人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

映画日記2018年10月13日~14日/アメリカ古典モンスター映画を観る(5)

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 アメリカでは原作著作権継承者からライセンスを取った『魔人ドラキュラ』'31でドラキュラの名称はユニヴァーサル映画社が商標登録したので、著作権消滅期限までドラキュラと名のつく映画、ドラキュラを名乗る吸血鬼の映画はユニヴァーサル社だけのものでした。ただし案外ユニヴァーサル社のドラキュラ・シリーズは少なく、最終作『凸凹フランケンシュタインの巻』'48を入れても6作で、狼男シリーズも僅差の5作でもあればフランケンシュタイン・シリーズの8作には及びません。ただしフランケンシュタイン・シリーズの5作目は狼男シリーズの2作目であり、フランケンシュタイン・シリーズの6作目からはドラキュラ・シリーズも合流するので、『ドラキュラとせむし女』'45はドラキュラ第5作でもあればフランケンシュタイン第7作、狼男第4作でもあります。ただしユニヴァーサル社以外の映画社も一般名詞としてのヴァンパイアを使って吸血鬼映画を作っていたので、その代表的作品の筆頭に上げられるのがコロンビア映画社の『吸血鬼蘇る』'43で、まだ終戦も迎えていない第二次世界大戦下のロンドン大空襲を舞台背景にした不謹慎な趣向の映画ですが、『魔人ドラキュラ』の元祖ドラキュラ俳優ベラ・ルゴシ主演をもって重視されている作品です。ユニヴァーサル映画社のドラキュラ第4作『フランケンシュタインの館』'44はすでにフランケンシュタイン/狼男の回で観直して感想文を載せていますので、このコスミック出版のボックスセットは実に重宝なシリーズです。――なお今回も作品解説文はボックスセットのケース裏面の簡略な作品紹介を引き、映画原題と製作会社、アメリカ本国公開年月日を添えました。

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●10月13日(土)
『ドラキュラとせむし女』House of Dracula (Universal Pictures'45)*67min, B/W; アメリカ公開'45年12月7日
監督 : アール・C・ケントン
主演 : ロン・チェイニー・Jr、ジョン・キャラダイン、グレン・ストレンジ、オンズロー・スティーヴンス、マーサ・オドリスコール、ジェーン・アダムズ
・エーデルマン博士の下にドラキュラと狼男が、自分の特殊な境遇について相談にやってきて、やがてフランケンシュタインも登場する。一方博士は、ドラキュラの血に感染し……。せむし女は博士の下で働く看護士。

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 本作はドラキュラ・シリーズ第4作でタイトルも『(原題)ドラキュラの館』ですが、フランケンシュタイン・シリーズの第6作で狼男シリーズ第3作だった『フランケンシュタインの館』'44に続くフランケンシュタイン・シリーズの第7作で狼男シリーズ第4作でもあり、監督はフランケンシュタイン・シリーズの第4作『フランケンシュタインの幽霊』'42と『フランケンシュタインの館』を手がけていたアール・C・ケントンでもあります。2年連続で『フランケンシュタインの館』'44、『(原題)ドラキュラの館』'45で監督も同じですからこの2作も連作と見なせるもので、『フランケンシュタインの館』は『フランケンシュタインと狼男』'43の続編の性格の強いものでしたからここらへんは実にプログラム・ピクチャーらしい接ぎ木作戦という気がします。もっとも『狼男』『フランケンシュタインと狼男』『フランケンシュタインの館』の3作はカート・シオドマクの原案・脚本三部作だったので、原案・脚本ともユニヴァーサルの専属脚本家チームによる『ドラキュラとせむし女』はドラキュラ三部作の蛇足、フランケンシュタイン・シリーズの蛇足、狼男三部作の蛇足とも言えて、それが証拠に本作の次作は『凸凹フランケンシュタインの巻』'48でパロディ映画でドラキュラもフランケンシュタインも狼男も同時にシリーズ最終作になるのですが、本作は本作でなかなか楽しい作品になっています。