人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

SPK ‎– Leichenschrei (Thermidor/Side Effects, 1982)

(Original Side Effects "Leichenschrei" LP Front Cover)

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SPK ‎– Leichenschrei (Thermidor/Side Effects, 1982) Full Album : https://youtu.be/xDwGAJ4FnA8
Recorded at SPK/Side Effekts studio in October 1981 - March 1982
Released by Thermidor Records T-9, Summer 1982 & Side Effects SER 02, Autumn 1982 / UK Indie#14
Produced by SPK
(Side A)
A1. Genetic Transmission - 3:17
A2. Post-Mortem - 2:24
A3. Desolation - 1:18
A4. Napalm (Terminal Patient) – 2:39
A5. Cry from the Sanatorium – 2:26
A6. Baby Blue Eyes - 2:38
A7. Israel - 2:46
A8. Internal Bleeding - 1:46
A9. Chamber Music - 3:26
(Side B)
B1. Despair - 4:45
B2. The Agony of the Plasma - 3:03
B3. Day of Pigs - 4:18
B4. Wars of Islam - 4:31
B5. Maladia Europa (The European Sickness) - 3:50
[ Socialistisches Patienten Kollektiv ]
Oblivion (Graeme Revell) - synthesizer, electronic rhythms, tape, syncussion, vocals
NE/H/IL (Neil Hill) - synthesizer, electronic rhythms, tape, treatments, vocals
Pinker - drums, syncussion, metal percussion, backing vocals
with
Paul Charlier - guitar, bass, synthi
Peter Kennard - guitar, bass
Karel van Bergen - violin, vocals
Sinan Leong - vocals, photography
Brett Guerim - additional vocals
Margaret Hill - additional vocals
Lustmord - additional vocals
Rose - additional vocals
Phil Punch - mixing

SPKがどういう成り立ちでどういう音楽活動をしてきた存在だったのかは、1月8日、12日の記事でご紹介しました。今回はついにSPKの最高傑作と名高いアルバムをご紹介したいと思います。ところが何しろ最高傑作なのでどういう評価を受けているかとサイト上の批評を探してみたのに、このアルバムに批評らしい批評をしている文献が見当たらない。英語版ウィキペディアなどでまず目安にされている総合音楽サイトは主にallmusic.comですが、SPKの7作のアルバムのうち解散記念アルバムになったライヴ盤で最終作『Oceania』'87が外されているのはともかく、UKインディー・チャート14位にまで上がり'round '80'sオルタナティヴ・ロックの中でスロッビング・グリッスルに始まるインダストリアル・ミュージック派に終止符を打った決定的作品とされる本作がallmusic.comでは批評家採点もレビューもなく、ユーザー投票だけは五つ星、というのはどうしたことでしょう(ちなみにアルバム第1作『Information Overload Unit』は星三つ、初期コンピレーション『Auto Da Fe'』、第3作『Metal Age Voodoo』、第4作『Zamia Lehmanni』の3作は批評家採点で星四つです)。何とか見つけたのが元ティアドロップ・エクスプローズのリーダーで、現在は著書『Krautrock Sampler』や『Japrock Sampler』で非英語圏アンダーグラウンド・ロック批評の権威となったジュリアン・コープ主宰の音楽批評サイト「Head Heritage」掲載のレビューでした。これは読者投稿からコープの眼鏡にかなった採用らしく、いかにもコープ好みの大仰な文体と唐突な俗語脈(強調以外の意味がないので普通の表現に訳しました)、ジャーゴン(=仲間内用語。「MMM」スタイルのグルーヴって何でしょう?マグマ?)の多用など鼻につく面もありますが、まとまった内容の短評でまずまず妥当なものでしょう。「アイアン・バタフライの解剖標本」(原文では単に「メスを入れられたアイアン・バタフライ」ですが、補いました)などそれなりに気の利いた観点もあり(『Leichenschrei』に『In-A-Gadda-Da-Vida』を連想するセンスはなかなかです)、かなりの意訳ですがアルバム『Leichenschrei(レイシェンシュレイ)』への評価の目安になる文献として参照いただけると幸いです。
○なおオリジナルLPへのレビューであるこの短評では現行CDとはAB面が逆になっているようで、Side Effects版LPとCD(と本リンク)ではA面に当たる (加水分解酵素のリゾチーム=Lysozymeが語源でしょうか)がB面、B面に当たる (こちらは文字通りクローン=Clone、ギリシャ語源とSPKの言語センスでは頭文字はCではなくKのクローンとなります)がA面になっていたようです。しかし楽曲の切れ目はどちらにも解釈できるようになっているので、オリジナルLPのTermidor版のレーベルがプレスミスでAB面の楽曲の配置は同じとも考えられます。この点については後の文章で考えてみることにします。

