人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - Other Voices, Other Blues (Horo, 1978)

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Sun Ra - Other Voices, Other Blues (Horo, 1978) Full Album : http://www.youtube.com/watch?v=IDCo_qpA9RU&list=PLZUhHVsRGFSfjUAZchEumaBxbxnwDkAiI
Recorded at Horo Voice Studio, Rome, January 8 & 13, 1978
Released by Horo Records Horo HDP 23-24, 1978
All compositions by Sun Ra
(Side One)
A1. Spring and Summer Idyll - 13:21
A2. One Day in Rome - 5:24
(Side Two)
B1. Bridge on the Ninth Dimension - 14:25
B2. Along the Tiber - 4:04
(Side Three)
C1. Sun, Sky and Wind - 6:30
C2. Rebellion - 12:17
(Side Four)
D1. Constellation - 9:15
D2. The Mystery of Being - 10:20
[ Sun Ra Quartet Featuring John Gilmore ]
Sun Ra - piano, Crumar Mainman organ, vocals
John Gilmore - tenor saxophone, percussion, vocals
Michael Ray - trumpet, vocals
Luqman Ali (Edward Skinner) - drums

 本作は前作『New Steps』に続くイタリアのホロ・レコーズからのアルバムで『New Steps』が1978年1月2日・7日録音の8曲入り2枚組アルバムだったのと同様に本作も1月8日・13日録音の8曲入り2枚組アルバムで、メンバーも同一のベースレス・カルテット編成と、双子のような位置づけができるアルバムです。ホロ・レコーズからは1977年10月ニューヨーク録音の20人編成アーケストラによる2枚組ライヴ盤『Unity』が先行発売されましたが、『Unity』『New Steps』そして本作の3作は多少色違いなだけでほとんど同一のジャケット・アートワークを使っており、地味で渋いとも言えますがホロ・レコーズの財政事情もうかがわれるものになっています。手製ではなく印刷されているだけサターン・レーベルのアルバムよりはお金がかかっていると言うべきでしょうか。ホロ・レコーズ三部作は充実した内容にもかかわらずLPのプレス数は少なくすぐ廃盤になり中古市場にもほとんど出回らず、現在では『New Steps』がプレミア廃盤CDで比較的見つけやすい他は『New Steps』と『Other Voices, Other Blues』が音源のみのダウンロード販売されているにすぎません。サン・ラの作品中でも親しみやすさでは上位に入るホロ・レコーズ作品なのにもったいないことです。版権は現在もホロが確保しているようですから、ソフトとしてこれらをCD再発できるだけの資金や市場流通網がない、ということなのでしょう。
 一応『New Steps』『Other Voices~』の連作は新年に巡業先のローマで急にレコーディングが決定したためホロ・レコーズの自社スタジオしか使えなかった、リハーサル・スタジオ程度の設備しかないのでアーケストラのフル・メンバーではなくカルテット編成が取られた、ということになっています。しかし予算があれば空きホールなどを借りてアーケストラでレコーディングできたはずで、やはりホロ・レコーズが貧乏レーベルだったのが自社スタジオでカルテット録音にした原因でもあったのでしょう。サン・ラがそれを飲んだのは1977年以来ソロ・ピアノの録音でスモール・アンサンブルの発想に可能性を見始めた時期だったので、ライヴではソロ・ピアノ(1977年11月24日録音『Piano Recital』)か20人編成アーケストラで活動する一方(1977年10月24日録音『Unity』)、スタジオ録音では初期アーケストラのような10人の中規模編成に戻っています(1977年10月14日録音『Some Blues but not the Kind That's Blue』)。専任ベーシスト不在でサン・ラ自身がキーボードでベース・パートを担当した例は1974年の録音で頻繁に試していました。ソロ・ピアノでつかんだ成果をバンドで生かすにはいつもの大編成アーケストラより半分、いっそ2管カルテットで、とサン・ラが積極的に向かう理由はあったのです。「My Favorite Things」を『Some Blues~』(10人編成)、『Unity』(20人編成)、『New Steps』(4人編成)と3か月で3ヴァージョンも録音しているのも意欲の現れでしょう。
(Original Horo Records "Other Voices, Other Blues" LP Liner Cover & Side One Label)

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 1月2日と7日に『New Steps』、8日と13日に本作『Other Voices, Other Blues』となると録音日の重複はないわけで(OKテイクが得られるまで録り直しがあったかもしれませんが、このカルテットはNGテイクがあったとは思えません)、『New Steps』が基本的に4ビートで明快な楽曲のアルバムだったとすれば本作『Other Voices~』はいきなりポリリズムでポリトーナルの即興性の強い曲から始まります。2曲目はシャッフル系のブルースで、以降アヴァンギャルドな印象の曲と変則ブルース曲が交互に並ぶ構成です。アルバム・タイトルのまま、「Other Voices」と「Other Blues」を対照させています。まずそこがスタンダードと4ビート中心の『New Steps』とは異なります。もちろん『New Steps』にもアヴァンギャルドな曲は入っていたのですが、曲の配置はアルバムの印象をずいぶん左右するもので、『New Steps』でアルバムの要所要所を押さえていたのは乗りの良い、メインストリーム・ジャズのリスナーにもアピールするような曲と演奏でした。アルバム冒頭に「My Favorite Things」があるだけでつかみはオッケーみたいなものです。しかもジョン・ギルモアはジョン・コルトレーンに影響を与えたテナー奏者です(コルトレーンの「My Favorite Things」はソプラノサックス演奏ですが)。マイケル・レイのトランペットはアンサンブル要員ですが、いい味を出しています。かなり奇天烈なプレイをしていても音色的に説得力があるため収まるところに収まって聞こえるのが金管楽器の得なところです。
 難を言えば『New Steps』『Other Voices~』の2作共通の疑問点として、大半がオーヴァーダビングによるものらしいサン・ラのキーボード・ベース、ほとんどライド・シンバルしか叩いていないルクマン・アリのドラムスがあり、キーボード・ベースについて言えば音色も潰れていて音程すらはっきりしません。ピアノでベース・ラインを弾いている方がまだしもなじんでいますが、それではモダン・ジャズ以前の奏法になってしまい、ソロ・ピアノではともかく管入りアンサンブルではくどすぎてしまいます。そこで大半はキーボード・ベースでベース・パートを補ったものの、ここでの演奏はテスト段階に聞こえます。また、ベース・ラインの弱さを打ち消さないためにライド・シンバル中心(というよりそれだけ)に徹したドラムスはサン・ラの指示かドラマーの考えかわかりませんが、一応このカルテットのサウンド・コンセプトには合っているように聞こえます。ただしドラムスが気になると疑問がむくむく湧き、ひょっとしたらスタジオにはドラムセットがなくライド・シンバルだけ持参してきたのではないか、と思えてきます。つまり『New Steps』と『Other Voices~』両作はベースとドラムスに限界がありすぎるのです。ですが続いてサン・ラはこのカルテットでイタリア国内ツアーを行います。そのツアーからのライヴ盤三部作『Media Dreams』『Disco 3000』『Sound Mirror』に、サン・ラがカルテットのサウンドをどう改善し発展させたかが聴かれます。