人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - Live at Max's Kansas City (Cotillion, 1972)

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ヴェルヴェット・アンダーグラウンド The Velvet Underground - Live at Max's Kansas City (Cotillion, 1972) incomplete
Recorded Live at Max's Kansas City, NYC, August 23, 1970
Recorded by Brigid Polk on a portable cassette recorder.
Released by Cotillion Records SD9500, May 30, 1972
All tracks written by Lou Reed except as indicated.
(Side 1) : https://youtu.be/neKvqtr3M1k
A1. I'm Waiting for the Man - 4:00
A2. Sweet Jane - 4:52
A3. Lonesome Cowboy Bill - 3:41
A4. Beginning to See the Light - 5:00
(Side 2)
B1. I'll Be Your Mirror : https://youtu.be/gYSOMzzneJc - 1:55
B2. Pale Blue Eyes : https://youtu.be/IujEQRXzcT0 - 6:40 *Oct 1968 version
B3. Sunday Morning (Reed, John Cale) (non edit version) : https://youtu.be/Hr6dv4Dh3z4 - 3:34
B4. New Age (non edit version) : https://youtu.be/26jfqehXYGs - 6:32
B5. Femme Fatale (non edit version) : https://youtu.be/ryjMY1_p0Co - 3:19
B6. After Hours : https://youtu.be/VggtdE3vIbs - 2:05 *1993 reunion version
(2004 reissue 2CD Edition Additional Tracks)
Ad1. I'm Waiting for the Man (non edit version) : https://youtu.be/cXFEB9c8mD8 - 5:40
Ad2. I'm Set Free : https://youtu.be/AzdZzV5aLkc - 5:34
Ad3. Candy Says : https://youtu.be/jGo0FXPFvmE - 5:48
Ad4. Lonesome Cowboy Bill (Version 1) : https://youtu.be/MepQAY0Bys4 - 4:26
Ad5. Sweet Jane (Version 2) : https://youtu.be/bwwnfeMPKLM - 4:56
[ The Velvet Underground ]
Lou Reed - lead vocal, guitar
Sterling Morridson - guitar, vocal
Doug Yule - vocal, bass, organ
Bill Yule - drums

 リーダーのルー・リードが最後のステージを勤めてヴェルヴェット・アンダーグラウンドを脱退したライヴ音源が録音から2年経ってレコード発売されたのが本作で、リードがアルバム第4作『Loaded』の発売が翌9月に控えているのに脱退してしまったのはソロ・アーティストへの転身を希望していたのもあり、アルバム発売後のプロモーション・ツアーにまで参加していたらソロ転向の機を失ってしまうという考えもあったでしょう。ヴェルヴェットはオリジナル・メンバーのジョン・ケイルが脱退してダグ・ユールが後任ベーシストとして加入した1968年9月にマネジメント契約が更新されたと見られ、1970年8月で一旦契約は満了したのでちょうど脱退のチャンスだったと推察されます。この年の春からオリジナル・メンバーのドラムスのモーリン・タッカーは産休に入っていたのでアルバム『Loaded』の仕上げとタッカー復帰までのドラムスはダグ・ユールの弟でまだ高校生だったビル・ユールが担当しており、 モーリンのような個性的な演奏ではないもののリード脱退を目前としたヴェルヴェットにはビル・ユールの元気の良いドラムスはこれはこれであり、という気もします。
 今でこそ多くの発掘ライヴ音源が流通しているヴェルヴェットですが、最初に公になったライヴ音源がリード在籍時のラスト・ライヴだったのは皮肉なものです。これはもともとバンドをメジャー・デビューさせた(しかし全然売れなかったので1年ほどで手を引いた)元パトロンのアンディ・ウォホール関連の友人だったブリジット・ポークがバンド公認で自前のカセットテープ・レコーダーで客席録音していたもので、モノラルの素人録音ですし発表の意図など全然なかったのですが、MGM/ヴァーヴからアトランティック傘下のコティリオンに移籍して『Loaded』を発表したバンドは少なくとも2作を発表する契約だったので誰が覚えていたのか探し出されたのがこのライヴでした。1972年にはまだダグ・ユールと復帰したモーリン・タッカーにメンバーを補充してルー・リード抜きのヴェルヴェット・アンダーグラウンドは活動していましたが、新作のスタジオ・アルバムをポリドール・レコーズのイギリス社から発売する予定があり、スタジオ盤にせよライヴ録音にせよヴェルヴェットのマネジメントは制作費を惜しんだわけです。ルー・リードはソロ・デビューしてヴェルヴェット在籍時よりも注目され始めていましたし、新メンバーによるライヴ録音よりもリード在籍時のライヴ盤の方が商品になるだろう、とごく妥当な判断がされたのでしょう。本作がリード脱退後の最初のヴェルヴェットの発掘ライヴになり、リードがシングル、アルバムともに全米トップ10ヒットを放った以降の1974年にはさらに充実した内容のLP2枚組の発掘ライヴ盤『1969』が発売されました。この頃にはさすがにダグ・ユール率いるヴェルヴェットも自然消滅しており、バンドの伝説化は『1969』から始まったと言えるでしょう。

