人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アート・ファーマー Art Farmer - アイ・ウェイテッド・フォー・ユー I Waited for You (Atlantic, 1965)

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アート・ファーマー・カルテット The Art Farmer Quartet - アイ・ウェイテッド・フォー・ユー I Waited for You (Walter Gil Fuller, Dizzy Gillespie) (Atlantic, 1965) : https://youtu.be/a87GmG9KauM - 5:55
Recorded at Atlantic Studios, New York City, March 12, 16 & 30, 1965
Released by Atlantic Records as the album "Sing Me Softly of the Blues", Atlantic SD 1442, 1965
[ The Art Farmer Quartet ]
Art Farmer - flugelhorn, Steve Kuhn - piano, Steve Swallow - bass, Pete LaRoca - drums

 ディジー・ガレスピーのオリジナル曲は「チュニジアの夜」「ソルト・ピーナッツ」「グルーヴィン・ハイ」「ウッディン・ユー」「ティン・ティン・ディオ」「ワン・ベース・ヒット」などがすぐに上がってきますが、意外なバラードの名曲がアレンジャーのギル・フラーと共作し念願の自分自身のビッグバンドで'46年に初録音したこの曲で、ガレスピーが生涯この曲を愛奏曲にして数多くの再録音を残している割にはスタンダードというほどの認知を受けていない曲です。ビ・バップの創始者だったガレスピーも生まれ育ちはビッグバンド全盛期の世代だったのでチャーリー・パーカーとのコンビを解消したあとはビ・バップ最高の人気ジャズマンとしてビッグバンドを結成しましたが、ガレスピーのビッグバンドはバンドの経営維持に苦労して解散・再編成をくり返すことになり、またレコーディングも膨大だったためこの曲のオリジナル・ヴァージョンは'80年代にコンピレーション・アルバムに編まれるまでLP化されませんでした。アート・ファーマーのヴァージョンを聴くととても'46年の曲とは思えない曲想に驚きますが、もともとのディジー・ガレスピー・オーケストラのヴァージョンも斬新な和声アンサンブルを持っており、ヴォーカル入りビッグバンドの通例でバンド・アンサンブルがフルコーラスをとったあとヴォーカルが1コーラス歌う、というフォーマットです。この曲はマイルス・デイヴィスも活動が不安定だった時期の'53年にブルー・ノート社へのオールスター・セッションで録音しており、この時はフロントにマイルスのほかJ・J・ジョンソン(トロンボーン)、ジミー・ヒース(テナーサックス)を迎えたセクステットでしたが、全6曲のセッション中このバラード曲だけはジョンソンとヒースを外してマイルスのトランペットとピアノ・トリオだけの演奏で通しており、バラードは通常テンポの問題でどうしても1コーラスが長くなるのでソロイストが多いと冗長になるためマイルスはバラード曲の場合は他のソロイストを休ませてトランペットの1ホーンのみにするのがたびたびありました。
 マイルスの演奏も見事なものですが、ファーマーのカルテットを聴いて気づかされるのは、ケニー・ドーハムジャッキー・マクリーンハンク・モブレー、さらに早熟だったため年少なのにほぼ同世代と言えるリー・モーガンら、ハード・バップ全盛期にファーマーと同様個性を確立した有力な黒人ジャズマンらが、'60年代ジャズの潮流に乗ろうと好アルバムを作り出しながらも、和声感覚では新世代のジャズマンに並ぶ革新を遂げられなかったことで、その点でもマイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンは先進的な存在であり続けていたことになります。しかしアート・ファーマージム・ホールやスティーヴ・キューンを起用してまったく従来のバップ系ジャズの和声感覚とは異なるサウンドの中でも通用するスタイルを見せていたので、これは同時期ソニー・ロリンズがやはりジム・ホールポール・ブレイを起用して和声感覚の革新を図るも、ロリンズ自身のプレイが試行錯誤の目立つ必ずしも成功とは言えないものだったのと較べると、ロリンズすら差し置いてなぜファーマーがマイルスやコルトレーンに並ぶような'60年代ジャズの先端を行くサウンドを達成し得たかが不思議になってきます。ディジー・ガレスピーのオリジナル・ヴァージョン、マイルス・デイヴィスのヴァージョンと較べてもファーマー版の「アイ・ウェイテッド・フォー・ユー」は確実に新しくて、しかもキューン、スワロウ、ラロカら若い世代のメンバーの力だけでなくファーマーの演奏にそれを引き出す力がある。ぜひ三者三様の「アイ・ウェイテッド・フォー」をお聴きください。

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Dizzy Gillespie and His Orchestra - I Waited For You (Musicraft, rec.1946) : https://youtu.be/Z0lSEWyqmLs - 3:05
Recorded in New York City, November 10, 1946
Originally Released by Musicraft Records as 10"Shellac "Salt Peanuts / I Waited For You", Musicraft 518, 1948

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Reissued by Musicraft Records as Compilation album "One Bass Hit", MVS-2010, 1986
[ Dizzy Gillespie and His Orchestra ]
Dizzy Gillespie - trumpet, leader, Dave Burns, Matthew McKay, John Lynch, Elmon Wright - trumpet, Alton "Slim" Moore, Taswell Baird, Gordon Thomas - trombone, John Brown, Scoops Carey - alto saxophone, James Moody, Bill Frazier - tenor saxophone, Pee Wee Moore - baritone saxophone, Milt Jackson - vibraphone, John Lewis - piano, Ray Brown - bass, Joe Harris - drums, Kenny Hagood - vocal

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Miles Davis All Stars - I Waited For You (Blue Note, 1953) : https://youtu.be/fbyqjBZnEco - 3:31
Recorded in New York City, April 20, 1953
Originally Released by Blue Note Records as 10"album "Miles Davis, Volume 2", as BLP 5022, 1953
Reissued by Blue Note Records as 12"album as BLP 1502, 1956

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[ Personnel ]
Miles Davis - trumpet, Gil Coggins - piano, Percy Heath - bass, Art Blakey - drums