイーン。ばーか、とアリス。
 このガキの首をちょん切るザンス!とクイーン。余計なお世話よ。なら私がこの裁判の判決を下してあげる。ハートのジャックは無罪、ただし人のタルトを盗るのは禁止。
 無罪?おお!と全員が騒然としました。
 とすれば誰の首も切れないダス、とキング。タルトが勝手に逃げたとでもいうザンスか!とクイーン。タルトが盗まれなくなればいいんでしょ、とアリス、それで気が済まないなら自分の首でも切らせれば?
 クイーンはぐうの音も出ず、タルトを盗んだハートのジャックもこれで無罪放免、ただしタルトはもう盗めませんが。