人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・偽ムーミン谷のレストラン(60)

 国際法に照らしてみれば、とスナフキンは抗弁しました、私は私の国の法律によって審理されるのが正当な手続きです。私はそれを要求することができる。そもそもそれ以前にそれを怠っていたあなた方の落ち度に重大な問題があります。まるで私が戦時下における敵国との交戦相手かのような--
 どよめきが起きました。つまり君は交戦国の密偵として積極的な戦意があった、ということなのかね?
 私が、ではありません、とスナフキン。あなた方が私をそうであるかのように見做している、ということです。違いませんか?
 大変違う、なぜならわれわれは君に公正な審理の機会を与えており、拷問もせず強制的な自白をさせているわけでもないからだ。
 とうてい承服できません。私が置かれているような拘置下ならばどのような発言も強制的な自白と変わるものではありません。
 では話題を変えよう。君にはお母さまはいらっしゃるかね?
 なぜまた?私の母がこの件に何の関係がありますか。
 大いにある、というか正確には関係は全然ない。関係はないのだが、君とわれわれが自分たちの母親について語るのは自白でも何でもなかろう。単なる世間話にすぎない。つまりこれは尋問でもなければ自白の強要でもないということだ。
 それでは私が自分の母の話などしたくないと言ったら?
 その場合はわれわれが自分たちの母親について延々話すことになる。もちろんこれは審理からは外れる話題である以上真実を語るとは限らないし、そもそも誰が自分の母親について真実を語ることなど出来ようか。そしてもちろん他人の母親についての話ほど退屈きわまりないものはない。それでもいいというなら、するもしないもきみ次第だよ。まさかこの程度の選択を強要とまで言いはしまいね。何なら君から別の話題を提案してくれても構わないよ。たとえば父君とか。
 気が進みませんね。
 それこそが問題ではないかね。君の非協力的な態度が物事をややこしくしているのだ。父君について打ち明け話をするほどうっとうしく面倒くさいことはないが、母堂ならまだしもというところだろう。では君の兄弟姉妹についてはどうかね?
 まだ母親について話す方がマシです、とスナフキン。私の母は変な人でした。それだけです。それだけ。
 それでは母親についての一般論にすぎんよ。誰もが自分の母親は変な人だ、もしくはだったと思っている。それとも君の母堂だけが特別なのかね?
 第六章完。