人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アイアン・バタフライ Iron Butterfly - Fillmore East 1968 (Rhino Handmade/Atco, 2011

イメージ 1

アイアン・バタフライ Iron Butterfly - Fillmore East 1968 (Rhino Handmade/Atco, 2011) Full Album : https://youtu.be/F2jvDHLaKdE
Recorded live at Fillmore East, New York City, April 26&27, 1968
Released by Rhino Handmade/Atco Records RHM2 526745, October 17, 2011
(Disc One)
<Friday, April 26, 1968>
[ First Show ]
1-1. Fields Of Sun (DeLoach, Ingle) - 4:01
1-2. You Can't Win (DeLoach, Weis) - 3:17
1-3. Unconscious Power (Bushy, Ingle, Weis) - 3:10
1-4. Are You Happy (Ingle) - 4:22
1-5. So-Lo (DeLoach, Ingle) - 4:05
1-6. Iron Butterfly Theme (Ingle) - 4:55
[ Second Show (Incomplete) ]
1-7. Stamped Ideas (DeLoach, Ingle) - 3:18
1-8. In-A-Gadda-Da-Vida (Ingle) - 17:20
1-9. So-Lo (DeLoach, Ingle) - 4:11
1-10. Iron Butterfly Theme (Ingle) - 5:40
(Disc Two)
<Saturday, April 27, 1968>
[ First Show ]
2-1. Are You Happy (Ingle) - 4:46
2-2. Unconscious Power (Bushy, Ingle, Weis) - 2:49
2-3. My Mirage (Ingle) - 4:50
2-4. So-Lo (DeLoach, Ingle) - 4:00
2-5. Iron Butterfly Theme (Ingle) - 5:04
[ Second Show ]
2-6. Possession (Ingle) - 5:48
2-7. My Mirage (Ingle) - 5:00
2-8. Are You Happy (Ingle) - 4:24
2-9. Her Favorite Style (Ingle) - 2:53
2-10. In-A-Gadda-Da-Vida (Ingle) - 15:34
2-11. So-Lo (DeLoach, Ingle) - 4:43
2-12. Iron Butterfly Theme (Ingle) - 5:35
[ Iron Butterfly ]
Doug Ingle - organ, lead vocals
Erik Brann - guitar, backing vocals
Lee Dorman - bass, backing vocals
Ron Bushy - drums

(Original Rhino Handmade/Atco "Fillmore East 1968" CD Inner Booklet & Disc One Label)

イメージ 2

イメージ 3

 この正規盤発掘ライヴの登場は驚嘆をもって迎えられました。徹底したリサーチと素晴らしいリマスタリング、パッケージ化で定評のあるワーナー傘下の復刻・発掘レーベル、ライノは数々の良質なリリースでアメリカン・ポップスのリスナーに定評がありましたが、1999年にインターネット予約通販限定のライノ・ハンドメイドがレーベル内レーベルとしてスタートし、ロック系リリースで最大の話題になったのが1970年のアルバムの全没テイクとアルバム本編、シングル・ヴァージョンを最新リマスターした7枚組CD『The Stooges Complete Fun House Sessions』でした。イギー・ポップのストゥージズはプロトパンク/メタルの名盤でもともと高く再評価されていましたが、ビートルズ(ジョン・レノン)、ディラン、ビーチ・ボーイズ級のアーティストならともかく、ストゥージズのアルバムが本編の6倍以上の没テイクをまとめてオフィシャルにCDボックス化されるなど考えられないことです。
 同レーベルは2004年には2枚組CD『Cactus Fully Unleashed: The Gigs, Vol.1』『Cactus Barely Contained: The Studio Sessions』もリリース、故ラスティ・デイ在籍時のオリジナル・カクタスの単独ライヴ盤はなく、また未発表曲を含む全スタジオ音源がまとめられたのも画期的で、発掘するにはあまりにマニアックなバンドなのでこれも話題を呼びました。『Complete Fun House~』『Fully Unleashed~』『Barely Contained~』はともに中古相場でとんでもないプレミア盤になったので、『Fun House』はアルバム全曲の没テイクを精選、1枚にまとめたボーナス・ディスクつき2枚組CD版がデビュー・アルバム『The Stooges』'69(同様の仕様)とともにデラックス・エディションとして2004年に通常発売され、『Fully Unleashed~』『Barely Contained~』も2013年にライノからライセンスを取得した復刻・発掘インディー・レーベルのWounded Bird Recordsから通常盤が発売されました。しかしライノ・ハンドメイドが(ワーナー傘下アーティストから)突拍子もないセレクションをするにしても、まさかアイアン・バタフライの発掘ライヴをリリースしてくるとは誰も予想していなかったのです。

