人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

フランク・シナトラ Frank Sinatra - コートにすみれを Violets For Your Furs (Capitol, 1954)

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フランク・シナトラ Frank Sinatra - コートにすみれを Violets For Your Furs (Tom Adair, Matt Dennis) (Capitol, 1954) : https://youtu.be/phThdfDgALU - 3:06
Recorded at Capitol Studios, Hollywood, November 5, 1953
Released by Capitol Records as the 10" album "Songs for Young Lovers", Capitol H-488, 1954
[ Personnel ]
Frank Sinatra - vocal, Nelson Riddle & His Orchestra

 この曲は作者チームがトミー・ドーシー楽団のために'41年に書き下ろした曲で、ドーシー楽団在籍の歌手フランク・シナトラが歌うドーシー版のレコードが初お目見えになりました。当時シナトラは26歳、デビューは'39年ですから'33年に18歳でデビューした同年(1915年)生まれのビリー・ホリデイとはこの時点では大きな開きがあり、シナトラのデビュー年にはビリーは自作曲「奇妙な果実」を発表していたのを思うと男性歌手と女性歌手の違いも考えさせられます。しかしイタリア系白人歌手シナトラの出世は急速で、ほんの数年で国民的歌手の座に登りつめ、対して黒人混血歌手のビリーはジャズや黒人音楽のリスナーの間でしか知名度は上がりませんでした。'50年代には大歌手になったシナトラはゴージャスなストリングス・オーケストラをバックにしたエレガントな歌唱のアルバムの連発でますます広い人気を得たので、ドーシー楽団在籍時のこの曲も再録音で光り輝くスタンダード曲になり、さまざまなカヴァーを生み出します。ビリー・ホリデイは急逝する前年のアルバム『レディ・イン・サテン』で、それまで稀にシングル単位でしか機会がなかった全編ストリングス・オーケストラによるアルバムに挑みますが、同作はビリーによるシナトラへの真っ向からの挑戦でもあり、シナトラのレパートリーを意図的に多く採り上げたアルバムでした。シナトラがヴァース(歌の前置き)から歌っているのに対してビリーはストレートにヴァースを省略して歌っていますが、晩年のビリーは声の荒れ、声量の衰えで本来の持ち味だった軽やかさや暖かみ、リズム感の鋭さが失われており、この曲の歌唱も悲痛さを感じさせるものになっています。

 ビリーがカヴァーする以前にシナトラのヴァージョンによってカヴァーしたジョン・コルトレーンのヴァージョンは一気にこの曲をテナー・サックス向けのレパートリーに押し上げた名演ですが(ヴァース省略)、チャールズ・ミンガスのバンド出身の白人テナー奏者J・R・モンテローズのヴァージョンはコルトレーンを参考にしたと思われるものの、ヴァースから入りサブ・トーンを効かせた渋いもので、モンテローズ以外のメンバーが全員黒人ジャズマンという以上にコルトレーンのヴァージョンより黒っぽいニュアンスに富んでいるのが聴きものです。それとともにモンテローズのテナーはどこか古さを感じさせるのは否めず、コルトレーンの音色の癖のなさ、新しさを感じずにはいられないので、シナトラとビリーの対照と同様の対照が白人と黒人は逆転していますがここにも見られるのが、一見平易なこの曲の難しさを物語っているようです。

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Billie Holiday with Ray Ellis and his Orchestra - Violets for Your Furs (Columbia, 1958) : https://youtu.be/2nh6O05DVaU - 3:24
Recorded at Columbia 30th Street Studio, New York City, New York, February 19, 1958
Released by Colubia Records as the album "Lady In Satin", CL 1157(mono) and CS 8048(stereo), June 1958
[ Billie Holiday with Ray Ellis and his Orchestra ]
Billie Holiday - lead vocals, Ray Ellis & His Orchestra

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John Coltrane - Violets For Your Furs (Prestige, 1957) : https://youtu.be/b4bTWo2HkzA - 6:18
Recorded at The Van Gelder Studio, Hackensack, May 31
Released by Prestige Records as the album "Coltrane", Prestige PRLP 7105, Late 1957
[ Personnel ]
John Coltrane - tenor saxophone, Red Garland - piano, Paul Chambers - bass, Albert "Tootie" Heath - drums

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J. R. Monterose - Violets For Your Furs (Jaro International, 1960) : https://youtu.be/yyBi59FdxmY - 2:45
Recorded in New York, November 24, 1959
Released by Jaro International Records as the album "The Message", JAS-8004, 1960
[ Personnel ]
J. R. Monterose - tenor saxophone, Tommy Franagan - piano, Jimmy Garrison - bass, Pete La Roca - drums