(Original Cotillion "Live at Max's Kansas City" LP Liner Cover & Side A Label)

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 ニューヨークのライヴハウス、マキシズ・カンサス・シティは『1969』の発売時にはニューヨーク・パンクの揺籃期で、このライヴハウスがパンク名所になったのもヴェルヴェットのライヴ盤と'70年代のニューヨーク・パンクの興隆があったからこそと言えます。イギリスのパンク・ロックはヴェルヴェット、MC5、ストゥージズらアメリカのプロトパンク・バンドとニューヨーク・パンクをモデルにして生まれ、もともとヴェルヴェットの影響下にあったイギリス産のグラム・ロックのアップグレード版として極めて商業的な思惑から売り出されたものでした。アメリカとイギリスのパンク・ロックの比較はともかくとして、本作はスタジオ盤『Loaded』以上にシンプルなロックンロール・バンドになったヴェルヴェット・アンダーグラウンドの演奏を聴くことができ、拍手の音もまばらでほとんど内輪の客しか入っていなかったようで、リラックスしたムードで楽しめる内容になっています。スタジオ盤ではニコが歌っていたB1,B5をリードが歌っているのも聴きもので、B6はスタジオ盤通りモーリン・タッカーが歌っている一時的再結成のライヴのリンクしか引けませんでしたが、これもマキシズのライヴではリードが歌っています。
 本作はオリジナルLP通りのアナログ・マスターの1CD盤もいいですが、2004年に2CDの増補版が出て、追加曲はLP未収録曲5曲・別テイク2曲とLP1枚分に満たないものの、実際の演奏は2セット行われており、LPではややピッチが速く曲間のMCも大幅にカットされていたのが判明しました。デジタル・リマスタリングによって全体的な音質と臨場感も向上し、より再現度の高い素晴らしいライヴ盤です。残念ながら元のテープ自体がライヴの完全版ではないのも判明しましたが、オリジナルLPとリマスター増補版は別物と言ってもいいでしょう。LPではLPなりの考えでレコード化されたもので、そのままの形でCD化したものを残しておく価値はあります。ヴェルヴェットの発掘ライヴはダグ・ユール加入後の1968年秋~1969年秋のものが大半で、この時期はライヴ演奏がもっとも安定しておりライヴ本数も多く、公式発売された他にも必聴級の名演がマニア間では定評があります。1970年にはレコード会社移籍でアルバム制作が優先されたかライヴ本数自体が減ったらしく発掘ライヴ音源もぐっと減り、ドラムスはビル・ユールで一気にヴェルヴェットらしさが薄れた上にリードのやる気のなさが目立つ音源ばかりなのですが、リード入りヴェルヴェットのラスト・ライヴの本作は1970年のヴェルヴェットにしては奇跡的に良いライヴになっています。ビル・ユールのドラムスもこういうヴェルヴェットもありかな、とそれなりになじんでいますし、リードの力の抜け方も良い雰囲気です。『1969』のように名盤扱いされることはまるでありませんが、何かヴェルヴェットでも聴こうかな、という時に構えずに聴ける魅力では公式アルバム中でも随一かもしれません。