人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

グレイトフル・デッド Grateful Dead - ヨーロッパ72 Europe '72 (Warner, 1972)

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グレイトフル・デッド Grateful Dead - ヨーロッパ72 Europe '72 (Warner, 1972) Full Album
Side 1 to Side 4 : https://youtu.be/7ZmCfm_xd8E
Side 5, Side 6 & Bonus Tracks : https://youtu.be/2TdsUfJumrM
Recorded in April to May 1972
Released by Warner Brothers Records 3WX 2668, November 5, 1972
(Side one)
A1. Cumberland Blues (Jerry Garcia, Robert Hunter, and Phil Lesh) - 5:47 (April 8, 1972 at Empire Pool, London)
A2. He's Gone (Garcia and Hunter) - 7:12 (May 10, 1972 at Concertgebouw, Amsterdam)
A3. One More Saturday Night (Bob Weir) - 4:45 (May 26, 1972 at Lyceum Theatre, London)
(Side two)
B1. Jack Straw (Hunter and Weir) - 4:46 (May 3, 1972 at Olympia Theatre, Paris)
B2. You Win Again (Hank Williams) - 3:54 (May 24, 1972 at Lyceum Theatre, London)
B3. China Cat Sunflower (Garcia and Hunter) - 5:33 (same as B1)
B4. I Know You Rider (trad., arr. The Grateful Dead) - 4:55 (same as B1)
(Side three)
C1. Brown-Eyed Women (Garcia and Hunter) - 4:55 (April 14, 1972 at Tivolis Koncertsal, Copenhagen)
C2. Hurts Me Too (Elmore James) - 7:18 (May 24, 1972 at Lyceum Theatre, London)
C3. Ramble On Rose (Garcia and Hunter) - 6:09 (same as A3)
(Side four)
D1. Sugar Magnolia (Hunter and Weir) - 7:04 (May 4, 1972 at Olympia Theatre, Paris)
D2. Mr. Charlie (Hunter and Ron "Pigpen" McKernan) - 3:40 (May 23, 1972 at Lyceum Theatre, London)
D3. Tennessee Jed (Garcia and Hunter) - 7:13 (same as B1)
(Side five)
E1. Truckin' (Garcia, Hunter, Lesh, and Weir) - 13:08 (same as A3)
E2. Epilogue (Garcia, Donna Jean Godchaux, Keith Godchaux, Bill Kreutzmann, Lesh, McKernan, and Weir) - 4:33 (same as A3)
(Side six)
F1. Prelude (Garcia, Donna Jean Godchaux, Keith Godchaux, Kreutzmann, Lesh, McKernan, and Weir) - 8:08 (same as A3)
F2. Morning Dew (Bonnie Dobson and Tim Rose) - 10:35 (same as A3)
(Bonus Tracks)
18. Looks Like Rain (Barlow, Weir) - 7:37 (same as A1)
19. Good Lovin' (Rudy Clark, Arthur Resnick) - 18:30 (April 14, 1972 at Tivolis Koncertsal, Copenhagen)
20. Caution (do not stop on tracks) (Kreutzmann, Weir, Garcia, Lesh, McKernan) - 4:39 (same as 19)
21. Who Do You Love? (McDaniel) - 0:23 (same as 19)
22. Caution (do not stop on tracks) (Kreutzmann, Weir, Garcia, Lesh, McKernan) - 1:44 (same as 19)
23. Good Lovin' (Clark, Resnick) - 5:59 (same as 19)
(Unlisted Track)
24. The Yellow Dog Story (Weir) - 3:09 (same as A1)
[ Grateful Dead ]
Jerry Garcia - lead guitar, vocals
Bob Weir - rhythm guitar, vocals
Phil Lesh - bass guitar, vocals
Ron "Pigpen" McKernan - organ, harmonica, vocals
Keith Godchaux - piano
Bill Kreutzmann - drums
Donna Godchaux - backing vocals
Robert Hunter - songwriter

