人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラフトワーク Kraftwerk - 放射能 Radio-Activity (EMI / Capitol, 1975)

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クラフトワーク Kraftwerk - 放射能 Radio-Activity (EMI, 1975) Full Album + 5 Bonus Tracks : https://youtu.be/4kEti-BB4Pw
Recorded and Produced by Klingklang Studio, Dusseldorf, Germany, 1975
Released by EMI / Capitol Records ST-11457, November 1975 (International Version)
Original German Version Released by EMI Electrola ‎1C 062-82 087 as "Radio-Aktivitat"
Produced by Florian Schneider & Ralf Hutter
Lyrics by Ralf Hutter, Florian Schneider & Emil Schult, All Composition by Ralf Hutter & Florian Schneider
(Side One)
A1. Geiger Counter - 1:04
A2. Radioactivity - 6:44
A3. Radioland - 5:53
A4. Airwaves - 4:53
A5. Intermission - 0:15
A6. News - 1:31
(Side Two)
B1. The Voice Of Energy - 0:54
B2. Antenna - 3:45
B3. Radio Stars - 3:38
B4. Uranium - 1:24
B5. Transistor - 2:15
B6. Ohm Sweet Ohm - 5:40
(Bonus Tracks)
13. Radioactivity (Single Edit) [37:50]
14. Antenna (Single Edit) [41:09]
15. Geiger Counter/Radioactivity (Live) [44:16]
16. Airwaves (Live) [53:08]
17. The Voice of Energy/Radio Stars/Ohm Sweet Ohm (Live) [1:01:52]
[ Kraftwerk ]
Florian Schneider - voice, electronics
Ralf Hutter - voice, electronics
Karl Bartos - electronic percussion
Wolfgang Flur - electronic percussion

(Original EMI / Capitol "Radio-Activity" LP Liner Cover & Side One Label)

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 本作からクラフトワークはアルバム全編を英語タイトルと英語詞によるインターナショナル・ヴァージョンとドイツ語タイトル・ドイツ語詞によるドイツ国内ヴァージョンの2通りでリリースするようになり、シングル曲のみフランス語、スペイン語など各国語ヴァージョンもリリースします。インターナショナル・ヴァージョンの英語詞シングルにはドイツ語ヴァージョンをB面に、ドイツ語ヴァージョンを含む各国語ヴァージョンのシングルには英語詞(インターナショナル)ヴァージョンをB面曲にしました。クラフトワーク自身はドイツ出身を強く意識したグループでデビュー当時は英語名を名乗るタンジェリン・ドリームを批判していたほどですが、国際的存在となってからは英語タイトル・英語詞のインターナショナル・ヴァージョンを国際標準とする一方律儀にドイツ国内ではドイツ語版をリリースして、あくまでドイツ出身のグループであることを主張し続けたということです。本作はまた80年代末まで続いた、オリジナル・メンバーのフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターがエレクトロニクスとヴォイス、『アウトバーン』から加入したウォルフガング・フリューアと本作から加入したカール・バルトスがエロクトロニック・パーカッションというクラフトワーク全盛期の4人編成が始まったアルバムになりました。このまったくロックバンドではない4人編成がクラフトワーク以降のエレクトリック・ポップのスタイルを決定することになります。本作はラジオと放射能をテーマに作られたアルバムで、ジャケットはナチス政権宣伝省が'30年代後に制定した「国民ラジオDKE38」をデザインしており、アルバム・タイトルの『Radio-Activity』はラジオ放送の意味ですが、ハイフン抜きの「Radioactivity」だと放射能の意味になります。楽曲はラジオをテーマにした曲と放射能をテーマにした曲が交互に並びます。
 クラフトワークの究極的なスタイルは画期的楽曲「Autobahn」を継ぐ次作と次々作『ヨーロッパ特急 (Trans-Europe Express)』'77、『人間解体 (The Man Machine)』'78で完成されるので、「Autobahn」「Trans-Europe Express」「The Model」などの代表曲のイメージから本作を聴くとあまりテクノポップという感じがしない印象を受けるかもしれません。ヴォーカル(ヴォイス)入りの曲が一気に増え、クラフトヴェルク時代からもこれまでLP片面1、2曲~4曲だった構成が本作ではAB面各6曲と小曲単位になりましたが、逆に楽曲の区切りが判然とせず曲らしい曲は2、3曲しかないような実験性の強いアルバムに聞こえます。本作はフランスではクラフトヴェルク時代からの最大のヒット作になり前作『アウトバーン』をしのぐセールスを記録したそうですが他の国ではさすがに『アウトバーン』ほどのヒットにはならず、その反省がヒット曲「Autobahn」の路線に戻ってシークエンスの反復とポップなメロディー、リズムの強調に磨きをかけた『ヨーロッパ特急』『人間解体』になったと言えるでしょう。しかし本作が実験的に聞こえるのも後年の完成されたクラフトワークのスタイルからさかのぼった聴き方なので、クラフトヴェルク時代から『アウトバーン』のアルバム全体(特にタイトル曲以外のアルバムB面曲)と順を追ってくると、本作のエレクトロニクス音の構成はいよいよ洗練を増してきたのがわかります。『ヨーロッパ特急』『人間解体』を聴いてから本作を聴くとリズムが稀薄でメロディーもはっきりしないように聞こえますがクラフトヴェルク時代の3作、『アウトバーン』をA面B面と聴いて本作に移ると音響の純度がまるで違い、いよいよ本格的にテクノ化してきたなというのがわかる。『アウトバーン』には残っていたフルート、ヴァイオリン、ギター、オルガンの生楽器の原型がわかるエレクトロニクス加工音から本作では楽器使用の痕跡のほとんど感じられない無機的な音響に純化しています。ヴォーカル(ヴォイス)の多用はその音響とのコントラストの効果を狙ったものだともわかります。『アウトバーン』から一気に『ヨーロッパ特急』『人間解体』があったのではなく本作がその過程に、本作独自の完成した作品として作られた意義があるのはそうした特色があるからで、『アウトバーン』ではアルバムA面だけだったコンセプトも本作ではアルバム全編がラジオと放射能をテーマにした内容なのは前述の通りで、これも本作が初の試みになり、以降のクラフトワークのアルバム全編のテーマ統一の始まりになります。クラフトワークというとピコピコリズムと哀愁の(またはすっとぼけた)メロディー、という先入観も現在ではかなり薄れてヒット曲「アウトバーン」も「ヨーロッパ特急」も「モデル」「電卓」も知らない、またはどんな曲だったっけと名のみ高く聴かれることの少なくなった現在では、ヒット曲を含まない本作はかえって新鮮に聴くことができるのではないでしょうか。