人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(26)

 この豚小屋は何よ、と先代フローレン、つまり現在のムーミンママは吐き捨てました。豚小屋じゃなければ強制収容所、いえ豚小屋だって収容所だってここよりはずっと衛生的だし、見栄えだっていいわ。
 ほほう、と先代ムーミン、つまり現在のムーミンパパはせせら笑いました。お前さんに豚小屋、ないし強制収容所の何がわかるというのだ?しょせんはお嬢さま育ちの想像力でしか空想できまい。冒険家であらばこそ私は豚小屋だって強制収容所だって経験してきた。対角線に横たわるのが精一杯の狭い正方形の独房に監禁された時もあれば、ひどい時は両足をコンクリートに固められて汚い港に沈められもしたのだ。私がムーミンでなければ命を落としていた。あれこそ危機一髪だな。
 あの時はひどかった。猫は首周りにカラーをしただけで身動きできなくなるが、それは顔周りのヒゲの感覚で自分の自由に動ける範囲を感知するからだ。猫にとっては首周りのカラーだけで全身拘束に等しい効果がある。同様に二足歩行が規範のため両手の感覚が自由の基準になる種族の場合、手錠をかけただけでも全身拘束に等しい効果を発揮する。手錠をされても腕ごとのブロウがまたは足が、また体当たりや頭突き、噛みつきがあるではないかと理解はできるとしても、普段から訓練、しかも拘束された状態からの反撃を経験則としていなければ手錠されただけでほぼ無抵抗になる。二足歩行の種族は二足歩行によって前肢の自由と手指による創意工夫を得た代償に、両手なしには日常生活にも不自由なほど依存の傾向を高めた。そして後肢には前肢の負担まで体重を負わせ、併せて歩行に特化した機能の制限を負わせた。手錠をされた状態では外敵に対して圧倒的に不利という防衛本能が働くようになり、この本能は先天的なものだから頭では理解しても容易には打ち消せないものだ。
 確かに私の発明も手作業なしにはできんよ、とフレドリクソンさん。だがそれを言えば、手作業なしにやってのけている作業も世の中にありはしないかね。
 例えばどんなことですか?とロッドユールが訊きました。ロッドユールは花嫁のソースユールと同じくフレドリクソンの甥(姪)なのです。つまり二人は従兄妹なのでフレドリクソン伯父とは生まれた時からのつきあいですが、二人が赤ん坊から大人になるまで伯父さんはまるで歳をとらない人のようでした。
 うーん、とフレドリクソンさん。そうだな、セックスとか。