 デビュー・アルバム時のメンバー5人(ガルシア、ウェア、レッシュ、ピッグペン、クルツマン)の揃った最後のアルバムで『Live/Dead』『Grateful Dead (Skull & Roses)』に続くワーナー時代のライヴ・アルバム三部作の最終編にしてLP3枚組の大作は、1972年4月~5月にかけてのヨーロッパ公演22回のうち8回のライヴ・レコーディングから精選されたもので、リーダーのガルシア歿後20年を経た現在ではファンの要望に応えて各回の公演の完全版でもリリースされていますが、公演日時順・演奏順でもなくアルバムとして作品性が高いように丁寧に編集されたもので、8公演の完全版がリリースされても価値を失わないものです。オーディエンス・レスポンスをカットしたミキシングもあってスタジオ録音と紛うほどの高音質で生々しい演奏が収録されており、前作『Grateful Dead (Skull & Roses)』にも増して安定感のあるライヴですが、オリジナル・メンバーのオルガン奏者ピッグペンはアルコール中毒の複合症状で命じられたドクター・ストップを無視してツアーに参加しており(1973年3月逝去)、ピッグペンのパートをカヴァーするためにピアノにキース・ゴドショウ、コーラスに夫人のドナ・ゴドショウが正式加入しています。
 デッドにはこれまでオリジナル・ラインナップの5人にセカンド・アルバムとサード・アルバム、『Live/Dead』まではトム・コンスタンティン(キーボード)とミッキー・ハート(ドラムス)の2キーボード、2ドラムスで活動していたのですが、コンスタンティンは力量を認められながらもメンバーとの性格不一致のため脱退し、ハートはメンバーからもファンからも愛されましたが一時ツアー・マネージャーに就いたハートの父が収益を横領した責を取って'71年脱退、'74年に復帰してガルシアの逝去まで在籍し、オリジナル・メンバーに次ぐ在籍期間の長いメンバーになりました。『Grateful Dead (Skull & Roses)』はオリジナル・メンバー5人に戻ってのライヴ・アルバムでしたが一部キーボード・パートをダビングしており、今回は最初からオルガンとピアノの2キーボードでのライヴ収録ですが、ピッグペンのオルガンにはかなりムラがありゴドショウのピアノが目立つ分これまでのデッドのゆるやかなビート感覚とは違っています。ピアノは打楽器としての性質が強いので、ウェアのリズム・ギターやレッシュのベースのように定型ビートを刻まないアンサンブルと合わせるとピアノの刻むリズムの比重が強く響いてしまうので、ピッグペンの歿後はゴドショウはマルチ・キーボードでやはりオルガンを多く弾くことになります。その点では本作のデッドはワーナー時代の総括でもあり、本作だけを取れば安定しているとはいえ過渡期のサウンドとも言えるものです。

(Original Warner Bros. "Europe '72" LP Liner Cover & Side 1 Label)

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 本作はデビュー・アルバムからのF2、『Anthem of the Sun』からの「Caution」(ボーナス・トラック)、『Aoxomoxoa』からのB3、『Workingman Dead』からのA1、『American Beauty』からのE1, D1、ボブ・ウェアのソロ・アルバム『Ace』からのA3など『Live/Dead』『Grateful Dead (Skull & Roses)』と較べて既発表レパートリーも多く、またB2, B4, C2などはカントリーやフォーク、ブルースのスタンダード曲です。既発表曲をスタジオ録音と較べるとアレンジは骨格が太くなり、その分細かいニュアンスはやや飛んでしまったきらいもあります。これは好きずきになりますが、スタジオ・ヴァージョンがすでにあるのだからライヴではこれでいいとも言えます。デッドのリスナーの多数は同曲別ヴァージョンどんとこいでしょう。ただし3枚組LPのうちLP1とLP2、つまりサイド1~4(A面~D面)は『Grateful Dead (Skull & Roses)』の方向をさらに進めて、グレイトフル・デッドにしてはサイケデリック色を薄めてタイトなサウンドになったアレンジのテイクを集めてあるように感じます。翌'73年に(ピッグペンの逝去直前の脱退による穴埋めとファンサービスの両方でもありますが)1970年の未発表ライヴ・テイクを集めた『History of the Grateful Dead, Volume One (Bear's Choice)』が発売されたのはまだサイケデリック色の強い頃のデッドをもっと聴きたいリクエストに応えたものといえます。1973年には今日のように簡便なDVD-RやMP3-Fileはおろかようやく高価なカセットテープ・レコーダーが発売され始めた時期で、まだテープレコーダーというとオープンリールが主流であり、流通用には4トラック・レコーダーが使われていたのです。
 デッドが立て続けにライヴ・アルバムをリリースしたのもデッドのライヴ音源を聴きたいリスナーの要望が高かったからでした。カセットテープが普及した頃になるとデッドは会場に録音席を設け、録音席でのライヴ録音を積極的に許可するようになります。テープの複製交換は自由、ただし販売目的ではなくトレード制で金銭のやり取りはしないのが条件でした。今でも毎年のようにグレイトフル・デッドの発掘ライヴが公式発売されるのもデッドは初期からほとんど全公演がライヴ録音収録されて保存されているからです。本作は今日のように簡便にデッドのライヴ音源を聴けなかったからこそ3枚組LPでリリースされた大作で、従来のデッドのサイケデリック色の強く自由度の高い長尺演奏が聴けるのはLP3のサイド5・6(E面・F面)でしょう。このLP3はA3「One More Saturday Night」と同じ'72年5月26日のロンドン公演で統一されており、現在のCDではLP1とLP2(サイド1~4/A面~D面)がディスク1、LP3(サイド5・6/E面・F面)とボーナス・トラックがディスク2の2枚組CD仕様になっています。実に的を射たCD仕様で、この『Europe '72』は3枚組LPですが2枚組+ボーナスLPという意図で編集されたアルバムでしょう。フランク・ザッパマザーズの『Freak Out』やジョン・レノン&ヨーコ・オノの『Sometimes in New York City』が2枚組LPのうちLP2がボーナス・ディスクであるように、またより近くはジョージ・ハリスンの『All the Things Must Pass』が3枚組LPのうちLP3がボーナス・ディスクだったように、ライヴ・アルバムながらうまく選曲・編集された作品です。デッドとしてはピッグペンのヴォーカルをフィーチャーした曲も入れたかっただろうと思われますが、かろうじてオルガンを鳴らすのが精一杯だったのでしょう。それでもこの'72年4月~5月のヨーロッパ・ツアーはバンドにとっての一大メルクマールだったのです。