本作の楽しい趣向は、ドラキュラと狼男とフランケンシュタインの全部に効く特殊抗体の特効薬(!)を開発した博士のもとにまずドラキュラ、さらに狼男、そしてフランケンシュタインの怪物が見つかるという具合に次々集まってきて、ドラキュラと狼男を抗体で治療するのはともかく、止せばいいのに生命活動を停止しているフランケンシュタインの怪物を治療のために蘇生させる(!)というマッドな展開になることで、まあ、あらすじを追ってみますと、コウモリが飛翔して悲鳴を上げる女の顔のアップ、というアヴァンから本作は始まります。舞台はヴァサリア村。フランツ・エーデルマン博士(オンズロー・スティーヴンス)の住む城に夜遅く「ラトス男爵」と名乗る男が訪ねてきます。男は吸血症の治療法を調べに博士を訪ねてきたといい、エーデルマン博士は承諾します。エーデルマン博士はクラヴァリア・フォルモーザという特殊な胞子を産む植物から異常を防御する抗体を作る研究をしており、吸血症はそれで治癒できると説きます。「ラトス男爵」は、では城の地下でお話ししたい、と申し出、地下室に運びこんでいたドラキュラの紋章入りの棺を見せます。私がドラキュラ伯爵(ジョン・キャラダイン)です、と自称「ラトス男爵」は正体を明かします。エーデルマン博士は助手の二人の女性には「ラトス男爵」の正体を明かさないことにしますが、村生まれ・村育ちの純情なせむし娘ニナ(ジェーン・アダムズ)はともかく、俗世を逃れるために博士の助手となった年増のミリッツァ(マーサ・オドリスコール)はかつて社交界で別名だった「ラトス男爵」と顔見知りでした。その夜、ラリー(ローレンス)・タルボット(ロン・チェイニーJr.)が城に到着し、ミリッツァにエーデルマン博士から博士の狂犬病予防治療法を訊きたい、と請いますが、博士はドラキュラ伯爵と応対中で待たされます。月が満ちてくるのに気づいて、ラリーは自分から警察に出向いて暴れ、投獄されます。暴徒のリーダーのスタインマール(スケルトン・ナッグス)を始めとする村人たちが警察署の周りに野次馬になります。ミリッツァに知らされたエーデルマン博士はミリッツァと獄中のラリーに事情を訊きに訪ねて、博士を迎えたホルツ署長(ライオネル・アットウィル)とともに満月が上がると獄中のラリーが狼男に変化して暴れるのを目撃します。博士とミリッツァは翌朝ラリーを城に引き取り、博士はラリーの変化は月明かりが原因ではなく、脳圧の変化によるものではないかと推測します。それにはまだ多くの胞子を採取して抗体を作らなければならないから待って欲しい、という博士にラリーは待てない!と自暴自棄になり、城が面した崖から海に投身してしまいます。博士はラリーを探しまわりますが、狼男に変化していたラリーに襲われるすんでのところで月を雲が覆い、ラリーの狼男化は解けます。月明かりを避けるため隠れた洞窟の中で、エーデルマン博士とラリーはまだニーマン博士の骸骨を抱いている(『フランケンシュタインの館』エンディング参照)昏睡状態のフランケンシュタインの怪物(グレン・ストレンジ)を見つけます。洞窟内の湿気はクラヴァリア・フォルモーザを伝播させるのに最適で、洞窟の自然のトンネルが城の地下につながっているのが判明します。 博士はモンスターを彼の研究室に運んで蘇らせようとしますが、ラリーやニナの反対にあって止めます。一方ドラキュラは本能に勝てず、ミリッツァを誘惑して彼女を吸血鬼にしようとしますが、ミリッツァは十字架でドラキュラを追い払います。 博士は伯爵の血液中に見つかった奇妙な抗体を解明するために治療を中断し、別の輸血法を研究します。ニナはドラキュラによって夢遊病になったミリッツァを追跡します。伯爵が鏡に映らないことに気づいたニナは、博士にミリッツァへの吸血鬼の危険を警告します。エーデルマン博士は吸血症を破壊する抗体の輸血を準備します。作業中、ドラキュラは催眠術の力を使って博士とニナを眠らせ、博士の体を操って自分の血液を博士の静脈に注射させ、輸血の流れを逆転させます。博士たちが目を覚ますと、ドラキュラはミリッツァを抱いて去ろうとしています。博士とニナはラリーを呼んで、ドラキュラを十字架で追い払います。太陽が上がり始めているので、ドラキュラは自分の棺に戻ります。 