人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

グレイトフル・デッド The Grateful Dead - グレイトフル・デッド Grateful Dead (Skull & Roses) (Warner, 1971)

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グレイトフル・デッド The Grateful Dead - グレイトフル・デッド Grateful Dead (Skull & Roses, October 24,1971) (Warner, 1971) Full Album : https://youtu.be/lZiBjTno9Uc
Recorded in March to April, 1971
Released by Warner Brothers Records 2WS-1935, October 24,1971
(Side one)
A1. Bertha (Jerry Garcia and Robert Hunter) - 5:27 (recorded April 27, 1971, at Fillmore East, NY)
A2. Mama Tried (Merle Haggard) - 2:42 (recorded April 26, 1971, at Fillmore East, New York, NY)
A3. Big Railroad Blues (Noah Lewis) - 3:34 (recorded April 5, 1971, at Hammerstein Ballroom, Manhattan Center, New York)
A4. Playing in the Band (Hunter and Bob Weir) - 4:39 (recorded April 6, 1971, at Hammerstein Ballroom, Manhattan Center, New York)
(Side two)
B1. The Other One (Bill Kreutzmann and Weir) - 18:05 (recorded April 28, 1971, at Fillmore East, NY)
(Side three)
C1. Me and My Uncle (John Phillips) - 3:06 (recorded April 29, 1971, at Fillmore East, NY)
C2. Big Boss Man (Luther Dixon and Al Smith) - 5:12 (same as A2)
C3. Me and Bobby McGee (Fred Foster and Kris Kristofferson) - 5:43 (same as A1)
C4. Johnny B. Goode (Chuck Berry) - 3:42 (recorded March 24, 1971, at Winterland Ballroom, San Francisco)
(Side four)
D1. Wharf Rat (Garcia and Hunter) - 8:31 (same as A2)
D2. Not Fade Away/Goin' Down the Road Feeling Bad (Buddy Holly and Norman Petty/traditional) - 9:14 (same as A3)
(CD Reissued Bonus Tracks)
12. Oh, Boy! (Petty, Bill Tilghman, and Sonny West) - 2:50 (same as A4)
13. I'm a Hog for You (Jerry Leiber and Mike Stoller) - 4:08 (same as A4)
14. Grateful Dead radio spot - 1:00
[ Grateful Dead ]
Jerry Garcia - lead guitar, vocals
Bob Weir - rhythm guitar, vocals
Phil Lesh - bass guitar, vocals
Bill Kreutzmann - drums
Ron "Pigpen" McKernan - organ, harmonica, vocals
Additional musicians
Merl Saunders - organ on "Bertha", "Playing in the Band", and "Wharf Rat"

 1971年3月24日のサンフランシスコ、ウィンターランド・ボールルームから翌4月29日のニューヨーク、フィルモア・イーストに至る7回分のコンサートからベスト・テイクを集めたライヴ・アルバムが本作『Grateful Dead』で、1969年リリースの『Live/Dead』に続く2作目のライヴ・アルバムになります。正確にはセカンド・アルバム『Anthem of the Sun』もスタジオ録音とライヴ録音を編集したアルバムでしたが、ライヴ音源はあくまで素材としてサンプリングされていたのでスタジオ・アルバムに数えられるのが妥当でしょう。実は今回初めて気づいたのですが、本作はもっとも録音が早い「Johnny B. Goode」1曲がサンフランシスコ録音である以外はオリジナルLPで2枚組11曲のうち残り10曲はすべてニューヨーク公演からの収録です。やはりLP2枚組で1969年1月~3月公演からの『Live/Dead』が全曲バンドの地元サンフランシスコで収録されているのとは対照をなすと言ってよく、ちなみに次作は続けてライヴ・アルバム、しかも3枚組のヴォリュームで発売された『Europe '72』であり、1972年4月~5月に行われた22回のヨーロッパ公演から8回分の公演のハイライト曲がピックアップされています。『Live/Dead』『Grateful Dead (Skull & Roses)』『Europe '72』に重複曲は一切ありません。アルバム第8作『Europe '72』1972に至るまでグレイトフル・デッドのスタジオ・アルバムはデビュー作『The Grateful Dead』1967、第2作『Anthem of the Sun』1968、第3作『Aoxomoxoa』1969、(第4作『Live/Dead』1969を挟んで)第5作『Workingman's Dead』1970、第6作『American Beauty』1970の5枚しかなく、ともにライヴ・アルバムの第7作『Grateful Dead (Skull & Roses)』1971、第8作『Europe '72』1972に続くのですからレコードの作品性が重視されるようになった当時では相当変則的なアルバム制作をしていたことになります。スタジオ・アルバムで発表された曲は実際のライヴでは演奏されていましたが、ライヴ・アルバムは2、3曲以外はほぼ全曲アルバム初収録曲で構成されています。実際には同時期に制作されていたボブ・ウェアのソロ・アルバム『Ace』1972からの名曲A4が先行演奏されていたり(『Europe '72』でも『Ace』からの名曲「One More Saturday Night」が取り上げられます)、また『Live/Dead』のハイライト曲「Dark Star」に相当するアルバムB面を費やした18分5秒の「The Other One」は『Anthem of the Sun』のA1『That's It For The Other One』7:05から発展したインプロヴィゼーション曲です。
 カヴァー曲の選曲ではジャニス・ジョプリンの遺作アルバム『Pearl』からのシングル・カットでジャニス歿後No.1ヒットになったクリス・クリストファーソン作の「Me and Bobby McGee」はなかなか良い出来ですが、アルバム発表当時から評判が悪かったのはチャック・ベリーの大ロックンロール・スタンダード「Johnny B. Goode」で、白人バンドが黒人ロックを演奏する際に陥りやすいビートの平坦さがデッドほどのバンドであっても露呈してしまいました。これが同時期の白人バンドであってもオールマン・ブラザース・バンドであったらそんなことはないので、もともとガルシアはフォーク出身でありスタジオ・アルバムの名作『Workingman's Dead』『American Beauty』ではカントリー・ロック色を強めていたように、フォーク~カントリー系のルーツ・ミュージックには強かったのですが、オールマンのようにブルース・ルーツの濃い音楽性ではなかったと言えます。もっともデュアンとグレッグのオールマン兄弟とディッキー・ベッツが揃っていた頃のオールマン・ブラザースは最強メンバーのフランク・ザッパキング・クリムゾンですら及ばないロック史上最強バンドだったので、当時のオールマンとの比較でデッドやその後のオールマンを計るのは公正ではないでしょう。

