人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Sun Ra - We Travel The Space Ways (Saturn, 1967)

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Sun Ra and his Myth Science Arkestra - We Travel The Space Ways (Saturn, 1967) Full Album : http://www.youtube.com/playlist?list=PLm4w7C3_vBpjG-eW3TtLPN4jcfo-IjAYE
Recorded in 1956-1961, Chicago
Released by El Saturn Records LP409, 1967
All songs were written by Sun Ra.
(Side A) :
A1. Interplanetary Music - 2.41***
A2. Eve - 3.08****
A3. We Travel The Space Ways - 3.23***
A4. Tapestry from an Asteroid - 2.07***
(Side B) :
B1. Space Loneliness - 4.49****
B2. New Horizons - 3.01*
B3. Velvet - 4.36**
total time; 23:45
*recorded at Balkan Studio, Chicago, April 13, 1956
**recorded at RCA Studios, Chicago, around June 17, 1960
***recorded at various rehearsals in 1960
****recorded at the Pershing Lounge, Chicago, July 13, 1961
[ Sun Ra and his Myth Science Arkestra ]
Sun Ra - piano(expect A1), cosmic tone organ(A1)
Phil Cohran - trumpet(A4), cornet(B3), zither/vocal(A1)
Walter Strickland - trumpet(A2)
George Hudson - trumpet(A3,B1)
Art Hoyle - trumpet(B2)
Nate Pryor - trombone(A2,B3)
Julian Priester - trombone(B2)
Marshall Allen - alto saxophone(A3,A4,B1,B3), percussion(A1), bells/flying saucer/vocal(A3,B1)
James Scales - alto saxophone(B2)
John Gilmore - tenor saxophone(A2,A3,A4,B1,B3), cosmic bells/vocal(A1), perc./vcl(A3,B1), bells(B2)
Pat Patrick - baritone saxophone(A2,B2)
Ronald Wilson - baritone saxophone(A4)
Wilburn Green - electric bass(B2)
Ronnie Boykins - bass(A1,A2,A3,A4,B1,B3), percussion/vocal(A1,A3,B1)
Robert Barry - drums(A4)
Jon Hardy - drums(A3,A4,B1,B3)
William Cochran - drums(A1,B2)

 本作はメンバー、楽曲ともアーケストラ中もっとも定番の編成・得意曲を集めたアルバム(英語版ウィキペディアの作品概要より)といわれますが成立は錯綜しており、英語版ウィキペディアでも参加ミュージシャン15名の名前を並べてあるだけで担当楽器の記載がありません。本作はデータ記載の不備のために発売以来長い間、曲ごとの編成や録音年月日が特定できないアルバムとされていました。今回詳細に担当楽器と参加曲をメンバーごとに記載できたのは、Solar Records盤CDの2012年リマスター盤解説書に掲載された詳細解説によります。Solar Recordsはスペインのレーベルで、著作権切れの古い録音と発掘ライヴ音源をリマスター復刻CD化している会社ですが、アメリカ本国でサターン音源を正規発売しているEvidenceレーベルより20年後の再発だけあってデータの調査も進み、サターンに直接マスターテープを当たったらしく別テイクや同セッションからのシングルをボーナス収録する、サターンのオリジナル・ジャケットはブックレット内に再現し今となってはかえってレアなインパルス再発盤ジャケットを表ジャケットに採用するなど芸が細かく、音質やカップリング(サン・ラの初期アルバムは25分前後だから2in1どころか3in1も可能)もEvidence盤をしのぎます。今後もサン・ラ作品のSolarからのさらなる改訂再発が望まれます。Solar盤ブックレットでの調査によって、このアルバムの収録曲を録音順で並べると、
B2; *recorded at Balkan Studio, Chicago, April 13, 1956
B3; **recorded at RCA Studios, Chicago, around June 17, 1960
A1,A3,A4; ***recorded at various rehearsals in 1960
A2,B1; ****recorded at the Pershing Lounge, Chicago, July 13, 1961
 となることが判明しました。もっともA1,A3,A4の3曲がB3より早いか遅いかまではわかりませんし、同日録音のA2,B1の前後もわかりません。前作『Angels and Demons at Play』B面とほぼ同時期のバンド初期の1956年録音のB2にエレクトリック・ベースが使われているのも先駆的ですが、担当楽器が判明してようやく納得のいった曲は、たとえばA1「Interplanetary Music」でしょう。ドラムス、ベース、各種パーカッションにサン・ラの「Space tone organ」と正体不明の楽器が使われたヴォーカル・コーラス曲で、これは楽器の正体も、どんなメンバーで歌っているのかも不明でした。トランペットのフィル・コーランがチターを弾いて歌い、アルトサックスのマーシャル・アレンがパーカッションにまわり、テナーのジョン・ギルモアが「Cosmic bells」を鳴らしながらコーラスに加わっているなど音だけではわかりません。この曲は極端な例ですが、こうしてパート解説をしているとジャズではなくて他の種類の音楽について説明している気分になります。ベースのロニー・ボイキンスもパーカッションとコーラスを兼任していますし、マーシャル・アレン、ジョン・ギルモア、ロニー・ボイキンスは全米ジャズ界レベルで屈指のプレイヤーなのですがサン・ラが創造しているのはジャズではなくてアーケストラの音楽であり、メンバーもジャズマンではなくアーケストラのメンバーとして合唱曲を演奏しているのだと思うと、やっぱりサン・ラ・アーケストラとは相当変な人たちの集まりだったのだと思わずにはいられません。