エーデルマン博士は開いた棺を陽の光に引きずり、ドラキュラを白骨化させます。エーデルマン博士はドラキュラの血に反応し始め、悪化します。彼はもはや鏡に映りません。幻覚に襲われた博士はフランケンシュタインの怪物を蘇らせて村を襲わせる夢を見て、目を覚ますと夢に見た通りに怪物の蘇生に取りかかり始めますが、実験室に来たニナの呼びかけの声で正気に戻ります。エーデルマン博士はラリーの治療を再開します。しかしついに吸血鬼と化したエーデルマン博士は、城の庭師を残酷に殺害します。村人は死体を発見すると、狼男の出現と信じてエーデルマンを追います。ラリーとエーデルマン博士は城でホルツ署長とスタインマールに尋問され、スタインマールはエーデルマンが殺人犯と確信し、リンチ処刑のために暴徒を集めます。博士はラリーに自分の吸血鬼化を告白しますが、ニナの背中を治す手術まで秘密を守ってほしいと請います。ラリーはニナとミリッツァの見守る中、満月になっても変身せず治療の成功が確認されます。しかしエーデルマン博士は再び吸血鬼に変わります。博士はフランケンシュタインの怪物を復活させますが、十分には蘇生できません。ニナは吸血鬼化した博士から逃げようとしますが、エーデルマン博士はニナを絞め殺し、地下室に投げ込みます(シルエット表現)。 ラリーとミリッツァが駆けつけ、ラリーはエーデルマン博士を撃ちます。村人たちを率いたホルツ署長とスタインマールが城に着きます。警察はフランケンシュタインの怪物を攻撃しますが、怪物は攻撃を跳ね返します。エーデルマン博士は倒れて電子機器をショートさせ、ホルツ署長も感電死します。ラリーは倒れた棚の下でフランケンシュタインの怪物を捕まえます。現場は火事になり、村人たちは燃え上がる城から逃げます。燃える屋根はフランケンシュタインの怪物の上に崩れ落ちます。
 ――と、邦題の「せむし女」ニナは悩める狼男ラリーにも優しい純情な村娘で、都会女上がりの年増の魅力で治療を受けにきたはずのドラキュラ伯爵が結局本能に負けてしまう原因にもなるミリッツァ(ミリッツァに責任はありませんが)、いやミリッツァがいなかったらドラキュラ伯爵はニナに食指を伸ばしたかもしれませんが、観客がいちばん同情するであろうヒロインのニナの最期はあんまりです。エーデルマン博士の吸血鬼化はドラキュラ伯爵とは違う別人格になってしまうものなのが夢の場面からは暗示されているので、これまたサイレントからトーキーまで再三映画化されてきた「ジキル博士とハイド氏」のように形相まで変わってしまうもので、フランケンシュタイン・シリーズ中で言えば歴代作品中でも善悪の振幅がもっとも大きい科学者(化学者)です。この博士の描き方にはヒッチコックの『白い恐怖』'45に代表される当時のニューロティック(神経症的)・スリラーの要素が濃厚です。また吸血症・人狼症(人間版狂犬病)に対する「抗体」注射(輸血)による予防治療法、というのは当時発展目覚ましかった予防接種、ワクチン、という新型の医療法が反映しているはずで、日本ではペニシリンは昭和20年代前半、結核のワクチン治療も昭和28年頃にようやく導入されたので、ニューロティック映画としても最新医療の映画への反映としても本作はなかなか健闘しています。カート・シオドマクのような精鋭ライターならずとも、ユニヴァーサルの脚本家チームはさすがに時流を睨んだシナリオ作りができたということでしょう。ドラキュラ、フランケンシュタインの怪物、狼男、マッド・ドクター、せむし女、という趣向でも本作の寄せ集め方はなかなかどうして巧みなもので、ヒロインを二人にしたのも効いていれば、治療のため集まったのがぶち壊しに終わるのもお約束ながら効いています。おそらく狼男が治癒したラリーと純情なせむしの村娘ニナのハッピーエンドも検討されたでしょうし、最後はフランケン大暴れの大炎上はまたやりやがった感もありますが、次作かつ最終作がアボットコステロ主演のパロディ映画なら実質的なドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男の最終作は本作で、これだけ楽しませてくれれば御の字ではありませんか。強いて言えば、構成上ドラキュラ伯爵(ジョン・キャラダインがかっこいい)と狼男の絡みが作れない(ドラキュラは夜しか活動できないし、狼男はまともな時は夜の外出は自粛しているから)のがキャラダインとロン・チェイニーJr.競演なのにもったいないですが、『フランケンシュタインの館』でも前半ジョン・キャラダインのドラキュラ伯爵が死んでから後半のロン・チェイニーJr.の狼男登場になるので、作業効率上この二人の絡みは作れなかったのかもしれません。どのシリーズも第1作が名作だけに有終の美、とまでは言えませんが、プログラム・ピクチャー最終作としては十分ではありませんか。

