人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

スタン・ゲッツ・フィーチャリング・アストラッド・ジルベルト - 春の如く It Might as Well Be Spring (Verve, 1964)

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スタン・ゲッツ・フィーチャリング・アストラッド・ジルベルト Stan Getz Quartet Featuring Astrud Gilberto - 春の如く It Might as Well Be Spring (Richard Rodgers, Oscar Hammerstein II) (Verve, 1964) : https://youtu.be/G6Z6ZYNyQbE - 4:27
Recorded live at Carnegie Hall, New York City, October 9, 1964
Released by Mercury/Verve Records as the album "Getz Au Go Go", Verve
V6-8600, Mid December 1964
[ Stan Getz Quartet Featuring Astrud Gilberto ]
Stan Getz - tenor saxophone, Astrud Gilberto - vocals, Gary Burton - vibes, Chuck Israels - bass, Joe Hunt - drums, Kenny Burrell - additional guitar

 このライヴ・アルバム『ゲッツ・オウ・ゴー・ゴー』は全10曲中6曲のアストラッド・ジルベルトのヴォーカルはなんとスタン・ゲッツ・カルテットのライヴ音源を編集してアストラッド・ジルベルトのヴォーカルをスタジオ録音し(つまりテナーによるテーマ部分をほぼ全面カットし、オブリガード部分に使える部分のみ残したもの)、ケニー・バレルのギターを4曲のみスタジオでオーヴァーダビングしたものらしく、また'64年5月のカフェ・オウ・ゴー・ゴーでのライヴ6曲と'64年10月のカーネギーホールでのライヴ4曲を合わせてあり、ゲッツとヴィブラフォンゲイリー・バートン以外のベースとドラムスは5月と10月のライヴでは変わっています。しかしゲッツの6作あるヴァーヴ時代のボサ・ノヴァ・アルバムでは最初の『ジャズ・サンバ』と突出した歴史的アルバム『ゲッツ/ジルベルト』を別格とすれば、いちばん親しみが持てる小品佳作の趣きがあるのではないかと思われるアルバムが『ゲッツ・オウ・ゴー・ゴー』で、本作がリリースされた頃ジョン・コルトレーンは『至上の愛』を作っており、同格の大物としてスタン・ゲッツ・カルテットとジョン・コルトレーン・カルテットは同じクラブに代わりばんこに出演して白人テナーと黒人テナーのトップクラス同士尊敬しあい、たがいのステージをよく見て学びあっていたといいますから大したものです。
 この曲「春の如く」は本来ボサ・ノヴァ曲ではないバラード曲で、映画『ステート・フェア』'45の主題歌でアカデミー賞主題曲賞を受賞したスタンダード曲で、メロディーやコード進行も爽やかで清潔感があるため、もともとくどかったり黒っぽかったりするアレンジでは生かせないというバッパー向けではない曲で、クリフォード・ブラウンビル・エヴァンスが良い演奏を残していますが非常にセンスが問われる曲で、ブラウン以外の黒人ジャズマンではケニー・ドーハムアイク・ケベック(アルバム・タイトル曲に採用、黒人なのにゲッツ派テナーだったちょっと変わった人)も好演を残し、エラ・フィッツジェラルドサラ・ヴォーンも歌っていますが、いずれも原曲通りバラード・テンポで採り上げています。これをポルトガル系白人貴族のブラジル人、ジョアン・ジルベルトの夫人アストラッドが歌などこの年初めて歌ったという脱力息声鼻歌素人女性ヴォーカルという稀代のスタイル(アストラッドはチェット・ベイカーのファンで、チェットとデュエットさせてやると乗せられて歌手デビューしたそうですが)で歌って元来バラードのこの曲を一変させてしまったのは同年のビートルズの世界的ブレイクと匹敵する女性ヴォーカル・スタイルの発明で、ポップスの歌唱力の基準はアストラッド・ジルベルトのデビューで画期的な変革を遂げました。スタン・ゲッツ・カルテットの演奏もモダン・ジャズの美学的表現を一新させるもので、黒人ジャズのイディオムとはまったく違ったものをさらっとやってのけた演奏です。ジャズとしては本当にぎりぎりの際で成立しているヴァージョンで、これに関してはゲッツの妙技にお手上げというしかありません。