(Original Warner "Grateful Dead (Skull & Roses)" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

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 1969年の『Live/Dead』がハイライト曲「Dark Star」やD2のクライマックス曲「Feedback」(ギターのフィードバック・ノイズが8分間続く)に集約されるように実験的でアンダーグラウンドなムードを漂わせていたのに対し、本作のグレイトフル・デッドはいかにも野外コンサートが似合いそうな開放感の溢れる安定した演奏です。A1「Bertha」のさりげないリズム・チェンジ、A4「Playing in the Band」の3/4拍子とインストルメンタル・ブレイク、ドラムスが主導して長いギター・ジャムを経て短いヴォーカル・パートが入るB1『The Other One』、D1「Wharf Rat」の不思議な曲想など、一見普通の軽やかなロックに聴こえますが所どころに音楽が宇宙に飛んでいくサイケデリックなアレンジがしかけられ、これはイギリスのサイケデリック系ロック・バンドが徹頭徹尾サイケに塗り固めたアレンジを指向してしまうのとは逆の発想です。グレイトフル・デッドサイケデリック・ロックの最高峰というので聴いても「これのどこが」と投げ出す人が意外に多いのはそこら辺に原因があり、デッドの音楽はルーツ・ミュージックとサイケデリック感覚が地続きであることに個性があり発明があったので、当時無数に存在したアメリカのサイケデリック・ロック・バンドのうち注目されやすいのは一種表現主義的な誇張されたサイケデリック的音楽性を押し出したバンド群ですが、実際にはデッドと歩調を合わせて穏やかなルーツ・ミュージックからサイケデリックな陶酔感を引き出そうとしていたバンドの方がアメリカのサイケデリック・ロックの標準なのです。
 本作が『Grateful Dead (Skull & Roses)』と呼ばれるのはデビュー・アルバム『The Grateful Dead』と区別するためでもあり、またバンドが自分たちのヴィジュアル・イメージとしていた髑髏とバラをアルバム・ジャケットに持ってきたからですが、この髑髏とバラも決して奇怪さを狙ったものではなく、カリフォルニア州の下はすぐメキシコです。骸骨に飾りつけして死者を弔うとともに生者の歓びを祝うのはメキシコの「死者の日」の祝祭で、日本で言えばお盆に当たるものですが、メキシコのそれはむしろばか騒ぎを伴う陽気なものです。カリフォルニア州はスペインの植民地だった18世紀後半から19世紀前半はメキシコ領になり、19世紀中葉にアメリカ人からの開拓者との戦争を経てアメリカ合衆国州になったので、1960年代にはまだアメリカとしては120年の歴史しか持っていませんでした。2010年代でも人口比では白人40%・ヒスパニック系36%・アジア系13%・黒人6%・インディアンおよび混血6%と非白人率が高く、1950年代~1960年代では白人比率は30%程度だったそうです。2010年代での言語比率も英語57%・スペイン語29%・中国語3%とほとんど南米と乗り入れており、こうした条件はヨーロッパを向いたニューヨークのバンド、黒人労働者の移民を抱えた南部出身のバンドやミシシッピ川上流のシカゴやデトロイトのバンドとは異なる人種混交感覚をカリフォルニア州出身のバンドにもたらしていました。グレイトフル・デッドサイケデリック感覚をメキシコ由来のヒスパニック系音楽にあると思えばイギリスのサイケデリック・ロックとは成立がまるで違うのもなんとなく伝わってきます。1971年といえば時流は'60年代的なヒッピー文化から急激に変化しようとしていましたが、デッドは時流とは関係なく自分たちの音楽を続けることのできた数少ないバンドでした。本作は1971年当時決して新しい音楽ではありませんでしたが、2017年現在でも何ら古びていないのです。