●10月14日(日)
『吸血鬼蘇る』The Return of The Vampire (Columbia Pictures'43)*69min, B/W; アメリカ公開'43年11月1日
監督 : ルー・ランダース、カート・ニューマン
主演 : ベラ・ルゴシ、マット・ウィリス、フリーダ・イネスコット、マイルス・マンダー、ギルバート・エメリー、ニーナ・フォック
・200年前、ドラキュラの研究をするうちに自ら吸血鬼と化したテスラ教授。ロンドンが空襲された際に彼は蘇り、手下の狼男を従えて街を恐怖に陥れる。「魔人ドラキュラ」の怪優ベラ・ルゴシが再び主演している。

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 ユニヴァーサル社のドラキュラ・シリーズは先の『ドラキュラとせむし女』'45のあと、アボットコステロ主演のパロディ映画「凸凹~の巻」シリーズと合流してまたもやフランケンシュタインの怪物、狼男、ドラキュラ競演の『凸凹フランケンシュタインの巻』'48で製作費79万2,000ドルの大作にして興行収入320万ドルの大ヒット作になるのですが、本家ユニヴァーサルがドラキュラ第3作『夜の悪魔』'43を公開したのと同年に、もともと蓄音機とレコードの会社で映画では立ち遅れていたコロンビアが発表したのが本作です。ユニヴァーサル社の『魔人ドラキュラ』のヒット以来他社で製作された亜流吸血鬼映画でも、「ドラキュラ」という名称はユニヴァーサル社が登録商標していて使えなかった上に、東欧から来た中世の吸血貴族という設定では原作権も絡んで盗作訴訟が起こるので、本家ユニヴァーサル社を始めとして各社がこぞって知恵を絞り、『フランケンシュタイン』'31や『ミイラ再生』'32などはすぐに古典的風格を得ましたが、ユニヴァーサルが『狼男』'41を出せばRKOが『キャット・ピープル』'42で答えるという頃にはかなり身も蓋もなくなってきており、本家ドラキュラ伯爵のベラ・ルゴシが200年生きている吸血貴族アルマン・テスラに扮する本作はルゴシの吸血鬼役によって実質的な『魔人ドラキュラ』の派生作品でも最重要作に数えられています。映画はロンドン警視庁総監フレッドリック・フリート(マイルス・マンダー)卿がウォルター・サンダース教授(ギルバート・エメリー)の遺稿を読む体裁で始まります。1918年、夜の霧の煙る墓地で、狼男アンドレアス(マット・ウィリス)が墓に入り、目を覚ます時ですと呼びかけます。棺から手が蓋を持ち上げ、壁に影が現れ、棺の中から声が眠っている間に何が起きたかを尋ねます。狼男は、あるじの最新の餌物がエンズレー博士の診療所に連れられてきたと答えています。異常な血液欠乏で入院した女性患者に悩んだ女医のレディー・ジェーン・エンズレー医学博士(フリーダ・イネスコット)は、友人のサンダース教授(ギルバート・エメリー)を呼びます。二人が患者について議論していると、子供たちがやってきます。レディー・ジェーンの息子ジョン、サンダース教授の孫娘ニッキーを寝かしつけて医師たちは議論に戻りますが、ニッキーの悲鳴が上がります。サンダース教授はその夜、吸血鬼を自称するアルマン・テスラが200年前に書いた吸血鬼に関する本を読みます。その夜女性患者は吸血痕を残して死に、翌朝、教授は、死んだ患者の首の吸血痕をレディー・ジェーンに示し、吸血鬼による事件と主張します。レディー・ジェーンはニッキーの首に同じ噛傷を見るまで半信半疑です。サンダース教授とレディー・ジェーンは墓地に行き、吸血鬼の棺を探します。吸血鬼の心臓に杭を打とうとする教授たちの前に、狼男が現れ阻止しようとします。しかし杭を打つ方が早く、吸血鬼が死ぬと、狼男は人間の姿に戻ります。