(Original Termidor "Leichenschrei" LP Front Cover)

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SPK - LEICHENSCHREI (1982)
Termidor T-9
Reviewed by Lugia

1. (オリジナルのテルミドール盤には)曲名はない。各面のレーベルは「Klono」「Lysso」と名銘たれ、後者は2曲に分かれているが、前者は全面で1曲だけになっている。

2. もしも『魂の闇夜』と題した映画のサウンドトラック・アルバムがあるとすれば、おそらくそれはこのような音楽だろう。

3. すべては不気味なエレクトロニクス音から始まり、やがて響いてくる声はギロチンについて、冷凍された肉体について、死についてとめどなく語る。暗い(Dark)。とても暗い(Very Dark)。そしてドラムスとエレクトリック・パーカッションがインダストリアル・ビートの鼓動に乗ってリスナーに襲いかかってくるが、脅迫観念にかかったように語る声は続く。検死データの羅列、レイプについてしゃべりまくる女の気の狂った支離滅裂なモノローグ、梅毒患者、マインド・コントロール……。

4. そしてふと、これらがまだ5分も経たないうちに起こっているのに気づく……。

5.『Leichenschrei』……このタイトルは「死体の叫び声」を意味する……このアルバムこそ筆者の知るダークな音楽的ヴィジョンの極北の一つと断言できる。これは究極のバッド・トリップ・ミュージックだ。しかもリスナーは決してこのトリップを楽しくも、甘くも、明るくもすることはできないだろう。

6. SPKのもっとポピュラーな作品には、雰囲気があり親しみやすい『Zamia Lehmanni』や、もちろんクラブ・インダストリアル曲の「Metal Dance」などがある。しかしそれらより前にこの『Leichenschrei』がある。これは音の地獄への下降なのだ。男女二人組となったSPKはパワー・エレクトロニクスのビートを歪め、ローファイ録音による自家製ナパーム弾のようなサウンドで知られるようになったが、それはこの記事の冒頭で述べたような音楽の後で起こったことであり、『Leichenschrei』には骨を轢く鋸の音、より多くの濁った声、そして電子的鼓動、すべてのバランスの崩壊、狂った、狂ったリズムがある。そう、確かにいずれは誰かがこれと同じ芝生を踏みにじるのだろう……だがSPKが最初だったのだ。精神病患者、犯罪者、売春婦たちで作られたあらゆる種類の転落や、エレクトロニクスとそれらすべてを飽和させる恐ろしいハイパー・ブラックの抑圧的雰囲気を組み合わせたグレアム・リーヴェル……そう、グレアム・リーヴェル……彼とその仲間たちがリスナーを脅かし、すべてを打ちのめす!

7. アルバムA面に相当する「Seite Lysso」はB面よりリズムは比較的明快と言える。曲ごとのタイトルはない。A面が進むに連れてビートはより狂乱的に重く歪んだものになり、さまざまな肉声とエレクトロニクス音が連続する。複数の奏者によりあちこちでドラムスとメタル・パーカッションのクラップ音のアクセントが加わる。アイアン・バタフライの解剖標本とシュトックハウゼン流のアンサンブルをクロスカントリーヴードゥー黒ミサで交錯させたようだ。最終的にはすべてが「MMM」スタイルのグルーヴに固定されてクラッシュし、金属音や電子ノイズが発生する。リスナーは痛みを感じる前に、それを止めなければやらなくなる……。