(Original Rhino Handmade/Atco "Fillmore East 1968" CD Liner Cover & Disc Two Label)

イメージ 4

イメージ 5

 現在は本作もワウンデッド・バードからの通常盤(2016年発売)が輸入盤で普通のショップ、ネット通販で入手でき、価格もCDの1枚物並みの廉価盤なので、アイアン・バタフライのアルバムでは本作がいちばんお勧めできます。フィルモア・イーストのオーナーがモニター卓から記録用にライン録音していた音源らしく、リマスタリングによって最新の録音のように鮮明で楽器・ヴォーカルのミキシング・バランスも良く、スタジオ録音盤よりも勢いと音色の生々しさがある臨場感たっぷりのライヴが聴けます。4月26日のセカンド・ショーのみ完全版ではありませんが(おそらくもう2曲あったのでしょう)、26日のファースト・ショー、27日のファースト&セカンド・ショーは完全収録ですから不満は贅沢でしょう。アルバム『In-A-Gadda-Da-Vida』が録音されるのが'68年5月、発売は6月ですから一躍トップ・バンドに登りつめる直前のバタフライをとらえた発掘ライヴであり、バンド活動中の正規ライヴ盤『Live』'70.4が'69年5月の収録で、'69年いっぱいでこの時期のメンバーのエリック・ブラン(g)は脱退、ブランの代わりにマイク・ピネラ(g, vo)とライノ・ラインハルト(g)を迎えたバンドはリーダーのダグ・イングル(vo, org)の意欲喪失でピネラのバンドになってしまうので、イングル主導(初期メンバーの1-2以外の全曲がイングルのオリジナル曲です)の本来のバタフライをとらえたライヴ盤として本作の価値は非常に大きく、LP1枚物で全6曲、収録時間37分の『Live』にはサード・アルバム『Ball』'69.1からの曲もフィーチャーされているにせよ(本作でも2-9はサード収録曲です)本当に旬の短かったバンドだけに、2夜分の絶好調のコンサートのほぼ全容が最高の音質で聴ける本作は貴重です。
 インストルメンタル主体の「So-Lo」「Iron Butterfly Theme」はスタジオ・ヴァージョン以上に凄まじく、バタフライ一世一代の代表曲「In-A-Gadda-Da-Vida」もスタジオ・ヴァージョン、『Live』収録の'69年5月のライヴ・テイク(どちらも編集された跡がうかがえます)より本作のライヴ・テイク2種の方がバンドの最高の演奏なのではないでしょうか。バンド紹介のアナウンスからもこの'68年4月26日・27日はジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの前座だったのがわかり、楽屋で待機するジミと会ってきたばかりなのがバタフライ、特にリーダーのイングルとギタリストのブランを燃え上がらせているのが伝わってくるようです。'67年の年間全米アルバム・チャート1位(ジミ)と'68年の年間全米アルバム・チャート1位(バタフライ)という組み合わせの一夜です(翌5月のマイアミ・ポップ・フェスティヴァルにもジミとバタフライは出演しますが、フェスティヴァルはまた別物でしょう)。本作の発掘を機に、一部のリスナーの間でこそあれバタフライの株が上がり、続く発掘ライヴCD『Live at Galaxy 1967』『Live at Sweden 1971』『Live at Copenhagen 1971』(2014年リリース)、発掘ライヴDVD『Live at Copenhagen 1971』『Live at Danish TV 1970』(2015、2016年リリース)が日の目を見たのも慶賀すべきで、Atcoレーベルからの正規アルバム全5作だけでは見えてこなかったバタフライがようやく見えてきたのです。