映画はここまでで15分で、24年が過ぎ、飛行機事故死したサンダース教授の遺稿をロンドン警視庁でフレッドリック卿が読む冒頭につながります。フレデリック卿はレディー・ジェーンに、教授たちが吸血鬼と主張している男の遺体を見つけると伝えます。杭を打ったのが死因ならレディー・ジェーンは殺人罪になるからです。レディー・ジェーンはフレデリック卿に、自分と教授が滅ぼした男は200歳で、吸血鬼伝の著者アルマン・テスラだと説明します。フレデリック卿は頑として吸血鬼伝説を信じません。診療所に戻ったレディー・ジェーンを息子のジョン(ローランド・ヴァルノ)、そしてサンダンス教授の孫娘、ニッキー(ニーナ・フォック)が迎えます。二人は成人して婚約予定です。二人は銃後の軍務についており、レディー・ジェーンはフレデリック卿の話を息子ジョンに相談します。ジョンは心配しますが、吸血鬼の遺体は通常の人間と違うから発見されても殺人にはされない、と母に聞いて一応安心します。母子はニッキーの記憶を覚まさないようにこの話は秘密にすることにしますが、狼男から善良な人間に戻ったあとレディー・ジェーンの看護助手をしているアンドレアスは遺体の捜索に動揺を隠せません。ロンドンの空襲が始まり、墓地の整備をしていた人夫たちは、テスラの遺体に刺さった杭を爆弾の破片と思って抜いてしまいます。アルマン・テスラは蘇り、抵抗するアンドレアスを再び下僕にして、サンダース教授の死も自分の呪縛でアンドレアスが工作したのだと暗示し、さらにテスラがすり替わるために、ナチスの収容所から逃れてレディー・ジェーンがロンドンに招いたヒューゴーブルックナー博士を殺させます。フレデリック卿とレディー・ジェーンは翌日墓地を訪れますが、爆弾が地面に空けた穴を見てフレデリック卿は事件の終結を宣言します。その晩、ジョンとニッキーの婚約祝いのパーティーが開かれます。フレデリック卿はサンダース教授の遺稿を孫娘ニッキーに渡そうとしますがレディー・ジェーンは忌まわしい記憶だからと反対し、預かって戸棚にしまいます。ブルックナー博士になりすましたテスラがパーティーに現れ、賓客としてもてなされますが、フレデリック卿は本人かどうか疑います。パーティーが終わり、レディー・ジェーンは戸棚がこじ開けられ、教授の遺稿が盗まれたのを見つけてフレデリック卿を呼び、フレデリック卿は戸棚に付着していた毛を見つけて採取します。ニッキーは寝室で祖父の遺稿を見つけ、読みふけるうちに自分を呼ぶ幻聴を聞きます。誰?と問うニッキーに、声は昔会っただろう、と答えます。翌朝、ジョンとレディー・ジェーンは寝室で倒れて、首筋に噛傷のあるニッキーを見つけます。ジョンは動揺し、レディー・ジェーンは吸血鬼の蘇生を確信します。再び墓地を訪ねたレディー・ジェーンは、テスラの指輪を遺体から盗ったという人夫の証言を取ってフレデリック卿に訴えますが、やはりフレデリック卿は吸血鬼の存在を信じず、念のため二人の私服刑事にアンドレアスを尾行させることにします。私服刑事の尾行中アンドレアスは狼男に変化し、刑事に追われて書類を落とします。フレデリック卿は書類をブルックナー博士の手稿と確認し、パーティーに現れたのは博士の偽者と疑惑を強め、さらに採取した毛は狼の毛という鑑定報告を受けてアンドレアスを疑います。
 ――この映画は長さの割にシーンが細かくてあらすじを追うのも疲れますが、頑張って続きを書くと、その夜、再び眠るニッキーに吸血鬼の声が呼びかけ、ジョンの寝室へ行けと命じます。翌朝、寝室で倒れていたジョンにはやはり首筋に噛傷があり、うなされるジョンにレディー・ジェーンはニッキーの無意識の吸血鬼化を確信しますが、ニッキーにはテスラがジョンを襲ったと話します。フレデリック卿とレディー・ジェーンは教授の遺稿についてアンドレアスに詰問し、アンドレアスの手は獣化しかけますが、完全に狼男化する前にアンドレアスは逃げ出します。フレデリック卿は偽者のブルックナー博士に二人の私服刑事を尾行させますが、吸血鬼は見抜いて出し抜きます。吸血鬼テスラはオルガンを引くレディー・ジェーンの自宅に影から現れ、正体がばれてしまったからには復讐を始める、ニッキーとジョンを吸血鬼化すると脅しますが、レディー・ジェーンはオルガンの楽譜を取り除け楽譜台の銀の十字架を吸血鬼に見せつけます。吸血鬼は悲鳴を上げて消えます。