8. B面に当たる「Seite Klono」ではもう少し「雰囲気」があるにもかかわらず、A面同様にダメージを受けた手法が多く扱われている。だがそれもバッド・トリップであり、ハッピーではない。読者がもし悪魔の使いだとしても平均的なリスナーにとっては、これは以前と同じ地獄の続きになるだろう。原始的なローファイの唸り、 電気的金切り声、ギター・デス、プロセッサースクランブル・ドゥーム・ヴォーカルは「Desire」の別題でも知られる曲ですべてを蹴飛ばし、ブーストされたヴォイスと結合した血まみれの叫び声が反響する、「……今流行(はやり)の……」「……まるで事故のようだ……」「……やつらに言わないで……私たちが誰なのか……」そしてガラスの粉砕音が重なる。

9. これは間違いなく「トリップ・ミュージック」だが、「チャイナ・キャット・サンフラワー」(グレイトフル・デッド)的な要素はこれらの側面で(またはあらゆる点で)どんな形でも見つからない。 ナイス・トリップを期待した人は期待すら忘れ去る!ここにある唯一の花は、エージェント・オレンジとナパームで覆われており、恐怖のあまり溶け出してしまう悪夢の色が浮かぶ。嫌悪は軌道から露わになっている。リスナーは自分の感覚をつかんだつもりで茶色いアシッドをつかまされている。バッド・トリップが至上を支配する!金切り音のシンセサイザーと連打され続けるリズムと魂の叫びは、黙示録的で土俗的な血の怒りの地獄の中でリスナーの苦悩する心を満たす。B面の終わりに至って、リスナーは不器用な僧侶の修道院との悪魔的な境界線の前に投げ捨てられたような、何か不器用なものにたどり着くが、それは「Leichenschrei」の始まりと同じでもあるだろう。

10. 官能的な負荷に耐えるほどに健康で、最も強力なものに取り組める人だけがこのアルバムを聞くべきだろう。そうでないリスナーには間違いなくここには乗りこむための度量が足りない。ミスター・リーヴェルとその仲間はそのためにこの悪だくみを辞めてしまった。20年後の今日でさえこれほど聴くのに困難な代物はない。つまりそれは産業音楽(インダストリアル・ミュージック)ゆえに美しく老朽化していることを意味するが、それをも加えた上で本作は極上であり最高峰のアルバムであると主張したい。もしこのアルバムを手に取ることができたら……ぜひ探していただきたい。もしその機会がないなら……このアルバムに針を下ろす機会があらんことを神にお祈りいただきたい!

(From Julian Cope's HEAD HERITAGE / First Appears in February 14, 2004.)

(Original Thermidor & Side Effects "Leichenschrei" LP Liner Cover & Side Effects LP Side One/Side Two Label)