(Original El Saturn "We Travel the Space Ways" LP Liner Cover & Side A Label)

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 英語版ウィキペディアは本作の重複曲を簡潔にまとめています。その部分を訳すと、
●このアルバムにはほとんどが本作よりも優れた録音で、先立つサターンからのアルバムに収録されていた曲の別ヴァージョンが含まれている。 「Interplanetary Music」と「Space Loneliness」は『Interstellar Low Ways』1966に、「Eve」も『Visits Planet Earth』1966に、「We Travel The Space Ways」は『When Sun Comes Out』1963から、「Tapestry From An Asteroid」はサヴォイからの『The Futuristic Sounds of Sun Ra』1962から、さらに「New Horizons」はトランジションからの『Jazz by Sun Ra』1956に先立つ録音で、「Velvet」は『Jazz In Silhouette』1959で初演されている。上記のアルバムはすべて1967年発売のこの『We Travel the Space Ways』制作に先立ってすでに発売されていた。
(英語版ウィキペディアより)
 と、全7曲中全曲が既発表アルバムに別ヴァージョンが発表済みであり、中には「New Horizon」のようにデビュー・アルバム録音以前の貴重な録音もありますが、アルバムを代表するタイトル曲も1962年~1963年のニューヨーク進出後に再録音され『When Sun Comes Out』ですでに先行発表されていたヴァージョンが決定版とされますし、また『Interstellar Low Ways』で「Rocket Number Nine」とともに要をなしていた「Interplanetary Music」と「Space Loneliness」も『Interstellar Low Ways』収録ヴァージョンの方が優れるとされています。名曲「Eve」や「Velvet」も『Visit Planet Earth』や『Jazz in Silhouette』収録ヴァージョンの方が良いとなると何だか代表曲の没ヴァージョン集みたいに見えてきますが、案外本当にそうで、代表曲といえる曲だけあって何度か録音してみてベスト・テイクをこれまでのアルバムで発表してきましが、ふと溜まった没ヴァージョンをまとめたらアルバム発売の価値もあるのではないかという企画だったのではないでしょうか。「Eli is a Sound of Joy」や「Blues at Midnight」「Medicine for a Nightmare」「Enlightenment」、何より「Saturn」など代表曲はまだまだありますがそれらはもう2~3回、「Saturn」などはそれ以上シングルやアルバムで再録音してきたので、別ヴァージョンとしては初めてのものに絞ったのでしょう。そして今回は収録時間23分45秒とサン・ラのアルバムでも最短収録時間のアルバムになりましたが、Allmusic.comでは★★★★、Rolling Stoneのアルバム・ガイドでは★★★★★の高評価なのは選曲が申し分なく、演奏の出来も聴き較べなければ没ヴァージョンとは気づかないからです。こういう賞味期限切れみたいなものを平気で出してくるあたりも、サン・ラ・アーケストラは時代の先を行っていました。