駆けつけたフレデリック卿とレディー・ジェーンが広間で論議していると、寝室から夢遊状態のニッキーが降りてきます。フレデリック卿とレディー・ジェーンはニッキーの後を跡けます。ニッキーは声に導かれて吸血鬼テスラと狼男化したアンドレアスが待っている墓地に着きます。フレデリック卿は狼男を撃ち、サイレンが止まって空襲が始まります。爆弾の落下の中で狼男は気絶したニッキーを抱いて運び、墓穴の中のテスラに助けを求めます。吸血鬼は狼男に用済みだと言い、狼男は隅に這っていき、十字架を見つけます。十字架から悪に打ち勝つよう天の声が聞こえ、アンドレアスの狼化は解けます。爆弾が墓地を直撃し、瓦礫の中からニッキーが起き上がると、ニッキーはアンドレアスが意識不明のテスラを瓦礫から掘り出すのを目撃します。陽が昇り始め、吸血鬼は日光を浴びて分解し始め、アンドレアスは杭を打ってとどめを刺すと、自分も負傷で息絶えます。爆撃中避難していたフレデリック卿とレディー・ジェーンが私服刑事たちと墓地に戻り、ニッキーからテスラとアンドレアスの最期を聞きます。まだ吸血鬼の存在を信じない?とレディー・ジェーンに訊かれたフレデリック卿は信じられんさ、と答え、君たちはどうだ、と訊かれた部下の私服刑事たちはレディー・ジェーンに同意し、面食らったフレデリック卿は観客を向いて"Do you people?"と尋ね、エンドマーク。……と、ようやく映画は終わりますが、製作費7万5,000ドルの低予算映画で興行収入(純益)50万ドルを上げたのですから、商業的には一応かなりのヒット作になったのは、ベラ・ルゴシの吸血鬼役が「ドラキュラ」の商標名なしでも観客を集めたということでしょう。ルゴシは本作は週給3,500ドル、撮影期間は正確にはわかりませんが当時のハリウッドなら3週間~6週間だったはずで、ルゴシのギャラだけでも製作費が持っていかれたのは想像がつきます。しかしこうしてユニヴァーサルのフランケンシュタイン・シリーズ、狼男シリーズ、ドラキュラ・シリーズと見てきてから本作を観ると、やたらと細かくシークエンスを割ってある割には線が細い。趣向としては1918年、現代、と二段構えの構成になっている、主人公が狙われるヒロインを守る博士ではなく博士そのものがヒロイン、という点に工夫があり、女探偵レディー・ジェーン医学博士というのは面白いですし、このヒロインにも魅力は十分あるのですが、1918年のレディー・ジェーンも1942年のレディー・ジェーンも24年経ってもまるで容貌に変化がなく、1918年編は冒頭15分きりですし白衣を着て病院ですからすっぴんに近いはずですが、あまり二段構えにした効果もないのです。これなら伝え聞きとして別人の回想にした方がすっきりするとも、そうしないで永遠の20代のヒロインにしたのが二段構え構成で変な効果を生んでいるとも言え、だいたいこの冒頭15分の1918年編はルゴシは声だけの出演で、棺から手だけ出しているのは代役と思われますし、1942年編になってもルゴシがまともに正面姿で動いて映るのはジョンとニッキーの婚約パーティー場面からなので、この映画は前半1/3、印象では映画中盤まで(今確かめたらパーティー前に狼男アンドレアスを墓地に呼び出す23分目に初めて立っているだけの正面ショットがありますが)ルゴシが出ないので、そうしたもったいぶり方がさまになっているかというと出し惜しみくさいあたりもどこかいびつです。ユニヴァーサル・ホラーだって奇蹟の一発がいくつかあり、シリーズ化したのはそういう奇蹟の一発が第1作になっただけとも言えますし、出来不出来で言えば本作だってユニヴァーサル作品に互してそうそう大差ないようにも見えますが、どこか欠けるとすれば明快さで、ユニヴァーサル・ホラーの諸作は観たあと人に訊かれてすぐあらすじをしゃべれるような口承性、伝播性がありますが、この『吸血鬼蘇る』はストーリーに焦点が拡散していて訊かれてもどこから話したらいいのかわからない。視点人物も(後半1942年編で言えば)レディー・ジェーン博士、フレデリック卿、狼男アンドレアス、狙われる娘ニッキーと分散しています。これはこれで70分弱楽しく観られる本作が、ユニヴァーサル作品とは違うなと感じられるのはそこで、低予算映画にないものねだりとは言えシナリオに難ありの観は否めません。