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○このアルバムは1992年の初CD化以来2003年のCD再発売を最後に現在廃盤になっており、プレミア価格の中古盤を探すかロシア製MP3-CDの実質的海賊盤を通販サイトで購入する以外には入手方法がなく、最大大手の無料動画サイトで全編試聴することが容易なのは不幸中の幸いとも言えます。アナログLP時代には米テルミドール盤と英豪サイド・エフェクツ盤ともに初回プレス、再発売プレス枚数が極端に少なく、スロッビング・グリッスルキャバレー・ヴォルテールホワイトハウスに次ぐインダストリアル派の代表的存在とは言っても実際に聴いている人はめったにいないのがSPKの音楽でした。しかしこのアルバムの独創性、純粋に音楽的な高さ、表現力の達成と完成度は比類がなく、フルアルバム第1作『Information Overload Unit』も優れた作品ですし双頭リーダーだった二人のうちニール・ヒルが離れてグレアム・リーヴェルのソロ・プロジェクトになってからのアルバムでも『Zamia Lehmanni』は本作に次ぐ名作と言える逸品でした。1993年にイギリス、日本で発売された『SPK BOX』の収録アルバムもこの3作で、『SPK BOX』と同時にやはりイギリスと日本でのみ初期アルバム未収録シングルと未発表曲のコンピレーション『Auto Da Fe'』も初CD化されていますから、'84年のニール・ヒルの自殺後もSPKの看板を背負っていたリーヴェルの自薦アルバムも『Information~』本作、『Zamia~』が代表作で、追補編として『Auto Da Fe'』があると見ることができ、SPKのアルバムをひと通り聴く前に代表作とされるこの3作(と『Auto Da Fe'』)だけ聴いても納得がいく完結感があるように思われます。またSPKの全アルバムはオリジナルLPからCDサイズ用にジャケット・デザインの改訂がなされ、そこにも今なおSPK時代に残した音源へのリーヴェルの執念がうかがえます。
○後発のSide Effects(SPK自身の自主レーベル)版とCDで と が上記のデータの通りになっている以上は「Genetic Transmission」から始まり「Chamber Music」で終わるCD前半9曲構成の がA面、「Despair」で始まり「Maladia Europa」で終わるCD後半5曲構成の がB面というのがリーヴェルの意図通りの本作の曲目・曲順であり、音楽サイトの短評には初回プレスのミスまたは筆者の取り違えによる勘違いがある可能性があります。AB面とも曲の切れ目はなく、 のA1~A9ではA3とA4、次いでA5とA6が曲間なしのカットインで異なる曲につながっており、サイト評評者の指摘ではA面 は2曲に分かれるとしていますからレーベルのプレスミスでこの面がB面 になっていたとすれば爆音でカットインするA3とA4はメドレーと見てこの面を2曲(A1~A5、A6~A9)と解釈した、とも取れます。「Despair」で始まる面は現行CD通りの曲目・曲順がリーヴェルの意図したB面の で、この面は最終曲「Maladia Europa」だけがカットインで始まりますからこちらがA面の とミスプレスされていたならばサイト評のように「Despair」で始まる (実はB1~B5)をギロチンの響きに喩え、B面 (実はA1~A9)を「 より(穏やかな)雰囲気がある」としているのも一応根拠はあります。最終曲では再びアルバムの冒頭に帰るとしているのはA9、B5どちらも通用するので、A9はB1につながり、B5はA1につながる円環的構成が本作にはありますが、結局オリジナルLPにAB面のレーベルのプレスミスがあったかは断定できません。 には別題「Desire」として知られる曲が~、とありますがSPKのオフィシャル・サイトでV.A.のコンピレーション・アルバムまで調べても「Desire」という曲はなく、シングル「Metal Dance」'83をリリースした時の自主レーベルに「Desire」という名称が一度使われたきりなのです。

(Reissued Mute/Grey Area "Leichenschrei" CD Front & Liner Cover)

