人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - サイボーグ Cyborg (Kosmische Musik, 1973)

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クラウス・シュルツェ Klaus Schulze - サイボーグ Cyborg (Kosmische Musik, 1973) Full Album : https://youtu.be/knItIJIYYmQ
Recorded at Klaus Schulze Studio, February to July 1973
Released by Kosmische Musik Kuriere / Ohr Musik Produktion GmbH / Metronome Records GmbH KM2/58. 005, October 1973
Produced and All tracks composed by Klaus Schulze.
(Reissued '75 Brain Records "Cyborg" LP Front Cover)

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(Seite 1)
A1. Synphara - 22:49
(Seite 2)
B1. Conphara - 22:52
(Seite 3)
C1. Chromengel - 23:49
(Seite 4)
D1. Neuronengesang - 24:57
[ Personnel ]
Klaus Schulze - organ, synthesizer, vocals, percussion
Cosmic Orchestra - cello, contrabass, flute, violin

(Original Kosmische "Cyborg" LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Side 1 Label)

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 第4作『ブラックダンス (Blackdance)』'74('73年録音の第3作『ピクチャー・ミュージック Picture Music』'75より先行発売)からクラウス・シュルツェは最大大手ポリドール社傘下のロック・レーベル、ブレイン(Brain)に移籍したので、初期2作と発売権の一部をオール/コスミッシュ・ムジークの親会社だったメトロノーム社が持っていた『Picture Music』の3作はオリジナル盤ジャケット以外に'75年にブレインが発売権を買い取って再発売してからの新装ジャケットの方がよく知られています。ブレイン移籍以降の新作のアートワークと統一するためでシュルツェ自身の意向もあり、2005年~2007年までに行われたRevisited Recordsによる1990年までのアルバムの決定版リマスターCDでも『Irrlicht』はブレイン版、『Cyborg』はコスミッシュ版、『Picture Music』はブレイン版のアルバム・ジャケットが使われており(別版ジャケットはブックレットに掲載)、ブレイン版のイヴ・タンギーサルヴァドール・ダリ風ジャケットはシュルツェ自身が友人の画家に依頼して描き下ろしてもらったものですからサウンド傾向を同じくする『Irrlicht』と『Cyborg』のブレイン版ジャケットはよく似ています。決定版CDで『Irrlicht』はブレイン版ジャケットを採り『Cyborg』はシュルツェ自身のポートレートであるオリジナル・コスミッシュ版を使ったのも本作が青年時代の自画像的アルバムという意味を持つ作品と、シュルツェ自身が見なしているからでしょう。LP時代の2枚組で各面1曲ずつ20分以上の大曲ばかりで構成され、トータル97分強にもおよぶ本作は4楽章の交響曲を意識した内容になっており、各曲は造語なので意味の特定はできませんが「交響楽」「融合楽」「鋼鉄天使」「神経細胞唱歌」といった意味あいあたりになるようです。
 手法の上では本作から導入されたシンセサイザー使用はまだオルガンの延長線上の用法なので前作『Irrlicht』の手法を踏襲し、特定のキーでドローン音響を発するオーケストラとオルガンのサウンドシンセサイザーとパーカッションが即興的な装飾を加えながら適宜ドローンのピッチを変えていき、音響バランスの位相変換や裁断でリズムを暗示していきますが本作は『Irrlicht』より多重録音に凝った分音質に粗があり、これはアナログLP時代から従来版CD、決定版リマスターCDにいたるまで変わっておらず、本作の特色にもなっていれば難点にもなっています。次作『Picture Music』からは一転して抜けの良いサウンドが聴けますし、『Irrlicht』でもこれほど音質の悪さは感じなかったので、シンセサイザー使用の試行段階で本作では音質を犠牲にしてでも試してみたかったアイディアがあり、その成果から最初から純度の高いサウンドを実現した『Picture Music』以降の諸作が生まれた、と言えるでしょう。シンセサイザー導入に合わせて2枚組大作を作ったのは時期尚早だったとも言えますし、本作で一気にアルバム2枚分のアイディア、『Irrlicht』がAB面トータルで1曲のアイディアとすれば、全4曲の本作は4枚分を放出したからこそ第3作で早くも初期2作の作風から大きく転換したアルバムに踏み出せたとも見ることができるので、『Cyborg』の全4曲はそれぞれが『Irrlicht』全編を凝縮して異なるヴァリエーションを提示し20分を超える大曲にまとめ上げ、全4曲が交響しあう大作として圧倒的なヴォリューム感を達成しています。それだけに本作の時点では録音技術的な制約のために音質的な粗を避けられなかったのが惜しまれますが、再録音では本作に込められたエモーションは再現できないでしょう。そこに決定版リマスターCDにブレイン版の絵画ジャケットではなく、オリジナル・コスミッシュ版の若きシュルツェのポートレート写真ジャケットを採った理由があるように思います。