人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

3/3 - 3/3 Sanbun No San (No Label/private press, 1975)

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3/3 - 3/3 Sanbun No San (No Label/private press, 1975) Full Album
A1, A3, B2-B4 Recorded at Chocolate Factory, Nishi Ogikubo in December 1974.
A2 at Adan Studio, Shibuya in July 1974.
B1 live at Tokyo Geijutsu Daigaku on September 27, 1974.
Released by No Label/private press LLX2309-10, Limited 10 Copies, 1975
All Songs Written by Reck.
(Side A)
A1. きかいのうた Machine Song : http://youtu.be/tftxI532Etw - 9:30
A2. ジャンプ Jump : http://youtu.be/7vTSsIqzN40 - 7:14
A3. いつも Always : http://youtu.be/laJQisxWKpI - 5:34
(Side B)
B1. くもの中 In A Cloud : http://youtu.be/u42OxwbQoKc - 6:14
B2. とんでけ Fly : http://youtu.be/FNWSPJIrqVg - 3:59
B3. まどあけて Open A Window : http://youtu.be/CE02qkeQaa0 - 5:34
B4. 流されてLet It Flow : http://youtu.be/qHsn8np216g - 7:38
[ 3/3 Sanbun No San ]
レック Reck (Kawashima Akiyoshi) - Vocals, Guitar
ヒゴ ヒロシ Higo Hiroshi - Bass
チコ・ヒゲ Chiko Hige - Drums

このアルバムは2007年10月にP-Vine Recordsから増補版でCD復刻されるまで、頭脳警察頭脳警察1』、ジャックス『Live 68' 7' 24』、オムニバス盤『OZ DAYS LIVE』などと並んで70年代の日本のロックの自主制作アルバムのうち、もっとも入手困難なものとして知られていたものです。なにしろプレス枚数が10枚というものですから、市場に出回りようがありません。3/3はフリクションの前身バンドとして幻の存在扱いされ、中心人物レックにとっては前衛芸術グループ「○△□」への参加の後で結成され、3/3の短期間の活動の後イクエ・モリ(ドラムス)とニューヨークへ渡米し、イクエ・モリはDNA、レックはコントーションズらニューヨーク・パンク第2世代の最前線のバンドに参加します。イクエ・モリはニューヨークに残りますがレックは1978年には帰国して再びチコ・ヒゲと組んでフリクションを立ち上げます。フリクションではレックはベーシストになり、1979年~1980年にツネマツ・マサトシがギタリストだった時期はフリクションの最初の絶頂期でした。ヒゴヒロシは自身のリーダー・バンドのミラーズ(ドラムス)~チャンス・オペレーション(ベース)を率いてフリクションと併走するかたわら後期スターリンへの参加など柔軟に活動をしましたが、1989年のフリクションにはギタリストとして参加します。
80年代の日本のロックで最重要バンドの一つだったフリクションですが、80年代に残したスタジオ録音アルバムは3枚きりだったように、スターリンじゃがたらほどにもコマーシャル・ベースに乗ったバンドではありませんでした。要望が多ければ3/3のアルバムのCD復刻ももっと早くあり得たかというと、アーティストとしては過去の作業への客観的距離感がなければ3/3の自主制作アルバムのような特殊な性格の作品を再発売しようとはしなかったでしょう。○△□は村八分のメンバーだったカントを中心としたグループで、1973年に限定7枚(!)プレスされた唯一のアルバムはCD3枚の大増補版として2001年にCaptain Trip Recordsから復刻再発売されていました。2005年には廃盤になっていたフリクション作品の紙ジャケットCD一斉再発に合わせてムック「ロック画報」でフリクション特集号が発売され1979年の未発表ライヴのサンプラーCDがつき、2007年には未発表テイク、未発表ライヴ満載の2枚組ベストCD『Friction Maniacs』が編まれます。このベストCDと合わせて3/3の増補版復刻CD化がようやく実現したわけです。
(Original Private Press "3/3 Sanbun No San" LP Liner Cover & Side A/B Label)

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 ご紹介したのはオリジナルLPの収録曲7曲ですが、2枚組CD版『3/3』2007の内容はほぼアルバム2枚半強の未発表テイク/ライヴ音源を増補しており、曲目は以下のようになります。
[ Archives From The Original Album ]
1-1. きかいのうた - 9:30
1-2. ジャンプ - 7:14
1-3. いつも - 5:34
1-4. くもの中 - 6:14
1-5. とんでけ - 3:59
1-6. まどあけて - 5:34
1-7. 流されて - 7:38
1-8. きせつのうた - 3:58
1-9. タイム・トラベリンマン (Part I & II) - 15:17
[ Live Performances By Pre-Friction ]
2-1. いつも - 6:19
2-2. いよいよ - 6:08
2-3. Femme Fatale (Lou Reed) - 5:42
2-4. Sweet Time - 4:04
2-5. Go Go Baby - 4:21
2-6. All Day And All Of The Night (R.D. Davies) - 3:39
2-7. きかいのうた - 6:21
2-8. Johnny - 4:43
2-9. Pistol - 6:04
2-10. Crazy Dream - 3:45
2-11. かがやき - 5:40
2-12. Vicious (Lou Reed) - 5:14
2-13. I Can Tell - 8:54
2-14. せなかのコード - 8:58
カヴァー曲がキンクスルー・リード、またフリクションのレパートリーになる曲が2-9、2-10、2-11、2-13、2-14と5曲あり、2~3分程度で疾走するフリクション時代になってからの演奏と較べると、フリクション時代に再演する曲を含まない『3/3』本編よりバンド・コンセプトの違いが際立っています。このCD復刻は70年代末~80年代初頭のパンク・ロック・シーンのマニアから相応の注目を集めただけでした。70年代ロックとしては3/3はかなり異様なハードロック・バンドで、レックは日本のロック・バンドでは村八分しか眼中になかったと発言していますが、1973年5月に解散して解散ライヴが唯一のアルバム発売(73年6月)になった村八分も曲名は「あっ!!」「夢うつつ」「どうしようかな」「あくびして」「水たまり」「にげろ」など曲名から想像されるようなシンプルなロックン・ロールでした。
その点3/3は1974年9月にライヴ盤『外道』でデビューした外道と同じく村八分の影響を強く受けていると思われますが(外道の曲名は「香り」「逃げるな」「ビュンビュン」「いつもの所で」「完了」といった具合です)、村八分にあったブルース・フィーリングが外道や3/3にはほとんどなく、3/3は外道よりずっと攻撃的でヘヴィです。外道もクリームやジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスを意識したトリオ編成のバンドでしたが、レックの3/3でのギター・プレイは外道の加納秀人以上にジミ・ヘンドリックスを彷彿させる、後のフリクションの音楽性から見ると意外性のあるものです。『Friction Maniacs』にはジミ・ヘンドリックスTレックスのカヴァーが収められており、一周回ってフリクションの音楽が3/3に回帰したともとれる一貫性を感じさせます。独自のアルバムとして見ても、『3/3』は日本の70年代ロックの突出した作品といえるでしょう。