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○インダストリアルはもともとスロッビング・グリッスルが1976年に立ち上げた自主レーベルの名称で、機械化された社会に住む人間の産業廃棄物のようなサウンドを指向するオルタナティヴ・ロックの一派でした。参考にされたのは先駆者としてヴェルヴェット・アンダーグラウンドロキシー・ミュージック、ドイツ'70年前後の実験派ロックなどで、スロッビング・グリッスル自体はアート・パフォーマンス集団から音楽グループに進んだものですがプログレッシヴ・ロックの文脈からインダストリアル派に合流したジス・ヒート、キャバレー・ヴォルテールなどの古参バンドも加わり、アンチ・アート的にスロッビング・グリッスル一派を批判する立場からホワイトハウスが現れます。これはイギリス国内のアーティストたちでしたがドイツではノイバウテンDAFなどがイギリスのインダストリアル派と近い指向の音楽をやっており、アメリカではエレクトリック・イールズやペル・ユビュ、スーサイド、クロームなどパワー・サイケデリアとパンク・ロックからイギリスのインダストリアル派と同時期に同様のアプローチに発展したバンドがおり、1979年に100枚限定の自主制作シングルでデビューしたオーストラリアのSPKは国際的なインダストリアル・ミュージックの流れでは遅れて登場した存在だったと言えます。SPKの初期シングルは100枚、200枚といったプレス枚数しか作られなかったので4枚の3曲入りシングルで楽曲は7曲と、新曲ができると前のシングルからの曲をカップリングして100枚プレスされる、という非効率的でアマチュア規模のもので、7曲中5曲がコンピレーション・アルバム『Auto Da Fe'』'83のA面(B面3曲は未発表曲、CD化で'82年録音・'83年発表のEP「Dekompositiones」の全3曲を追加)が発売されるまでほとんど聴くことができなかったものです。'79年録音のシングル曲はヴォーカル、ギター、シンセサイザー、ベース、ドラムスの5人編成によるバンド編成で比較的パンク・ロックに近いものですが極端なノイズ指向はすでに表れており、スロッビング・グリッスルの初シングル「United c/w Zyclon B Zombie」'77のテクノ・インダストリアル/インダストリアル・パンクよりも破壊的なものです。この点でSPKはイギリスのインダストリアル派よりもアメリカのスーサイドやクロームに近く、スーサイドはニューヨーク・パンク、クロームはL.A.パンクから突然変異的に現れましたが核となるメンバーがコンセプトを共有するトラックメイカーとパフォーマーのデュオ、という点でも似ており、音楽的にはドイツ実験派ロックの強い影響下にありましたがスーサイドはパフォーマンスの点で、クロームはヴォーカル・スタイルと爆音ギターでオリジナル時代のストゥージズのイギー・ポップのスタイルを継承するものでした。その辺りの肉体的感覚がSPKを彼らと分けています。
SPKの肉体性はパフォーマンスする死体、パフォーマンスする生殖器、パフォーマンスする狂気であり、その本領が初めて発揮されたのは初期シングル中の「Germanik」「Mekano」「Slogan」などの曲です。 NE/H/IL(ニヒル)ことヴォーカリスト/パフォーマーのニール・ヒル(Neil Hill)は精神障害者のため渡英できませんでしたが、ヒルと煮詰めたコンセプトでリーヴェルがイギリスでサポート・メンバーを加えて制作したフルアルバム第1作『Information Overload Unit』'81はスロッビング・グリッスル解散、またキャバレー・ヴォルテールのダンス・インダストリアルへの転向の年に発表され、SPKをポスト主流インダストリアルの代表的存在にしました。初期シングルを除けばSPKをバンドと呼べるのか迷いますが、発振音と自然倍音がビートと和声を暗示するノイズの塊の『Information~』はロックの文脈以外には位置づけられないものです。あまりにけたたましく異様な音色のサウンドなので一聴するとビートと和声構造が聴き取れないため、ほとんどのリスナーはこれをロック・ミュージックのヴァリエーションと認めるのを拒絶するでしょうが、さまざまなニュアンスのエイト・ビートとドミナント進行(固定トニック、II→V進行も含む)の和声構造はロックの古典的な音楽フォームに属するものです。ヒルの参加がかない、専任パーカッション奏者を迎えた『Leichenschrei』ではさらにリズムの多様性が短い単位の楽曲のメドレー形式で実現されますが、これは非インダストリアル派のオルタナティヴ・ロックポスト・ロックからジャマイカのダブ・ミュージックの影響を受けたスリッツの『The Slits』'79、ポップ・グループの『Y』'79や『How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder ?』'80、パブリック・イメージ・リミテッドの『Metal Box』'79や『Flowers of Romance』'81に見られる民族リズムやファンク・ビートを、キャバレー・ヴォルテールのようなダンス・ミュージック化ではなくSPKの流儀で消化したものでした。もっとも本作を最後にニール・ヒルが脱退したSPKは『Metal Age Voodoo』ではダンス・インダストリアルとなり、さらに急転換してビザンチウム聖歌をモチーフに非リズム的な『Zamia Lehmanni』で『Information~』『Leichenschrei』とは異なるアンビエント・インダストリアルと言うべき異色の名作をリーヴェル独力で作り上げます。以上、あえてここではスロッビング・グリッスルSPKが共通して掲げた異常な死、狂気とセックスのイメージには触れませんでした。ジュリアン・コープのティアドロップ・エクスプローズを含むポスト・パンクマンチェスターのシーンが生んだジョイ・ディヴィジョン(そのリーダー自殺後にバンドはニュー・オーダーと改名)にも見られたポストモダンデカダンス的嗜好は時代とともに風化を免れ得ませんが、ジョイ・ディヴィジョンSPKが今なお聴くに堪えるならばそれは純粋に音楽の訴求力によるものなので、戦略的イメージやイディオムからではないからです。しかし一応それも無視できないので、Side Effects版LPにSPK自身が添付したブックレットを末尾に掲げます。

(Original Side Effects "Leichenschrei" LP Inner Booklet)

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